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木質の偽造ペレット工場

東方の二次創作SSです。いぢめ・グロ注意

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歩け! イヌバシリさん ― 東行西走/刀工製想 ―

『歩け! イヌバシリさん vol.12(完)』の後日談になります。


《登場人物》

犬走椛:哨戒部隊の隊長を務める白狼天狗。数々の死闘を経て、ようやく平穏を手に入れた。
    先日、部下に誘われて参加した料理教室で、クッキーカッターは拷問用の道具でないという事を初めて知った。

射命丸文:鴉天狗の新聞記者。椛の事を好いている。
     先日、愛用の葉団扇の先端がなんかパリパリし始めたので、新しいのに買い替えた。

姫海棠はたて:鴉天狗の新聞記者。天魔の唯一の血縁者。そのせいか、やたらと高機動。
先日、普段よりもすごい念写が出来るのではと思い、高価なポラロイドカメラにチョップしたが、ただ壊れただけだったので、三日くらい凹んだ。

河城にとり:河童のエンジニア。とんでも発明を繰り返す。椛との友達歴は非常に長い。
      先日、キュウリの栄養価が他の野菜よりも低い事を知り、軽いショックを受ける。

天魔:最強・最古の天狗にして、天狗社会の最高統括者。はたての血縁者。見た目は童女。妖怪の山屈指の甘党。
   先日、カカオ99%チョコレートを食べて死にかけた。

大天狗:天狗社会の序列二位。椛とは長い付き合い。長身の女性天狗。永遠の花盛り。
    先日、身長を測ったら去年より2cm伸びていた。
大天狗の屋敷。
事の始まりは、ここの家主である妙齢の女性と犬走椛の雑談から始まった。


「彼氏欲しい」
「獲物を探す猛禽類みたいな目をして言う言葉じゃないですよね?」

もう何千回聞いたかわからない上司に言葉である。

「地面から生えてこないかしら?」
「そんな都合の良い」
「人里じゃ、色んなモノが付喪神化して、美男美女の数が増えたそうじゃない。私の私物も良い男になんないかしらね」
「そういえば、どこかの家に祀ってあった宝刀が美少年になって、持ち主と入籍したって記事を最近読みました」
「マジでっ!?」

思わず身を乗り出す大天狗。

「その記事によると、付喪神化した刀剣は、美男になる確率が高いんだとか」
「刀剣ねぇ、家に喪神化しそうな古い名刀、なんかあったかしら…」

顎に手を当てて「刀剣、刀剣」と呟く。

「昔、牛若丸に上げた今剣(いまのつるぎ)くらいしか、思い当たるのがないわね」
「あの剣、貴女様のだったんですか?」
「うん。元々は超長い私専用の太刀だったんだけど、餞別として小刀に打ち直して、守り刀としてプレゼントしたのよ」
「そんな逸話が」
「返ってこないかしら今剣…」
「もう無理だと思いますよ」

今剣の行方は、以前不明のままである。

「そうそう。刀で思い出したけど。モミちゃんの刀、書類審査が通ったわよ」
「やっとですか」

哨戒の任に就く白狼天狗の武装は、支給された物以外は携帯禁止となっているが、隊長格には『審査が通った武器・防具に関しては携帯を許可する』という特権があった。
椛は、守矢神社との発電所騒動がひと段落した折に、にとりが自分専用に設計してくれた刀を申請していた。
哨戒中も身に着けておきたかったためわざわざ申請した。

「これでようやく作る事ができます」

これから製造する武装を申請する場合、書類審査が通るまでは製造に着手する事が禁止されていた。

「はいこれ。書類審査通過の通知書」

達筆な文章が羅列し、複数の上級天狗の印が捺された和紙を受け取る。

「設計図を見た技術部門の連中が褒めてたわよ。『実用性に優れ。あらゆる場面で取り回しが利くだろう』って」
「当然です。にとり渾身の一作なのですから」

刀の銘は自分の真名である『※※※』であるため、にとりはかつてないほど真剣に設計に取り組んでくれた。

「こんな良い刀なんだから、名前くらい付ければ良いのに」
「いえ。無銘のままで結構です」

もっとも、申請書には『無銘』で提出しており、その刀の真の銘を知る者はごく一部である。

「勿体無いわね、材質も良い物を使ってるし、完成したら間違いなく名刀になるのに」

大天狗は椛が申請した書類をぱらぱらと目を通す。

「製造を依頼してる鍛冶屋だって、結構有名な所だし……ん?」

申請書類の一つである、製造工程表(どのような手順で作るかが記された予定表)を見ていた大天狗は、怪訝な顔をした。

「この鍛冶屋って確か」

刃は本職に任せた方が良いと判断したため、刀身の作成は鍛冶屋に依頼してあるのだが、その鍛冶屋の名に大天狗は引っ掛かるものを感じた。

「思い出した」
「どうしました?」
「裏情報だから本当は言っちゃ駄目なんだけど、近々そこの鍛冶屋、無くなるわよ」
「はい?」
「今の当主から腕が大幅に落ちちゃってね。来週にでも、大手製鉄会社の河童重工に吸収合併の予定よ」
「じゃあ、私の依頼は…」
「なかった事にされるでしょうね」

椛の顔が青ざめる。

「実物審査は、一か月後ですよね?」
「そうよ。一か月後にちゃんと出来上がった刀を持って来ないと駄目よ。その通知書には偉い連中の印鑑が捺してあるんだから、一日の遅れも許されないわよ?」

出来上がった武装を提出し、確認を受けるのが実物審査である。図面通りに出来ていると認められれば、晴れて携帯が許可される。

「用意できないと、どうなります?」
「今後一生、その刀が申請を通る事はないわね」
「…」

静かに頭を抱える。大して思い入れの無い武器だったら諦めただろうが、今回は事情が違う。

「鍛冶屋に頼まず、にとりに造って貰うって事は?」
「隊長格が身に着ける装備になるのよ? 天狗から認定を受けてる鍛冶屋以外で作ったら駄目って規約になかった?」
「普通に見積もって、これから鍛冶屋を探す所から始めて、一ヶ月以内に特注の刀って作れます?」
「無理じゃないかしら? 普通の白狼天狗じゃ」

依頼を受けてくれる鍛冶屋を飛び込みで探すのだ、ツテやコネがなければ不可能である。

「そもそもなんで一ヶ月しかないんですか。短すぎでしょう」

制度に八つ当たりをする椛。

「ぶっちゃけると。この制度を作った上層部が『白狼天狗が製造に一ヶ月以上掛かる武装を所持するなんて生意気』っていう思想を持ってるから」
「…」
「できる?」
「そこまで言われたらやってやりますよ! どの道、作るしかないんです! 完成させてやりますよ! あっちこっち走り回ってでも!!」





歩け! イヌバシリさん ― 東行西走 / 刀工製想 ―


======== 〔 工程表 〕 ======== 

 mission1:刀匠確保 ~ 大天狗 ~

 mission2:研師確保 ~ 天魔 ~

 mission3:鍛冶鍛錬の安全祈願 ~ 守矢神社 ~

 mission4:柄の素材集め  ~ 河城にとり ~

 mission5:鞘師確保 ~ 姫海棠はたて ~

 mission6:手入れ道具購入 ~ 射命丸文 ~

 奉献式

========================





【 mission1:刀匠確保 ~ 大天狗 ~ 】


「とは言ったものの…」

たった今、威勢よく啖呵を切ったものの、アテがない椛はすぐさま縮こまってしまう。

「そんな刀造りで焦るモミちゃんに朗報です」
「なんですか突然?」
「実は私が贔屓にしてる鍛冶屋があるんだけどね。腕は妖怪の山で一二を争う腕前の」

何も書かれていない巻物を見せる。

「私がこれに一筆したためて印鑑を押せば紹介状になるわ。持ってけば、優先で刀を打ってくれるわよ。欲しい?」
「そりゃあ、当然です……しかし」

朗報であるにも関わらず、彼女の顔は浮かない。

「どうしたの?」
「大天狗様が贔屓にするって事は、かなり高い依頼料って事でしょう? そんな予算はありません」
「あれ? モミちゃん、製造前に申請する事のメリットを知らないの?」
「なんですかそれ?」
「『書類審査通過後、予期せぬアクシデントで製造が困難になった場合、一定の補助を行う』って規約があるのよ?」
「規約?」
「申請書に、刀の製造で掛かる予算を記入したでしょう? その予算からオーバーした分は、こっちが負担するわ」
「そんな事してくれるんですか!?」

異例過ぎる好待遇に驚愕する。

「偉い連中の印鑑が捺されてるのよ。それくらいの面倒は見るわよ。元々この制度自体『日頃頑張ってる下級天狗へのご褒美』っていうのが表向きだし」
「では、大天狗様の紹介状があれば問題なさそうですね」
「ただ。紹介状を書くにあたって、一個お願い聞いてほしいんだけど」
「そんな事だろうと思いましたよ」

餌を目の前にチラつかせて、厄介事を押し付ける。何度こんなやり取りをしたのかは、もう数えきれない。

「今度は誰を始末するんですか?」

冗談っぽい口調で椛は言う。

「そんな物騒なモノじゃないから。まずは、いつもの二人を呼んで来てくれない?」
「あの二人ですか?」
「これを一緒に見て欲しくてね」

部屋の隅に目をやる。本の山が四つあった。全冊合わせれば、天井に届くだろう。

「なんですかこれ?」
「お見合い写真」
「見合い?」
「世界規模で運営してる人外向け結婚相談所があるって知って会員登録したら、これが送られてきたのよ」

本は一つ折のアルバムで、開くと右側に全体写真、左側にプロフィールと理想とする女性像が記載されている。

「とうとう異国の怪物まで守備範囲に入れちゃいましたか?」
「……そろそろ真剣に、子孫を後世に残しておかないとヤバイ気がして」

顔を背けながら答える。

「なんかもう、『女として』と言うより、種族の本能として婿探ししてません?」
「いやいやいや。まだ女としての幸せを掴みたいって気持ちの方が強いからね?」
「どれくらいの割合で?」
「女としてが六、種族としてが四って所かしら」
「かなり接戦じゃないですか」

話をお見合い写真に戻す。

「んで今月、この写真のメンツが集まる婚活パーティがあるのよ」
「参加するんですか?」
「当然よ。これで良い出会いがあれば、私が天狗初の国際結婚者ね」
「昔、夜叉天狗の奴が、異国から渡って来た霊獣と結婚して、姿をくらませてますよ?」
「相手は中国の霊獣でしょ? あの国と天狗は昔からちょいちょい交流があるし、ノーカンよノーカン」
「まぁ別に、私は誰が初だろうと、どうでも良いですけど」
「それに、私がこれから会う妖怪達は欧州出身よ。今回は日本勢と欧州勢の婚活パーティなの」
「おーしゅう?」

言われても全然ピンとこなかった。

「ヨーロッパとも言うわね。噂じゃアッチの妖怪は、若い奴はお洒落で爽やか。老ければ顔の彫りが深くなってダンディ化するとか。私の眼鏡に適いそうなのが沢山いそうだわ」
「どこ情報ですかソレ?」
「それで、今の内にお見合い写真の中から、旦那候補を選定しとこうかと思ってたんだけど、この量じゃない?」
「人手が欲しいと?」
「そう」

自分一人で全てに目を通すのは骨が折れるため、気心の知れた相手に協力を仰ぎたかった。

「文ちゃんは、取材で他の人妖と接触してるから選球眼が高いし、はたてちゃんは若い子のトレンドに詳しいから」
「あの二人への報酬はちゃんと用意してあるんでしょうね?」
「もちろん。ちゃんと労働に見合う対価は用意しとくわ」

そう約束して、大天狗は使役する鴉を数羽、庭から飛ばした。










妖怪の山の、とある森の中。

「わああああああああああ!!」
「ひいいいいいいいいいい!!」

射命丸文と姫海棠はたては、絶叫しながら森の中を全力で駆け抜けていた。

「はたての嘘つき! 何が『スカイフィッシュの巣を見つけた』ですか!?」
「だってあんな見た目じゃ誰だってそう思うじゃん!!」

飛行する、透明で細長い物体の大群が、二人を追いかけていた。

「あれは妖怪化して巨大化&飛べるようになったホウネンエビの群れです!!」
「それはそれでスゴくない!? スクープじゃん!」
「あんな、見ただけで呪われそうなフォルムの化物をカメラに納めても、B級記事にしかなりませんよ!」

木々が邪魔して思うように速度を上げられない二人。群れとの距離が徐々に狭まっていく。

「彼らを撒きますよ! 合わせてください!」
「うん!」

文は着地し、扇を手に身を翻す。

「はぁ!!」

扇を一閃。彼女を中心に竜巻が起こり、巻き上げられた土砂が煙のように周囲を覆う。

「今です!」
「わかってる!」

はたてが携帯型カメラを正面にかざす。シャッター音と同時に、空間の一部が立方体に切り取られ、その空間だけ視界がクリアになる。
そこが再び土砂で曇るよりも先に、二人は通り抜けた。






森を抜け、文とはたては立ち止まる。
二人とも全速力だったため、両肩で荒い呼吸を繰り返していた。

「ここまで来ればなんとか」
「も、もう走れない」

振り返り、追ってこない事を確認する。

「来てる?」
「いえ、いませんね」
「良かったー」

安堵し、座り込むはたて。

「私達が巣に不用意に近づいたから襲ってきただけで、それほど好戦的ではないのでしょう」
「何匹かがぶつかったけど、プニョプニョして全然痛くなかった」

見た目が不気味なだけで、無害だった事に気付く。

「まぁ、あれはあれで記事になるでしょうし。第一発見者の貴女が記事にしなさい」
「良いの?」
「私はもっと面白そうなのを探してみます」

そんな時だった。大天狗の鴉が二人の前に降り立ったのは。











招集を受けた文とはたては大天狗の屋敷に足を運ぶ。

「というワケなのよ。お礼もちゃんとするからさ、協力してくれないかしら?」
「それくらいお安い御用ですよ。椛さんの刀造りのお手伝いにもなりますし」
「私で良ければ」

大天狗から一通りの事情を聞かされ、それを二人は快く引き受けた。

「それじゃあ早速。このお見合い写真の中で、良物件だと思うのがいたら教えてちょうだい」

本の山を均等に分けて、三人の前に置く。

「紹介状ちゃんとくださいよ?」
「あ、ちなみにこれって、記事にしても良いですか?」
「大天狗様にとっての良い人が見つかるよう頑張ります」

「スゲェ。私の将来を応援してくれる子が一人しかいねぇ」

そして作業が始まった。





数十分後。

「私の分は終わりましたよ」

椛が数冊の本を持って、大天狗の前までやって来る。

「家柄がしっかりしてて、大天狗様と気が合いそうなのを見繕ってみました」
「どれどれ」

写真を並べ、一人ずつ指をさして説明する椛。

「ミノタウルスなんてどうです?」
「筋肉隆々なのは趣味じゃないのよ」
「では、この方なんてどうです? サイクロプス」
「単眼趣味はちょっと無いかなー」
「オークとか」
「体臭キツそう」
「ケンタウロス」
「ちょっと顔が老けすぎてない?」
「フォモールは? 巨人族の出身のようです」
「毛深いのはあんまり」
「相変わらず選好みしますね」

持って来た本の半数が一蹴され、ムッとした表情で大天狗を見る。

「理想が高すぎるんじゃないですか?」
「私からも一言いいかしらモミちゃん?」
「なんでしょう?」
「なんでマッチョ推しなの!?」

大天狗は椛が持って来た残りの写真を指さす。

「ベヒーモス、ヒバゴン、バクベア、トロール……どいつもこいつも鉱山労働者みたいなガタイじゃん!?」
「似た者同士で波長が合うと思って…」
「私の種族、天狗だからね。小型のジャイアントオークとかじゃないから」
「そうなんですか?」
「そうです!」

腑に落ちない顔で本を抱えて戻る椛を見送り、大天狗は黙々と仕分けを行う文に近づく。

「どう文ちゃん。目星ィのはいた?」
「すみません。まだ見てる途中なもので」
「こっちに積んであるのは、良物件の奴等?」

離れた位置に積まれている山が気になり、手を伸ばす。

「あっ! そこに積んである方々のは…!」

文の言葉を待たず、大天狗は手に取って眺め始めた。

「おっ、この種族知ってる。ヴァンパイヤね」

プロフィールに目を通す。

「『人間社会では財閥のトップを務め、政界にも顔が効く』か、見た目も好青年だし。コイツは要チェックね」
「ただ、その方なんですけどね。もう少し読めばかると思いますが」

大天狗の視線が、理想の女性像と書かれた欄を見る。

「えーとなになに『15歳以下の処女希望』…」

写真を持つ手が小さく震える。

「ロリコンかよこの野郎。まぁ良いわ。次」

同じ山から新たに一冊取る。笑顔をキープする文の額に汗が浮かぶ。

「『種族はハイエルフ。島を私有地として所持。昔から営んでいるリゾート業で、毎年高額納税者ランキングに名前が載る』ね、顔も私好みだわ」
「その方も、その…」
「希望の相手は『フェアリー種』と」

『低身長・幼い容姿の者も要相談』と書いてあった。

「あの、大天狗様?」

拳を強く握る大天狗に文が控えめに声をかける。

「大丈夫よ。この程度じゃキレないわよ。愛宕山の天狗、太郎坊の奴だって言ってたじゃない。『忍耐なくして道は開かず』って」

めげずに次の本を取る。

「なにコイツ? 鬼?」
「ユニコーンという種族と人間の混血児らしいです」
「コメント欄にデカデカと『処女オンリー』って書いてあるし」
「まぁ、ユニコーンですから」
「で、こっちの本は狼男か、『欧州でも屈指の実力者』ね。やっぱり強い男でないと…」

理想の相手の欄を見る。『赤ずきんが似合う少女』と書かれていた。

「んだよコイツらよぉ!!」

荒ぶる大天狗。

(すみません大天狗様。そこに積んであるのは全部、若い女子を好む方々のアルバムなんです)

大天狗が見ても機嫌を損ねるだけなので、こっそり隠すつもりでいた。

「世のオス共は、そんなに若いオナゴが好みか!? 年上の包容力ナメんな!」
「大天狗様、堪えて。ここで激昂してもしょうがありませんよ。今一度、愛宕山の太郎坊様のお言葉を思い出して…」
「誰それ!? 知らない!!」

まるで瓦割りのように。
手刀で、幼女趣味者の本が積まれた山を真っ二つにした。



その場で何度も深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻してからはたての方へ向かう。

「なんか知名度高そうなのいた?」
「えっと、バンシーさんっていうのが、今のところ一番高そうです」

ちょうど今、はたてが読んでいる本の人物のようだ。

「どんなの?」
「アイルランド出身の妖精さんです。あっちじゃかなり名のある方みたいです。セレブ界のトップで、ヨーロッパ圏では負け知らずの実力だとか」
「仕事は?」
「不幸がありそうな家の前で叫ぶことだそうです」
「なにそれ怖い」

はたてから本を受け取る。

「あれ? コイツ女じゃん」
「同性婚を希望されているようです」
「なんで同性婚希望者が参加してんのよ」
「あっちはそれほど性別に拘らない文化らしいです」

他の本を眺めてみると、同性狙いの参加者がちらほら見受けられた。

「狙ってた男が、違う男とくっ付くとか、一番あったらいけないと思うんだけど」

その後も根気よく本に目を通していく。
一通り見終えて大天狗は軽く頭を抱える。

「ロクな奴がいねぇ! 地雷ばっかじゃん!?」

本日、二度目の荒ぶりである。

(この人も十分地雷なんだよなぁ)

あえて口に出さない優しさが椛にはあった。

「では、行くの止めますか?」
「ううん。行く」
「大天狗様のその、地雷を踏み抜いていく姿勢。嫌いじゃないですよ」
「動かなきゃ、何も始まらないわ。それに会場は船の上らしいし、滅多にない体験だから」

パーティの詳細が書かれたチラシを椛達に見せる。

「豪華客船を貸切で使って、海上で婚活パーティするらしいわ」
「それはなんとも洒落た催しですね」
「エスポワール号っていって、過去に色んな催し物に使われた、有名な船らしいわ」

“島流し”という単語が三人の頭に同時に浮かんだが、誰もそれを言葉にするつもりはなかった。








その後、大天狗は巻物に紹介文を記し、自身の身分を保証する印を捺す。

「はいこれ。転売しちゃだめよ」
「しませんってば」

両手で紹介状を受取る。

「当時、私の愛刀だった今剣を、打ち直させた刀匠の家系だから、腕は確かよ」
「ありがとうございます」
「ただそこねぇ」
「なにか?」

大天狗が言い淀む。

「専属の研師がいないのよ。打った刀身を磨く技術士がね。だから研師は他で探してくれない」
「そうなんですか」
「ごめんね。中途半端で」





早速椛達は、大天狗から紹介された鍛冶屋を訪れる。

「大天狗様の命ならば、今の依頼が片付き次第すぐに取り掛かりましょう。来週から打ち始めになりますが、よろしいですか?」
「構いません」
「この設計図通りとなると、作業に十日ほどいただきます」

その後、金額の折衝も終えて、工房を出る。

「次は研師探しか」

どうしたものかと、頭を掻く。

「目星はありますか?」

文が心配し、尋ねる。

「いいえ。これっぽっちも」

研師には全くアテが無かった。
そもそも、ここの刀匠に見合う腕前を持った研師は数える程しかいない。
そんな彼らが急な依頼を受けてくれるとは到底思えなかった。

「とりあえず私は一度戻ります。にとりに状況を説明しないと」
「お疲れ様です。私達のほうでも、研師を探してみますね」
「私達で手伝える事があったら、なんでも言ってね」
「ありがとうございます」

こうして、椛の前途多難な刀造りは幕を開けた。





【 mission2:研師確保 ~ 天魔 ~ 】

大天狗から紹介状を貰い3日が過ぎた。
この日、椛は哨戒部隊の報告書を提出するために、大天狗のもとを訪れていた。

「子供って可愛いわよねぇ」
「どうしたんですか急に?」
「私が乗馬用に飼ってる馬いるじゃん?」
「あの象みたいにデカイ馬ですよね。世紀末覇者が乗るような」

暴れれば一個師団くらい軽く捻り潰せるような、まさに大天狗が乗るに相応しい馬である。

「それの嫁が子供を産んでね。これがまた可愛いのよ」
「それはめでたいですね」
「…」

急に浮かない顔をする大天狗。

「どうしました?」
「また飼い馬に先を越されたわ」
「馬と天狗の寿命を考えたら、普通比べます?」

よっぽど追い込まれているのだと椛は察する。

「しかし、赤ん坊の名前何にしようかしら? いずれ私を乗せるんだし、カッコイイ名前にしてあげないと」
「親の名前から取ればいいじゃないですか」
「父が『キセイジジツ』で母が『コトブキタイシャ』だから……『デキチャッタコン』か『サズカリコン』なんてどうかしら?」
「ここまで酷い馬主、そうそうお目に掛かれませんね」

馬に同情したのは生まれて初めてだった。

「ところで、引き受けてくれそうな研師見つかった?」
「まだです」

にとりが知っている研師を回ったが、どこも他の客の依頼で手いっぱいな状況だった。

「そもそも、貴女が紹介してくださった刀匠の知名度が高過ぎて、半端な研師からは断られてしまいます」
「そっかー」




大天狗の屋敷を出た椛は、鴉天狗が多く暮らす集落へ向い、そこの茶屋で待ってた文、はたてと合流する。

「研師は見つかりましたか?」

隣に座る文が尋ねる。

「いいえ、全然です」

完全にお手上げだと、テーブルに突っ伏してしまう。

「わかりました。研師については、私とはたてが何とかします」
「何かアテが?」

頬をテーブルにくっ付けながら訊く。

「ええ、トビキリの」
「有難い申し出ですが、お二人ともお忙しいのでは? あまり負担になるような事は」
「何を仰いますか。これ以上に優先すべき事はありません。ですよねはたて?」
「そうだよ」

その後、腹ごしらえを終えた三人。
会計を済ませ、椛と別れた文とはたては、研師探しを開始する。

「ところで文、アテってどこの事?」
「貴女が良く行く所ですよ」
「へ?」





文が向かった先は天魔の屋敷だった。

「まさか天魔様にお願いするの?」
「そうですよ。天魔様の紹介状があれば、どんな研師も思うが儘です」
「そうかもしれないけど、書いてくれるのかな?」
「書いてくれますよ。その理由をはたてが一番知っているハズです」
「どういう事?」
「ごめんくださーい」

はたての質問には答えず、文は門を叩いた。




「あら、貴女方でしたか。どうぞお上がりください」

当然の訪問にも関わらず、女中は二人を快く迎え入れた。

「天魔様にご用ですか?」

廊下を進みながら女中が尋ねる。

「お願いしたい事がありまして。今、天魔様はお忙しいですか?」
「いえ、午前の執務を終え、自室で寛がれているところで……あっ」

廊下から、庭を一望できる縁側に出た所で、女中は足を止めた。

「天魔様、こんな所で寝ないでください」

縁側に寝転がり、猫のように体を丸めて日陰で涼む寝巻姿の天魔がいた。

「起きてください。こんな所を寝ていては下の者への示しがつきませんよ?」
「ここが一番風通しが良い」
「もうっ」

完全に寝ぼけているようで、その場から動こうとはしない。

「儂の事は漬物石が何かだと思って跨いでくれ」
「何言ってるんですか。ほら、文さんとはたてさんが来てますよ?」
「んん~? 文とはたてじゃと?」
「はい。すぐそこに。はたてさんが呆れた顔で貴女を見てますよ」
「………なぬっ!」

女中の嘘に、寝ぼけ眼をカッと見開く。
その直後、天魔の姿が残像を残して消え、すぐ近くの彼女の私室から、ドタバタと激しい音がし出した。

「もう準備できましたね?」

女中が部屋の襖を開けた。

「二人ともよく来たのう。ゆっくりしていくが良い」

正装に身を包み、威厳に満ちた声でそう言った。

「取り繕っても、もう遅いですよ天魔様」
「くっ……まぁ良い。それで何の用じゃ? その雰囲気、雑談をしに来たというワケではあるまい?」

文の表情から、そう看破する。

「御見それしました。実は、一つお願いしたい事が」
「申してみよ」

文は、椛の刀製造の為に、腕の良い研師を探している事を告げる。

「なるほどのう。それで儂に研師を紹介して欲しいと。日付がないため紹介状付で」
「はい。何卒、聞き届けてはいただけないでしょうか」
「お願いします天魔様」

正座していた二人は、同時に畳に手を突いた。

「ふぅむ。どうしたものか」
「良いじゃないですか天魔様。はたてさんが日頃からお世話になっている御方です。師として、保護者として、お礼の意味で協力して差し上げては?」
「わかっとる。儂とてそこまで恩知らずではない。お前は早く茶を用意せい」
「はい、では失礼しますね」
「茶菓子も忘れるな」

女中を追い出して、天魔は考え込む。

「確かに、あやつの言う通り。犬走椛には、はたてを脱引篭りの頃から面倒を見て貰っておる。その恩に、未だ報いておらん」

天魔自身、今回の件は感謝の意志を伝える良い機会だとは思った。

「でしたら」
「しかしなぁ、うぅむ…」

短い腕を組み、しばらく唸ってから、顔を上げる。

「白狼天狗の隊長の為に、儂が直々に書を認(したた)めるには、それ相応の理由がいる。わかるな?」
「それもそうですね」

天魔という立場上、イチ白狼天狗に紹介状を書くとなると理由が必要になる。
『血縁者が世話になっているから』という確固たる理由があるのだが、はたてと天魔の繋がりを公にする事はできない。
何か別の口実が必要だった。

「外部から詮索されず、紹介状を書くにはどうしたものか…」

考え込んでいると、大慌てで女中が戻って来た。

「大変です天魔様! 今、下馬先から連絡がありまして!」
「どうした騒々しい」
「イチバリキ君がっ! 脱走したそうです!」
「なんじゃと!?」

声を荒げる天魔。

「あの、イチバリキ君とは?」
「天魔様が飼ってるお馬さんだよ、私も見た事はないけど」

訝しむ文にはたてが説明する。

「困ったのう、アレは気性が荒い。誰かを襲わねば良いが」
「…」

ここで文がある事を考え付く。

「あの、天魔様。そのお馬さんの捜索。私とはたてにやらせてください」
「なぜ引き受ける?」
「その代わり、見事連れ戻したら、その功績を私達ではなく、犬走椛の功績として扱ってください」
「なるほど。良いじゃろう」

馬を連れ戻してくれた礼という名目で、椛に紹介状を渡す。

「そうと決まれば。行きますよはたて」
「うん!」






天魔の馬を預かる下馬先へやってきた文とはたて。
早速、現場検証を始める。

「すごい力で紐が引き千切られてますね」
「この紐って、特別な素材で出来てて、簡単に切れないんじゃなかった?」

紐の断面を見て、はたては身震いする。

「天魔様のお馬さん、絶対ただの馬じゃないよ」
「その通り。イチバリキはただの馬ではない」
「天魔様?」
「元々は我々の不始末です。手伝わせてください」

天魔と女中も下馬先へやって来た。

「飼われている馬は、妖獣の類ですか?」

文の質問に、女中が首を横に振る。

「彼は霊気も妖力も持っていません」
「調べてみると異国の馬のようでな。他の馬を圧倒する力を持っていながら小柄で、儂の背丈でも問題無く乗れる故、重宝しておる」
「ちなみに彼に会うまでは天魔様、ヒグマに跨ってたんですよ。イチバシン君と呼んで可愛がっておりました」
「大天狗殿に『金太郎』呼ばわりされて、乗らんくなったがな」

二人を加えて、手掛かり探しを再開する。

「それにしても妙ですね。足跡がない。いくら踏み均された地面でも、ヒズメの跡も残ってないなんて」
「アヤツは身軽で用心深い。痕跡は残っておらんかもしれんな」

再開してすぐ、捜査は難航してしまった。

「仕方ありません。鼻の利きそうな白狼天狗の方に協力を要請し……はたて?」

こちらに背中を向けるはたてから、異様な雰囲気を感じる文。

「…ぁぐぅ」

小さく呻くと、彼女は片膝を突いた。

「どうしたんですか!?」

慌てて駆け寄る。

「はたて!?」
「天魔様のお馬さん。たぶん、あっちのホオノキが沢山生えてる所にある、沼にいると思う」

はたての手の中にある携帯型カメラの画面には、ぼやけているが四足の動物らしき影が映っていた。

「貴女、一体何を? それ、普通の念写ではありませんね?」
「あれほど使うなと言ったのにこの馬鹿者が」

天魔が厳しい目付きではたてを見る。

「天魔様、はたてが何をしたかご存知で?」
「体に大きな負担を強いる対価として、念写可能な範囲を無理矢理広げたんじゃ」
「そんな事が出来たんですか?」
「ごめん。別に秘密にしてたワケじゃなくて、言う機会が今までなかったから」

振り向くはたて。左目が著しく充血し、鼻の左側の穴からは血が滴っていた。

「緊急時以外には絶対に使うなと釘を刺しておいたというのに」
「椛の刀が懸かってるんです。私にとっては緊急事態です」
「ここで言い合っていては、折角はたてさんが無茶して掴んだ情報が無駄になりますよ?」

女中がはたての額に水で濡らしたハンカチを当てながら、進言する。

「説教はイチバリキを捕まえた後じゃ、お主はしばらく休んでから来い。女中よ、はたてを頼むぞ」
「かしこまりました」

天魔は、女中にはたてに付き添うよう指示して、文を連れて念写された場所へと向かった。







下馬先で休むこと十数分。

「大分、楽になりました」

鼻血も止まり、頭痛も治まったはたて。

「イチバリキ君。まだ捕まってないのかな?」
「かもしれません」

捕獲したのであれば、ここに連れてくるはずである。戻ってこないという事は、そういう事なのだろう。

「そろそろ、様子を見に…」
「あの。まだ休んでいた方が」

文達に合流しようとするはたてを女中が止める。

「平気です。これくらいの痛みには、慣れてますから」

そう言って、歩き出した。
女中は仕方ないという表情でため息を吐いてから、はたてに付き添った。









はたてが念写した沼の付近。
文達の追いかけっこは佳境を迎えていた。

「こっちは通行止めじゃぞイチバリキ」

逃げ惑う『馬』の前に、天魔は立ちはだかり道を塞ぐ。

「今じゃ文!」
「はい!」

その隙に文が。『馬』の首に僅かに残っていた手綱を握り、ついに捕えた。

「はい、どうどうですよ」
「まったく、人騒がせな奴じゃ」
「でも、これで一安心ですね」

華奢に見える文の腕だが、『馬』がどれだけ頭を振ろうとしても、ビクともしなかった。

「おーーい!」

そこへはたてと女中がやって来る。

「もう動いて平気なのか?」
「はい、なんとか。それでお馬さんは?」
「貴女のお陰で、ほら、ここに」

文は捕えた『馬』をはたての前に連れて来る。

「…」

その『馬』を見たはたては絶句し、酸欠の金魚のように口をパクパクとさせた。

「お主のお陰で、被害が出る前に捕まえる事ができた。礼を言……どうした?」

口の開閉を繰り返すはたてを、天魔は不審に思う。

「ヴェ」
「べ?」
「ヴェロキラプトルだぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」

あらん限りの力を振り絞り、その生物の名を叫んだ。
母が残してくれた生物図鑑のお陰で、はたては目の前の生物が何者かわかった。

「これ恐竜ですよ恐竜! 小型だけど肉食の! 馬じゃなくてUMA!!」

小型の肉食恐竜を指さして、隣に付き添う女中の袖を掴んで訴える。

「恐竜といえばあれですよね? カンブリア紀から三億年後の中生代頃に出現しはじめた哺乳類型爬虫類ですよね? それがこんな所にいるのですか?」
「なんでそこまで詳しいのに分かんないの女中さん!?」
「恐竜はとっくの昔に絶滅したと伺っていますし」
「そうですよ! 一体どういう経緯で捕まえたんですか!?」
「どうと言われましても。天魔様が地層が剥き出しになっている崖を散歩されている時、岩塩層の部分に埋まり立ち往生していた所を偶然見つけただけですよ?」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


天魔「いつ見ても、崖のこの部分は綺麗じゃの。飴玉のように透明じゃ」
女中「食べては駄目ですよ?」
天魔「そこまでボケておら……ん?」
女中「どうしました?」
天魔「中に何かが埋まっているようじゃぞ?」
女中「動物のようですね。どこかの隙間から潜り込んで、挟まってしまったのでしょうか?」
天魔「助けてやるか。この辺りでは見かけない動物じゃし、興味がわいた」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


岩塩層を砕いて引っ張り出した後、妖術での治療を施したら目を覚ましたらしい。

「やっぱり恐竜じゃないですか!! 地層で塩漬けにされて、当時の姿のまま保存されてたんですよ!」

天魔の治療により、奇跡の復活を遂げたと思われる。

「これが恐竜なんですか?」

手綱を掴む文は首を傾げる。

「文も知らなかったのッ!? あとなんでそんな近くにいられるの!?」
「そりゃぁ彼が本当に非鳥類型恐竜の獣脚類だったら怖いですが、どう見てもタダの馬ですよ?」

真顔で言い放つ文。

(なんだこの既視感…)

かつて、とある体育館で遭遇したゴリラの姿をしたヒグマロボとの一幕を思い出すはたて。
そんな彼女を余所に天魔は恐竜に近づき、文から手綱を受け取っていた。

「余り困らせるでないぞイチバリキ。最近構ってやれなかったから拗ねておるのか?」
(絶対、一馬力以上の力持ってるよアレ)
「ほれ、帰…」
「ガブッ」

天魔は頭を噛み付かれた。

「うわああああああ天魔様ぁぁぁぁ!!」
「落ち着いてはたてさん。ただジャレてるだけです。いつものスキンシップです」

鉤爪が付いた前足で天魔の肩を掴み、鋭い歯で頭をガジガジと噛む光景を、女中は微笑ましそうに見守る。

「首と胴体を引き千切ろうとしてるようにしか見えませんよ!」
「でもまぁ馬の噛み付きですから」
「天魔様の耐久力が高いから平気なだけですって!」

噛み付いたまま、頭を上げて、天魔の身体を振り回し始める。

「これこれ、はしゃぐでないイチバリキよ」

静止の声を聞かず、ビタンビタンとそこらじゅうに彼女をぶつける。

「嬉しいのはわかるがそろそろ止めんか」

無視して首を振り回し続ける。

「おい」

木や地面に押し付けられる天魔。

「おい」

呼びかける天魔の声が段々と低くなる。

「おい」

小さな手が握られた。

「伏せい!!」

その瞬間、恐竜は脳天にゲンコツを貰った。
脳震盪を起こし、眠るように地面に伏した。

「どうやら甘やかし過ぎたようじゃ。これは躾けが必要じゃな」

天魔は細長い尾の先を掴み、そのまま引きずって行った。

(躾けられるほどの知能があるのかな)








天魔の屋敷に戻り、待つこと小一時間。

「二人とも良く働いてくれた。約束のものじゃ」

二人の前にやって来た天魔が、一本の巻物を広げる。漂う墨汁の香りから、つい先程書いたものだとわかった。
宛先には、はたてすら知っている有名な研師の名が記されていた。

「これは犬走椛に直接渡したい。すまんが、呼んで来てはくれんだろうか?」
「かしこまりました。行きますよはたて」
「うん。天魔様、本当にありがとうございます」

深く一礼して、二人は去って行った。




「失礼します」

それほど経たぬ内に、椛は天魔が待つ大広間へやって来た。

「すまんな。急に呼びつけて」
「事情は二人から聞きました。この度は、書状を認めていただき、心より御礼申し上げます」

『八の字』になるよう、両手を畳の上に突き、鼻先が畳に触れるほど深く礼をする。

「頭を上げよ。これは礼じゃ。日頃からはたてが世話になっておる事へのな」
「お礼だなんて、私の方がはたてさんに助けられているくらいです」
「謙遜せずとも良い。はたてはお主に憧れることで、大きく成長した。お主以上に、はたての成長を促せる者はおらんかったじゃろう。引篭りだったアヤツを救ってくれて心から礼を言う」

本心からそう言って、天魔は頭を下げ返した。

「思えば、こうして一対一で話すのは、はたての脱引篭りの依頼をした時以来じゃな」
「左様ですね」

あの時は、今以上に緊迫した雰囲気だった事を思い出す。

「正直に言うとな。文が、はたての脱引篭りの協力者としてお主を推薦した時、儂は不安でしょうがなかった」

天魔は椛の眼をじっと見る。

「あの時、顔を上げたお主と眼があった時、儂はゾッとした」
「…」

椛は黙って言葉の続きを待つ。

「あれは、生きながらにして地獄を見て来た者の眼じゃった。お主がこれまで、どれほどの差別、迫害、辱め、絶望、恐怖、裏切りを味わってきたのか、儂には想像もつかん」

天魔にはあの眼が、この天狗社会の陰を映す鏡のように見えた。

「そのような眼をする者と、はたてを一緒にして良いものか、悪影響にしかならんのではないか、復讐の対象にされるのではないかと、その時は危惧した」
「そう考えるのは自然な事です」

穢れた身である自分が、清らかな彼女と一緒にいても良いのか、椛自身わからなかった。

「憤ってくれて構わんのじゃぞ? お主が苦しむ原因を作ったのは、統括者である儂じゃ、それなのに、そのような心配をするなど、愚かで矮小で極まりない事じゃ」
「貴女様に咎はありません。貴女様は天狗社会の為に常にその身を犠牲にしてきた気高い御方です。大天狗様が申しておりました。『天魔は一度も同胞の骸(むくろ)を足蹴にした事はない』と」
「どう評価されようと、儂の力不足でお主たち白狼天狗に辛い想いをさせたのは事実じゃ。お主を救う事ができなんだ。どう詫びて良いかわからん」
「確かに、あの頃の私は心の内であらゆる者を恨んでいました。天魔様とて、例に漏れずです」

正直に白状する。

「しかし、一番恨んでいた相手は自分自身でした。白狼天狗として生まれてしまったこの身を、最も憎んでいました。けれど、あの二人に会えて、私は前に進めました」

はたての脱引篭りの協力を依頼されたこの場所が、新たな人生のスタート地点だった。

「先ほど貴女様は、私がはたてさんを救ったと仰いましたが、逆です。救われたのは私の方なんです」

二人が自分の為に沢山心を砕いてくれたからこそ、今、こうして穏やかな気持ちでいられるのだと実感している。

「私は運が良かった。あの二人に会えたからこそ、こうして真っ当な道に戻れた」

全てが敵に見える濁った眼は、もうどこにも無い。

「以前の私のような白狼天狗はまだまだ大勢います。どうかその者達に、一日でも早い救いの手を差し伸べてください」
「残りの人生を賭けて、尽力しよう」

そう約束して、巻物を差し出した。













椛は受け取った紹介状に書かれていた研師を訪れる。

「天魔様からの紹介付で、かの刀匠の打った刃を研げるとは、研師冥利に尽き申す。腕が鳴りますな」

武道家のような太い腕を持つ坊主の男が、力強く頷く。

「刀身は来週から打ち始め、十日で打ち終わる予定です」
「今の仕事はその頃には終わりましょう。研ぐのに一週間ほどいただいても?」
「構いません。よろしくお願い致します」

刀匠の時と同様、価格の折衝を行い。契約を交わした。

(実物検査の一週間前には刀身は完成か)

組立をする時間を考えると、かなり際どい納期だった。

(だがひとまず、完成の目途はついた)

名高い刀匠と研師である。納期が遅れるという事はあり得ないだろう。
片付けなければならない問題はまだ多いが、刀身が確保できた事で、肩の荷がだいぶ軽くなった。








【 mission3:鍛冶鍛錬の安全祈願 ~ 守矢神社 ~ 】

書類審査が通ってから一週間が経過した。
明後日から、ようやく刀匠が刀を打ち始める。


この日の早朝。椛と大天狗は、明日行われる行事の打ち合わせを行っていた。

「開会の挨拶をしていただいた後は、閉会式まで特にお願いする事がないので、大天狗様は自由にしててください」
「オッケー」

椛が説明をし終えると、大天狗は親指と人差し指で丸を作る。

「しっかし、剣技大会とかマジめんどいわ。本当なら明日は遊ぶ予定だったのに」
「『めんどい』って、貴女が大会の主催者じゃないですか」

明日、哨戒に所属する白狼天狗限定で、剣技を競う大会が行われる。
椛は実行委員に任命されており、大会当時までは大天狗への伝達係を頼まれていた。

「乗り気がしないのよねぇ」
「ここ数年やらなかったのをワザワザ復活させておいて?」
「今回は、実はこういう経緯があってね」

大天狗は今回の大会が開かれる事になった経緯を語り出した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 一か月前 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

八坂神奈子が大天狗の屋敷を訪れた。

「わざわざ出向いてやったのよ、感謝しなさい」

大天狗の正面に座り、開口一番そう告げた。

「何しに来たの?」
「山道を歩いたから、喉が渇いたわ」
「従者。お茶用意して、三百度くらいの冷たいお茶を」
「いくらなんでもそれは…」
「遠慮はいらないからやんなさい! 天狗火使うのよ! 天狗火!」

従者は戸惑いながら退室した。

「それで、今度は何を企んでるの?」

懐疑に満ちた眼差しを、神に向ける。

「企むだなんて人聞きが悪い。天狗の伝統行事について、協力できないかと思っただけよ」
「またそれ? ここ最近ウチらのイベントに合わせて、祈祷だの祭事だの催して玉串料せしめるの勘弁してくれない? 正直ウザいんだけど」
「前の騒動で金欠と神徳不足でね」

発電所の建造計画が頓挫した事で、守矢は信仰不足と財政難の状態が続いていた。

「人間の参拝客なら、積極的に通してあげるでしょうが。まだ足りないっていうの?」

発電所を巡る騒動の後、天魔と大天狗、神奈子と諏訪子は今度こそ和解した。
それ以来、人間の参拝客が山を訪れた際、白狼天狗には無下に彼らを追い返さず、丁重に案内するよう通達を出してある。

「ええ足りないわ。それに貰った玉串料分のご利益は、山にしっかり還元してるわよ。死に銭にはならないと思うけど?」
「はっ、どうだか」
「ご利益に関しては今度じっくり説明するわ。今日私が話しに来たのは、ここ数年開いてない剣技大会についてよ」

神奈子は本題を切り出す。

「あのー。お茶をお持ち致しましたけど」

ちょうどそのタイミングで、従者が盆を手に慎重な足取りで部屋に入って来た。

「待ってたわよ。早くカナちゃんの前に置いてあげなさい。喉乾いてるらしいから」
「しかし…」
「さっさと置く」

従者は半ば脅される形で、溶岩のように煮えたぎる湯が満たされた湯呑を、ヤットコで摘まみ神奈子の前に置いた。

「あの、八坂様。五分もすれば飲める熱さになると思いますので、それまでお待ちくださいね」

しかし、そんな彼の気遣いを無視して、神奈子は湯呑を素手で掴むと、一気に飲み干した。

「随分と渋いわね。口直しに甘い物が欲しくなるわ」
「従者ぁ! 大天狗印の特製団子用意しなさい! くっそ甘いトリカブト練り込んだヤツ!!」

両腕を組み、神奈子を睨みながら叫んだ。

「流石にそれは洒落になりませんよ」
「とにかく持ってくるの! ダッシュ!」

手をパンパンと叩き急かす。従者はもの凄い困った顔をして襖に手をかける。

「龍殺すつもりで作りなさい!! 元暗殺組合幹部の底力見せるのよ!」

出ていく彼の背中にそんな言葉を投げつけた。

「えーと、どこまで話したっけ?」

座り直して、神奈子に尋ねる。

「天狗社会は、もう剣の大会を開かないのかしら? 数年前から行われてないみたいだけど?」
「アンタらが山を引っ掻き回わすから、その余裕が無かったのよ」

大勢の白狼天狗が参加する行事である。守矢という不安要素を抱えた状況で、開催する余裕はなかった。

「それは申し訳ない事をしたわね。償いの為、場所も資金も積極的に出すわよ」
「もーやんないわよ。面倒くさいし。山の警備が手薄になるし」
「そう言わないで。私達のせいで文化が廃れただなんて事になったら、心苦しいわ」
「本音は?」
「天狗が剣の大会やるなんて言ったら、大勢の参拝客が集まってくるわ。だから是非ともやりましょう」

あっさりと白状する。

「あの大会は士気を高めるのが目的で、内々でひっそりやる行事なの。見世物じゃないわ」

山の外の武芸者に天狗の技を見せたくない、というのも理由のひとつである。

「では規模を縮小しましょう、自由参加って事にすれば人手も金も小規模で済むわ」
「だからやんないって言ってるでしょうが」
「それに『こんな強い天狗が、山の警備に当たっているんだぞ』ってアピールになると思わない?」
「しつこいわね」

大天狗が苛つきだした頃。

「あのー、失礼します」

恐る恐る従者が盆を手に入室する。両手をゴム手袋で保護した姿で。

「おー待ってたわよ」

満面の笑みで部下を出迎える。

「さぁカナちゃん。たんとお上がりなさ…」
「すぐに返事をしなくても良いわ。じっくり考えて頂戴」

すかさず立ち上がる神奈子。

「あっ! ちょっ! 逃げんなコラ!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「っていう事があってね」
「反対してたのに、開くんですか?」
「天魔ちゃんがやりたいってさ。諏訪子からアプローチがあったんでしょうね」
「無駄に仲良いですもんねあの二人」
「それにしてもごめんね。運営委員に指名しちゃって」

椛は運営委員に選抜されたため、試合には参加できないでいた。

「本当ですよまったく」
「あれ? ひょっとして参加して優勝するつもりだった?」
「出る気なんてこれっぽっちもありませんよ」
「じゃあどうしてそんな機嫌悪いの?」

心なしか、椛の顔付きが険しく感じられたため、そう尋ねる。

「委員会の会合に時間を取られて、部下たちの鍛錬にあまり付き合ってやれませんでした」
「あーそれは悪いことしたわね」

すまなそうな顔をして頬を掻く。
椛を委員に任命したのは他ならぬ大天狗だった。

「でも、部下の為にそこまで考えられるモミちゃん素敵よ」
「褒めたって時間は返ってきませんよ。この後も、委員会の会合があるんですから」
「わかってるって、なんか埋め合わせ考えとくわ」
(埋め合わせ?)

気になる言葉を残しつつ、椛は雑談を切り上げて、会合が行われる会議所へ向かった。





会議場。

「以上で会合を終わります。それでは明日は、よろしくお願いします」
「お疲れ様でした」

明日の最終確認は一時間ほどで終わり、そこで椛は解放された。

(午前中で終わってくれたのは有難いな)

どこかで昼食を取り、詰所に戻ろうと考えた時。

「あら、イヌバシリちゃん」
「雛さん」

会議場を出た門のすぐ前で、鍵山雛と出くわした。

「ご無沙汰してます。ここ最近、見なかったもので心配してましたよ」
「困ってる人は大勢いるもの。厄神も意外と多忙なのよ?」

雛と顔を合わせるのは、発電所の騒動以来で実に久しぶりだった。

「守矢とひと悶着あって以来、そんなに厄は集まっていないようね」
「お陰様で」
「そういえば、刀の申請が通ったんですって? おめでとう」
「毎回、貴女はどうやって個人情報を仕入れてるんですか?」
「それは企業秘密♪ で、いつ完成するの?」
「まだまだ先です。やっと三日後に刀身を打ち始めます」
「これからなら、打ち始める前に安全祈願をしておいたら?」

思わぬ提案をされた。

「祈願ですか?」
「そう。『誰も怪我する事無く、無事に刀が完成しますように』っていう願掛けを」
「必要ですかね?」
「貴女の場合は必要なんじゃないかしら?」
「……否定できませんね」

厄介ごとが他人より集まりやすい体質だという自覚はあった。

「その祈願というのは、貴女がしてくれるんですか?」
「私が出来るのはせいぜい厄払いと厄落とし。そういうのは、神社にお願いしなさい。例えば守矢とか」
「あそこですか?」

露骨に嫌な顔をする。

「逆に祟られそうな気がしてならないんですが」

妖刀になるのでは、という不安すら感じる。

「大丈夫よ、あの二柱は清めの水や貴金属に精通してるから」
「あそこにモノを頼むのはどうも………あれ、雛さん?」

椛が悩んでいると、いつの間にか雛の姿は消えてしまっていた。

「祈願か」

その言葉が、椛の心に深く残っていた。

(とりあえず行ってみるか。あくまでも守矢が何を企んでるか探る為に。剣技大会で悪巧みをされては堪らないからな)

誰にでもなくそう言い訳して、椛は守矢神社へ向かった。









守矢神社。その最奥にある本殿。
碌に明かりの差し込まぬ薄暗い空間の中、幼い少女の声が響く。

「おい神奈子。来年さ、御柱祭じゃん?」

蛙の置物の上に腰かける洩矢諏訪子は、床に広げられた山の地図を眺める神奈子に語り掛ける。

「そうね」
「祭りの半年前くらいになったらさ、『御柱の先頭に座り坂を無事に滑り終えた者は、巫女と結ばれる』って噂を流そうと思う」
「確実に死人が出るわよ?」
「良いよ別に、早苗に男はまだ早い。それに早苗とお近づきになりたいなら、それくらいの試練、余裕で乗り越えてくれないと」
「まぁ選別の意味でも、その噂は流しても良いかもしれな……あっ」

頷き諏訪子を見た神奈子。しかし、次の瞬間、諏訪子の背後に立つある人物と眼が合い、固まってしまった。

「……」
「……」

神奈子は、本殿の入り口に立っている椛と、僅かな時間見つめ合った。

「…」

無言で踵を返す椛。そのまま神社の出口を目指し歩いていく。

「…」
「…」

神奈子と諏訪子は無言で立ち上がり、椛を早足で追う。
しかし、椛が一歩早く玄関の戸を開けた。

「信者のみなさーーん! ここの神様がぁぁぁぁ!!」
「待てこの野郎!!」

諏訪子は椛を羽交い絞めにして、建物の中に引きずり込んだ。







「何しに来たんだよお前?」

本殿の中まで椛を引っ張ってから諏訪子が問う。

「貴女方が不穏な動きをしてないか調べに」
「もう大人しくしてるわよ」
「あんな話をしておいて、どの口が言うんですか?」
「いやそもそも、どうしてココまで入れた?」

諏訪子が解せない顔をする。本殿には『許可された者しか通れない』という特殊な結界が張ってある、部外者はまず入れない。

「あの、私が通しました」

早苗が小さく手を挙げながら本殿に現れた。

「鳥居で掃き掃除をしていたら、椛さんがいらっしゃいまして」

早苗にとって椛は恩人であり、好意の対象であるため、快く本殿へと通した。

「そう。早苗が通したなら仕方ない。良く来たわね椛。歓迎するわ」

神奈子は本殿の下座を、椛に勧めた。









本殿で椛と三柱が膝を交える。

「とにかく、私達は明日の行事では何も企てていないわ。今は信仰と資金の調達で必死なの」
「わかりました。今回は信じましょう」

神奈子の潔白の訴えに、とりあえず頷く椛。

「お騒がせしました。それじゃあ、私はこれで」
「お前さん。本当は、何か他に用事があるんじゃないのかい?」

帰ろうとした椛を神奈子が呼び止める。

「そ、そんなワケないじゃないですか」

上擦った声で答えてしまう。

「これまでどれだけの来訪者を迎えて来たと思ってるの? 雰囲気でわかるわ。別の用があるんじゃないの?」
「神奈子、多分アレじゃないか? こいつ、マイソード造るらしいから、その祈願の依頼じゃない?」

諏訪子が思い出したように言った。

「なんで知ってるんですか?」

雛といい、守矢といい、どうしてこうも自分の個人情報が抜き取られているのかと、軽い頭痛に苛まれる。

「まさか、付きまといなんて気持ち悪い事してるんじゃないでしょうね?」
「…」

その言葉の直後、早苗の体が硬直する。

「早苗さん?」
「ほら。早苗はお前さんに何度も助けられただろう? で、何か恩返しがしたいと色々とお前さんの近況を調べていたようでな? 悪気があったわけじゃないんだけどね」

神奈子が事情を説明し、フォローを入れてやる。
そしてそのすぐあと、諏訪子が椛の胸ぐらを掴んだ。

「早苗泣かせてみろ。涙一滴につき、一リットルの血で償ってもらうからな?」
「相場がおかしくないですか?」

抗議の言葉を唱えつつ、早苗を見る。

「えっと、早苗さん。今のは失言でした。別に刀の事は何か月も前から準備していた事ですし、別に秘密にしてる事じゃありませんでしたし」
「良かったです。それを聞いてほっとしました」

その言葉で、なんとか早苗は普段の調子を取り戻した。










「まぁ、ざっとこれくらいかしら」

神奈子から、安全祈願に掛かる玉串料を提示される。

「高っ!? 祈願ってそんなにするんですか? 人件費以外に掛かる原価なんてほぼゼロなのに?」
「神事に原価とか持ち込んでくる奴初めて見た」

祈願・祈祷は補助の対象外のため、全て椛の自腹になる。願掛けにそこまで払う気には正直なれなかった。

「私は無償でも構いませんよ。なんなら安産祈願も…」
「待ちなさい早苗」
「待て早苗!」

神奈子は前者の台詞に対して、諏訪子の後者に対して待ったをかけた。

「いい早苗? いくら椛に借りがあるとはいえ、守矢は今財政難。無償は無理よ」

神奈子が諭すように言う。

「そうですか…」
「だからと言って、貧乏人だから救わないでは神に非ず。そして何より、他ならぬ宿敵からの依頼だ」

神奈子はずいと椛に顔を寄せる。

「お前さん。明日の大会には出るのかしら?」
「いいえ。実行委員の一人なので、出場はしません」
「では、部下の者が一人でも予選を突破し本戦に出場したら、祈願をしてしんぜよう」

明日の大会には予選と本戦があり、五試合した中で成績の上位者が本戦に上がれるという形式になっていた。

「なぜ条件が本戦出場なのですか?」
「本戦は守矢神社の敷地内で行われる。つまり奉納試合になるわけだ。その礼という事にしてやろう」
「そういう事ですか」

納得し、椛は部下達の顔を思い浮かべる。

「けれどアイツら……弱くはないが、かと言って上位に入るほど強くもないしなぁ」

まだまだ実戦経験の浅い若者達である。中堅に当たれば、勝ち上がるのは難しいだろう。

「だからこそよ。困難な道を渡り切った者の願いを、神は聞き入れたくなるのよ」

部下の本戦出場を条件に無料で祈祷を行うという確約を取り、神社を出た。








部下が待つ詰所へと向かう椛。
詰所まであとわずかという場所で椛は足を止めた。

「静かだ」

普段なら、この場所からでも聞える彼らの掛け声が、届いて来なかった。

「何かあったのか?」

不審に思い、眼に力を込める。
他を寄せ付けぬ圧倒的な視力が、木々の僅かな隙間から、その原因を捉えた。








「忙しいモミちゃんの代わりに私が稽古つけてあげるから、光栄に思いなさい!」

竹刀を手にする大天狗。彼女の前に、隊員達が整列させられていた。

「私と数回打ち合うだけでも、すごい経験値になるわよ。きっと終わったらしばらくは『テレテレッテテー♪』ってファンファーレが鳴りっぱなしよ」
「生きてればっスよね?」

短髪の少女が、恐る恐る訊いた。

「いいから掛かって来なさい! 十秒持ち応えたらご褒美にキスしたげるから!」
「それはちょっと…」

困惑する隊員達。

(おい、お前行けっス。今までどんな相手にも物怖じせず挑んだガッツを見せろっス)

短髪の少女が、かつて巨躯の白狼天狗に挑んだ青年を肘で小突く。

(そのつもりでいたんだが、接吻されるっていうんじゃ…)
(違いないっス)

仲間内でしか聞こえない声で話す。

「ちょっとー、ほんとに誰もこないのー? 今ならデートする権利も付けちゃうわよー。二人っきりで夕飯食べに連れてってあげるわよー」
(ヤバイ。どんどんハードルが上がっていく)
(勘弁してくれ)
「これはチャンスよ。あんた達の冴えない人生を哀れに思った幸運の女神が、ネイルケアしながらうっかり垂れ流した蜘蛛の糸的な?」
(なんだその不安要素の塊)

気まずい沈黙が続くこと数十秒。

「むぅ、仕方ない」

大天狗は人差し指を隊員達に向ける。

「どーーれーーにーーしーーよーーおーーかーーなーー」

軽快なリズムで指先を躍らせ始めた。

「見回り行ってきます!」
「俺も!」
「そろそろ炊き出しの支度しなきゃ!」
「アタシも手伝う!」

隊員達は一斉にその場を離脱した。

「なんて速さの散開。蜘蛛の子を散らすように」
「そりゃぁ。危険を感じたらまずは散れって教えてますから」
「ああ、おかえりモミちゃん」

大天狗は振り返り、帰って来た椛を出迎える。

「何しに来たんですか?」
「うっ」

椛から滲み出る凄みに大天狗がたじろぐ。

「ト、トップブリーダーになりたくて」

顔を背けて呟く。

「ちゃんと私の眼を見て、話してくれませんかね?」
「だって今のモミちゃんの眼、密猟者を見つけたジャングル大帝と同じなんだもん」
「まさかこれが朝に申していた『埋め合わせ』ですか?」
「まぁ、そんなところ」
「ウチの連中は真剣にやってるんです。邪魔しないであげてください」
「いや、でも。私に稽古つけて貰えるってスゴい事よ? 牛若丸みたいに出世街道まっしぐらよ?」
「出世しても、早死にしたら意味ないでしょうが」

とは言ったものの、このまま追い返すのも気が引けるため、指導を頼むことにした。




散った隊員を集め直し、整列させる。
大天狗と椛が彼らの前に立つ。

「よくぞ集ったわ若人(わこうど)達よ。私がコーチする以上、限界突破は約束されたようなものよ!」

椛の許可を得た事で、大天狗は先ほどよりも威勢が良かった。

(まぁ、なんだかんだんだで、大天狗様は手加減が上手だか…)
「泣いたり笑ったりできなくしてやる!!」
「解散! 駄目だ駄目! 明日に備えて今日はもう休め!」

椛は両手を振って終了を宣言した。










夕刻。
椛は大天狗に誘われ、彼女行きつけの店で夕飯をご馳走になっていた。

「ホントに帰しちゃって良かったの?」

夜勤組だけを残して、他の隊員達を帰した事について尋ねる。

「今更、ジタバタしても結果は変わりませんよ」
「一人くらい、本戦に出場できるかしら?」
「無理でしょうね。二勝できれば御の字です」
「そうね」

彼らが優秀な白狼天狗である事に間違いはないが、まだまだ若い。
実戦不足な彼らが勝ち上がるのは難しいと大天狗も思っていた。

「負けて落ち込んだ部下は、ちゃんとフォローしてあげなさいよ?」
「慰めたり、励ましたりしろって事ですか?」
「そうよ。何て声を掛ければ良いか、モミちゃんわかる?」
「『真剣だったら死んでたぞ。良かったな』とか『これが今のお前の実力だ。悔しさを噛みしめろ』とかですか?」
「なんで折れそうな心にトドメ刺すのよ」
「じゃあ、どうしろと?」
「しょうがないわね。大天狗お姉さんが正しい部下の励まし方を教えてあげるから、メモの準備しなさい」













大会当日。式典等で使われる公共の広場。それが予選の会場だった。
各所に設けられたコートの中で白狼天狗達は木刀を激しくぶつけ合い、通路には河童の屋台が並び、会場は大いに賑わっていた。
そんな多くの人妖がごった返すお祭り騒ぎの中、腕に『委員会』の腕章を付けた椛は眼を光らせながら歩いていた。

「通路で座らないでください。試合を控えている選手は速やかに移動してください」

実行委員の一人として、大会がスムーズに進行するよう見回っていた。

「ここでの素振りはご遠慮願います」

往来の隅で素振りをする白狼天狗の男性を見つけ、注意する。

「あ? うるせぇよ」
「試合を前に逸る気持ちもわかりますが、素振りは指定の場所で」

注意されてなお続けようとする彼の前に椛が立ち、素振りを阻んだ。

「邪魔するなら容赦…」

椛の肩を掴んだ瞬間、男は浮遊感に包まれた後、身体が縦に一回転していた。
彼は明確な死をイメージし、走馬灯を垣間見た直後、尻から優しく地面に下ろされた。

「素振りするよりも、対戦相手の視察をしておいた方が勝率が上がりますよ」

彼が落とした木刀を手渡し、そう助言して椛は去った。
彼は仲間が呼びに来るまで、呆然としていた。







「ここは通り道です。ゴザを敷かないでください」

今度は道の半分を占領する集団に、片付けるよう督促する。

「なんだ姉ちゃん? 俺らになんか用…」

十秒後。

「すんませんでしたホント」
「すぐ片付けるんで勘弁してください」
「邪魔にならない所に移ります」

頬を腫らして、いそいそとゴザを巻き始める男達の姿があった。
そして追い立てられるように、彼らは行ってしまった。

『お疲れ様でした犬走さん。聞きしに勝る強さですね』
「いえ、それほどでも」

椛の懐の御札から女性の声がした。

『犬走さん。今度は西門に酔っ払いが出ました。取り押さえに行ってください』
「ひょっとして、私が選ばれた理由って、用心棒としてですか?」

この御札は実行委員に配られた無線機で、これから聞こえる指示をもとに椛は行動していた。

『私達はそう伺っていますよ。チンピラは全部、犬走さんに任せれば片してくれると大天狗様が』
「あの人は本当に…」

苛つきを抑えながら、指示された場所へ向かった。








(これは思ったより面倒な相手かもしれない)

酔っぱらっていたのは、熊と見紛うほどの大柄の男だった。

「ヒック、なんでぇアンタ?」
「実行委員の者です。会場での飲酒は禁止となっており。酒気を帯びた方は、申し訳ありませんが。お引き取りいただきます」
「んだとぉ、オイ?」

椛の眼の前で、飲みかけの一升瓶を高く持ち上げる。そのまま振り下ろせば、大惨事は免れない。

(選手じゃないし良いか。別に手加減しなくても)

キツめの灸を据えようと思ったその時。

「皆の真剣な姿を酒の肴にしようとは、良いご身分だな」

むんず、と大きな手が男の頭を掴んだ。

「誰だてめぇ……た、大将っ!?」

自身を掴んだ者の顔を見て、赤色の顔が一気に白くなった。

「恥ずかしいと思わんのか?」

巨躯の白狼天狗の男性は、片腕だけの力で酔っ払いを立ち上がらせた。

「よ、酔いを覚ましてきます!」

頭を掴む手から身を捩って逃れた男は、会場の外へ向い千鳥足で駆け出した。

「感謝します。お陰でアイツを担架で運ばずに済みました」

椛は握っていた拳を解き、追い払ってくれた巨躯の白狼天狗に礼を言う。

「奴とは旧知の仲でな」
「ああ、だから大将と呼んでいたのですね」

『大将』とは彼の愛称である。

「知り合いが迷惑をかけた。すまなかった」

上半身が地面と水平になるよう九十度腰を曲げる。

「頭を上げてください。貴方は何も悪くないじゃないですか」
「しかしだな…」
「本当に馬鹿真面目ですね貴方は」

相変わらずさに苦笑する椛。
彼はかつて、椛と同じ、大天狗が創立した“組合”に所属しており。組合解体後から今日まで、哨戒部隊の隊長を務める古株の白狼天狗だった。
馬鹿が付くくらい真面目な性格が、彼の長所であり短所だった。



「見回りは大変そうだな。手伝うぞ?」
「それは有難いのですが貴方の試合は?」
「どういうワケか、俺は『シード枠』とか言う、予選をせずとも本戦に進める立場らしい」
「納得の扱いですね」

その言葉に甘えて、しばらく彼と会場を巡回する。

「運営委員に当たってしまうなんて不運だったな。お前も出るつもりだったんだろう?」
「そんなつもりはありませんよ。こういうのは向いてませんし」
「それもそうか」

真っ向勝負は彼女の分野でない事を、長年の付き合いから知っている。

「そもそも、大昔に出場禁止喰らってますし」
「何をしたんだ?」
「大天狗様にとって優勝すると都合が悪い奴がいたものでして、大天狗様の命令で、そいつとの試合で反則技を少々」
「災難だったな」

椛とその対戦相手、両方に向けての発言だった。

「そういえば、あの子達はどうしてます?」
「あの子たち?」
「貴方の主人。元保守派の首領さんに育てられた白狼天狗の三姉妹ですよ」

眼鏡をかけた長女と、双子の妹達。ゆくゆくは工作員として育てられるはずだったが、椛の活躍により、普通の少女としての人生を取り戻した子供たちである。

「あの子達なら、引き取られた先でも、通う寺子屋でも、楽しくやっているようだ。寺子屋が無い日は、三人であちこち回っていると聞く」
「それは何よりです」
「噂をすれば」

「犬走様ー!」
「大将殿ー!」

三つの小さな影が、二人に駆け寄って来た。

「ご無沙汰しております犬走様。大将もお疲れ様です」

眼鏡の少女が礼をすると、後ろにいた双子も頭を下げた。

「貴女達は見学ですか?」
「はい! 主(ぬし)様が『色々と勉強になるから、見て来なさい』と仰られて」
「主様というのは、首領さんの事ですか?」
「左様です」

椛の脳裏に、文と共に死力を尽くして戦った鼻高天狗の女性の顔が浮かぶ。

「未だに何か変な事、吹き込まれてないでしょうね?」

振り返り、巨躯の男に尋ねる。

「案ずるな。今の主様にこの子達をどうこうする気はない。単純な親心からそう仰られたのだろう」
「なぜそう言い切れるんです?」
「工作員にする予定だったとはいえ、十年近く面倒を見ていたのだ、情が移るのも当然だ」
「だと良いのですがね」

それから男と姉妹達は、椛の巡回に付き添う形で、会場を練り歩く。

(なぁなぁ姉者)

双子の一人が、眼鏡の少女にひそひそ声で話かける。

(どうした?)
(倭ぁは、大将殿が女の人と並んで歩くのを初めて見る気がしまする)
(それ、倭ぁも思っておりました)

もう一人の双子も、半身の言葉に同意する。

(言われてみれば確かに。大将殿は部下たちの間で『男色家』か『女性の手も握れぬ極度の堅物』で論争が起こるくらい、女性との浮いた話が無いという)
(では何故、犬走殿と? 女性として見ておらんのでしょうか?)
(倭ぁは、その逆で。犬走殿を好いているのはないかと)
(うーん。わからん)

「お前たち」

そんな小声で話す彼女達に、男が話しかけた。

「今日は暑いな」

唐突にそんな事を言いだした。

「え、ええ。まぁ…」
「日射病にならないか、心配だな?」
「えっと…」
「ならないか?」
「な、なりまする!」

厳つい顔が目の前まで迫ってきて、本能的に同意した。

「そうだろう? だからお使いを頼まれてくれ」

素早い手付きで、長女に小銭の入った巾着を握らせた。

「向こうに河童の屋台がある。ラムネを五本買って来てほしい。つり銭は好きにしていいぞ」
「好きにして良いと仰いますが、これだとお釣がかなり余りますぞ?」
「ならばついでに、スカイフィッシュの丸焼きを買って来てくれ」
「そんなの売ってるのですか!?」
「冗談だ」
「大将の冗談は相変わらず解り辛いです」

長女は口を尖らせる。

「面白くなかったか?」
「面白い以前に、真顔で仰るせいで、冗談かどうか判別に困ります」
「ジョークというのは難しいな」
「真っ直ぐに目を見て言うものですから、思い切り信じてしまいましたぞ」
「それはすまなかった。だが、つり銭の件は本当だ。リンゴ飴でも、綿菓子でも、好きな物を買うと良い。ラムネは全部回ってからで構わない」
「ありがとうございます! 行くぞお前たち!」
「やったな姉者! 向こうに変な面が売っておりましたぞ! 見に行きましょう!」
「倭ぁ、射的やりたいです射的! 射的!」
「馬鹿者! まずは腹ごしらえだ!」

大声で何を買うかを相談しながら、姉妹は屋台に向かって走り出した。

「少し甘やかし過ぎじゃありませんか?」

男の大盤振舞に苦言を呈す。

「兵士として育てていた頃、色々な事に我慢を強いていた。これくらい許されよう」

そう弁解する彼だが、彼女達に屋台へ向かわせたのは別の理由があった。
椛と二人きりになりたかった。






会場の端まで二人は辿り着く。隅っこという事もあり、周囲に人は疎らだった。

「戻りましょうか」
「なぁ犬走よ」
「どうしました?」
「そっちは何か、浮いた話はあるのか?」

不器用な彼は、話の流れを作れない。だから強引に切り出した。

「何を藪から棒に」
「いるのか?」
「いませんよ別に、そういう貴方はどうなんですか?」
「いない」
「なんですかそれ」

てっきり出来たからそういう話題を振ってきたのかと思った。

「貴方なら、求愛する相手は多くいるでしょうに」
「そんなわけあるまい」
「まだ妹さんの事を引きずっているのですか?」

彼の妹は、彼がまだ若い頃、とある天狗の高官の手により、非業の最期を迎えていた。
間接的に仇は討てたが、それでも彼の心には今も大きな爪痕が残っている。

「未だに、自分と歳が大きく離れていたり、少しでもか弱いと感じてしまう女性は、どうも食指が動かん」

妹と重なり、恋愛の対象として見ることが出来ないでいた。

「それじゃあ。貴方と歳が近くて、貴方を撃退した事のある私くらいしか条件に合わないじゃないですか」
「そうだな。だが、それで良いと思っている。なぁ椛よ」
「はい?」

突然下の名前で呼ばれたものだから、思わず顔を上げて、彼の眼を見る。

「疎遠な時期もあったが、何度も背中を預け戦い、様々な苦楽を共にしてきた。もうお互いを知らぬ仲ではあるまい?」

彼は真剣な眼で椛を見つめる。

「俺では駄目か? お前とて、死ぬまで誰とも寄り添わず、子を残さぬまま、一生を終えるつもりはあるまい?」
「貴方の夫婦(めおと)になれと?」
「そうだ。お前を妻に迎えたい」

彼にとって、一世一代の告白だった。

「返事を聞かせ…」
「ははっ。相変わらず、真顔で冗談を言う癖は直っていないんですね」

笑い、手をパタパタと振る椛。

「待て、け、決して冗談では…」
「さぞ周りも苦労してるでしょう」
「頼むから話を…」
「貴方もいい加減、過去に囚われず前に進んでは如何ですか?」
「だからこそ俺はだな…」

男は身を屈め、膝を突いて椛の両肩に手を置き、自分は本気なんだと改めて説明しようとする。

「誰よりも誠実で、優しく、力持ちで、顔立ちだって悪くない。もっと磨けば、こんな素敵な殿方を放っておく女はいないでしょう」

彼の気持ちなど知らずそう言って、襟の皺を直してやる。

「頑張ってください」

優しく、柔らかく微笑んだ。

「…」

初めて向けられたそれに、彼の時間は停止する。
組合時代。日夜血しぶきを浴びていた頃の彼女を知る彼にとって、それはあまりにも眩しく、真冬の陽光のように温かさすら感じた。

「……いつかお前もその女の一人に加えてやるからな」
「やっとマシな冗談が言えるようになりましたね。その調子です」

『もしもし犬走さん?』

そんな時、椛の懐の御札が光る。

『今どこですか? 定時連絡会の時間ですよ?』
「ああっ、そうでした。すぐ向います!」

定例を忘れていた事に気付き慌てる。

「先に戻ってます! それではご武運を!」

その場で膝を突いたままの男を残して椛は去って行った。




「ラムネ買ってきましたぞ大将」

椛と入れ違いに三姉妹が帰って来る。両手には飴細工やら水風船やらを持ち。それぞれの頭には狐や翁、ヒョットコの面が引っ掛かっている。

「…」

彼は全く動こうとはしない。

「神社に佇む灯篭のように固まってしまっている」
「電池切れのヒグマロボみたいになってしもうた」

双子は同時に首をかしげる。

「あり得ぬ。大天狗様のボディブローを食らっても、立っていた御仁だぞ?」

解せんと長女は呟く。

「この場にいない犬走様がやったのだろうか?」
「そうとしか考えられませぬ」
「ほんにスゴイなぁ犬走殿は」

こうしてまた一つ。彼女達の中で椛の伝説が生まれた。

(俺は、諦めないからな)

不器用な彼の恋は、まだ始まったばかりだった。











「やっと戻れる」

会場の見回りもひと段落し、休憩時間を得た椛は、隊員の成果を確認しに向かった。

「キィィィ、あと一勝で本戦だったのに、悔しいッス!!」
「相手は他の隊の隊長だったんでしょう? なら仕方ないじゃない」
「蹴り技がありなら俺の勝ちだったぜ」
「嘘吐け」

部下たちの様子を見るに、あまり良い結果ではないようだった。

(あいつは何処だ?)

あたりを見渡す。探していた人物は、集団の隅っこで膝を抱えていた。

「その様子じゃ負けたみたいだな」

日頃から椛に積極的に剣の鍛錬を頼んで来る青年。
剣術馬鹿と呼ばれる彼が、ここまで落ち込む姿を見るのは初めてだった。

「面目ないです。隊長にはいつも稽古つけて貰っているのに」
「こいつスゴイ頑張ったんですよ隊長! 三勝一分けして最後の一人に、ギリギリで判定負けだったんですから」

間髪入れずに仲間が彼の奮闘を報告する。

「うるせえ。負けは負けだ…」

身を更に縮こまらせて、とうとう俯いてしまう。

「お前のような若造が少し頑張れば上に行けるほど、白狼天狗は弱くないという事だ。大丈夫、お前ならいつか追い越せる日が来る」
「……どうも」
(まだ元気がないな)
「俺、実家の豆腐屋を継ごうかな」
(こりゃ重症だな)

こんな彼を見るのは、気持ち悪くてしょうがなかった。

(こいつは将来、剣士として間違いなく大成する)

剣に対するひた向きさ、才能、体躯。このまま鍛えればいずれ剣で名を馳せるという確信が椛にはあった。

(そういえば大天狗様が言ってたな、落ち込んでいる男を一発で立ち直せる方法を)

昨日彼女の言っていた事を思い出す。

(えーと、まずは)

試しに実行してみることにした。

「三勝もしたんだ。すごいじゃないか。偉いぞ。誇って良いんだ」

後ろから抱きしめて、頭を撫でててみる。

「た、隊長?」

想像すらしていなかった出来事に、落ち込んでいた彼の表情が一瞬で驚愕に変わる。

「偉い偉い。お前は頑張った。自慢の隊員だ。普段から努力してたもんな。ちゃんとわかってるぞ」

彼を肯定する言葉を並べて励まし、優しく頭を撫で続ける。

「本当に良くやった、十分、胸を張っても良い…」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「わっ!?」

彼はその場で勢い良く立ち上がる。

「次は勝ちます! 来年こそ絶対本戦行きます!」
「そ、その意気だ」
「はい!!」
(なんとかいつもの剣術馬鹿に戻ったか)

平時に戻り、とりあえず椛は安堵した。

(しかし、手痛いな。自腹での祈祷か)

誰も本戦に出場できないため、安全祈願は全て自分の負担になるという懐具合に胸を痛めていると。

「どうしたお前達?」

ぞろぞろと椛の周りに他の隊員が集まって来た。

「私だって女子の部で三勝したんスから! ハグしてください!」
「俺二勝したんです! 撫でて貰ってもバチ当たらないですよね!」
「某は一勝致しました。励ましの言葉を何卒!」
「僕、全敗しましたけど。参加賞とかありますか?」

どうやら先程の彼とのやりとりを見て、色々と触発されたらしい。

「わかった! とりあえず話は聞いてやるから並べ!」

亡者のように詰め寄って来る隊員たちに揉みくちゃにされていると。

『あの、すみません。犬走さん』
「な、何か?」

札からの声に返事をする。

『シードで出場するはずだった選手が一人、急きょ出られなくなり、三勝一敗一分の青年が繰り上げで本戦出場になりました。探すのを手伝ってください。特徴は…』





【 mission4:柄の素材集め  ~ 河城にとり ~ 】

守矢神社に刀の安全祈願をさせた翌日。
椛はその報告と、部下の励ましが上手くいった事への礼を言うため、大天狗の屋敷を訪れていた。

「それで、守矢にダダで祈祷やらせたって事?」
「ええ。それにしても祈願って、色々とやるんですね。ただ棒を振って終わりかと思ってました」

早苗が、額に汗を滲ませながら祝詞(のりと)を唱える姿を思い出す。これでご利益がないワケがない。

「最近のモミちゃん、色々とトントン拍子で羨ましいわ」
「天狗社会の序列二位の御方に言われても、皮肉にしか聞こえませんよ?」
「出世したってねぇ。それを分かち合う相手がいなきゃ意味ないのよ?」

大天狗は指を折って数え始める。

「最初に出来た人間の彼氏(牛若丸)は、私を置いて都に行っちゃうし」

八艘飛びなんて教えるんじゃなかった、と小声で愚痴る。

「それから数十年後に、一目惚れした相手は、衆道家で私の事なんて見向きもしなかったし」
「うわぁ」
「その数年後に、告白してきた男は、実は私の命を狙う退魔師で」
「…」

その後、椛は延々と、彼女の実らなかった恋のダイジェストを聞かされた。

「前世で何やったら、それほどの業を背負えるんですか?」
「こっちが聞きたいわよ!」

そして話題は刀造りに戻る。

「刀身が十日後には出来上がり、研ぎは七日程で終わります」
「ならギリギリ間に合いそうね」
「なのでそろそろ、柄の準備を始めようかと思います」
「そっちも上手く行くといいわね」

話題も尽き、椛は大天狗の屋敷を出た。






河城にとりの工房。
キュウリをかじりながら設計図を眺める椛とにとりは、柄についての相談をしていた。

「山でも一二を争う鍛冶屋と研師が製作したなら、下手な仕事は出来ないね。私も最高の素材で最高の仕事をしないと」

研ぎ終わった刀身に、柄を組み付けるのはにとりの役目である。

「こんな良い刀身なんだ、柄に『鮫皮』がないと恰好がつかないね」
「鮫皮ですか?」

にとりは設計図に書かれている刀の柄を指さした。

「高級な刀の柄を見ると、糸を巻いてある内側にブツブツした部分があるでしょ? 大天狗様が持ってる刀とかで見かけない?」
「そういえば、ありますねそんなのが」

椛達に支給されている剣の柄には、見当たらない部分である。

「あれが鮫皮。鮫皮が有ると無いじゃ、グリップの感触が全然違う。滑り止めにもなって、握力を限界まで発揮できるんだ」
「そんな効果があるなら、是非ともあやかりたいですね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「幻想郷じゃ、すごく稀少な素材なんだ」

海に棲む生物からしか採れないのだという。

「それなら別に、当初の構想通り布やゴムで構いませんよ? 予算の事もありますし、そこまで拘らなくても」

補助の対象はあくまで刀身であるため、柄の部分の予算は自前である。

「それは駄目だよ。今回ばかりは、椛には妥協して欲しくないんだ」

椛は今まで、色々なものを諦めてきた事を知っているにとりは、語気を強め説得する。

「しかし、先立つものが」
「それはそうだけど……いや待てよ。あそこに行けば。タダで鮫皮が手に入るかもしれない!」

何か思い当たる事があるのか、にとりは道具を纏める。

「善は急げだ、行くよ椛!」
「え、ちょっと!?」

説明も碌にせず、椛を連れ出した。









靄(もや)で対岸が見えない三途の川。
その河原に椛とにとりはやって来た。

「ここならヤバイ魚がいっぱいいるから、鮫皮持っているのがいるはずだよ」
「まさか釣るつもりですか?」
「あたぼうよ。釣キチ三平ファイトとは私の事さ」
「意味がわかりません」
「はいこれ。椛の釣竿」

長い棒に糸が付いているだけの竿を渡される。

「こんな細いので、鮫皮持ってる魚が釣り上げられるんですか?」
「大丈夫大丈夫、超合金チタンだから。カバが釣れても折れないよ」
「カバいるんですかこの川?」

餌を付けた針を垂らす。
底の見えぬ、混沌とした色をした川ではあったが、その水面は穏やかで、浮きの揺れは小さい。

「椛は釣りって好き?」
「あまり好きではありませんね。じっと待っている間、時間を無駄にしている気がしてしまって、どうも」
「椛はせっかちだもんね」
「獣の狩りなら、獲物が罠にかかるよう誘導するなり、追い立てるなり出来るので退屈しませんが。釣りはただただ待つだけですから」
「その待つ事が醍醐味だって言う人が大勢いるみたいだよ」
「私ももう少し心に余裕が持てれば、それを楽しむ事が出来るのでしょうか?」
「良い機会だし、試してみたら?」
「そうします」

そこで会話は終わり、しばらくは糸が引かれるまでの時間に身を委ねてみることにした。

「どう? イライラとかする?」

三十分ほど経過した時、にとりがそう尋ねた。

「いいえ。黙想をしているような気分でした」
「進歩したじゃんか」
「そのようです。考え事をしたい時は、釣りも悪くありませんね」
「新しい発見ができたね」

椛に起きた心境の変化をにとりは喜んだ。

「しかしこれ以上、釣れない時間が続くと、別の意味で焦りますね」
「それもそうだね」

今日の目的は釣りを楽しむ事ではなく鮫皮を得る事である。

「やっぱり三途の川の魚はアグレッシブなのが多いから、こっちもアグレッシブなエサを用意した方がいいのかな」
「アグレッシブですか?」

にとりは竿とエサを交換する。新しい竿には糸を巻き取るためのハンドルが付いており、取り出したエサは異様な光沢を放っていた。
竿を握り、体を逸らして思い切り振りかぶる。

「いっけぇぇぇ! Gスケル〇ン!」

魚の骨を象ったルアーを飛ばした。

「何ですかその疑似餌?」
「なんか無縁塚にいっぱい落ちてた!」

巧みなロッド捌きで、まるで本当に生きているかのように疑似餌を操る。

「本当にそんなので釣れ…」
「フィィィィィシュッ!!」
「早っ!」

早速釣り上げるにとり。そのまま腕を振り上げ、一本釣りの要領で、背後に設置したおいた大型のビニールプールに獲物を放り込む。

「不覚! あまりの懐かしさに思わず…」

プールの中を巨大なブラックバスが激しく暴れまわる。

「にとり。魚が喋ってるんですけど」
「一級河川サンズリバーだからね。そりゃ喋るよ」

にとりはプールに近づき、釣れた魚を見つめる。

「君は鮫皮持ってる?」
「拙者。そのようなものは持ち合わせておらん」
「それじゃあリリース」
「あ゛あ゛あ゛!!」

リュックから飛び出したロボットアームがブラックバスを掴むと、三途の川に放り投げた。

「気を取り直して次。っお、また来た」

先程とは違う魚が釣り上げられる。

「鮫皮持ってる?」
「おいどん。シーラカンスでごんす。もってないでごわす」
「そっかー。じゃあ帰っていいよ」
「おうふっ!」

綺麗な弧を描き、三途の川に落ちるシーラカンス。

「どんどん行くよー、おっ手応え有り!」
「入れ食いですね」
「さすが読者全員サービスの限定カラー。君は鮫皮持ちかな?」
「拙僧、ナイルワニなり」
「エジプトに帰れ!」
「あー」

三途の川の水面に大きな水しぶきをあげるナイルワニ。

「よーし、今度こそ……っと、フィィィシュ!!」
「本当に何なんですかその疑似餌?」

だんだん怖くなってきた椛。

「貴方は鮫皮を…」
「我ノ名ハ、ポセイドン。深海ヲ総ベル者ナ…」
「なんか違う!」
「ぐああああ!」

断末魔を上げて沈んでいくポセイドン。

「椛も手伝って、はいこれ」

同じ竿と疑似餌を渡された。

「こうやって竿を振るんでしたっけ?」

にとりの動きを思い出しながら、ルアーを投げた。

「うん。ナイスキャスティング」
「私が扱っても貴女みたいに釣れるものなのでしょ……うわっ、もう来た!」
「こっちもヒットだよ!」

二人同時に釣り上げる。

「君、名前は?」
「おっちゃんな、ホオジロザメていうねん」
「鮫!? おおっ! じゃあ鮫皮持ってる!?」
「ごめんな、おっちゃん、そういうの持ってないんやわ」
「なんだとぉ!」
「おっほ! フカヒレ揉み揉みせんといて! で、でも、ソイツなら持っとるよ!」

ホオジロザメは椛が釣り上げた魚に鼻先を向けた。

「あの、貴方は?」
「ロックンロール・トーキョードーム」
「えっと…」

初めて見る、平ぺったい生物を前に、若干狼狽する椛。

「そいつ、エイの『エイキチ』っていうんやわ。まだこっち来たばかりで日本語が苦手でな。おっちゃんが世話焼いとる」
「イエスマイラブ」
「ちなみに鮫皮いうんわ。エイの背中の皮のことをそう呼んでな。シャークの皮と別物なんよ」
「アイラブユー、オーケー?」
「へぇ、そうだったんだ」
「ソニー・ブラビア」
「ところで、さっきから何言ってるんですかコイツ?」

謎の言語に椛は戸惑う。

「ねぇサメさん、モノは相談なんだけど。彼の背中の皮を少しだけ…」

採らせて貰えないかと、頼もうとしたその時だった。
地面が僅かに揺れた瞬間、三途の川から巨大な何かが飛び出してきた。

「にとり!!」
「ひゅぃぃ!?」

椛がにとりを抱えてその場から跳ぶ。

「チャイナタウン!」
「エイキチ!? お前何を!?」

エイがホオジロザメに体当たりして、ホオジロサメをプールの外へはじき出す。

「エイキチィィィ!!」

川から出現したソレは、エイが入ったままのプールを丸呑みにした。

「ナマズだと!?」
「しかも滅茶苦茶でかい!」

突如出現した、巨象をも凌ぐ大きさのナマズに二人は驚愕する。

「コイツは三途ランキング一位の『大ナマズ』や! 『太歳星君の影』と呼ばれて恐れられとる!」

河原に寝そべるホオジロザメが叫ぶ。

「三途ランキング?」
「三途の川での強さを表す順位や!」

一位は、三途の川で最強の生物だという意味らしい。

「ちなみに、二位は電気ウナギでな」
(是非直曲庁が考えてるのかな)
「頼むお嬢ちゃん達! エイキチを助けてくれへんか!!」

陸上で身動きが取れない自分を顧みず、ホオジロザメは懇願する。

「どうしますにとり?」
「決まってるじゃないか」

ここで引き下がる二人ではない。
椛は剣と盾を携え、にとりはリュックを担ぐ。

「やっと見つけた鮫皮。助けて、そのお礼として分けてもらいましょう」
「うん。そうしよう。ここで見逃したとあっちゃ商売人の名折れだよ」

二人の視線に気づいたのか、大ナマズは腹で這って、向きを変えようとする。

「人の獲物を横取りしたんだ。覚悟は出来てるんだろうな?」

椛が駆け出して跳躍、剣を振りかぶるのと、大ナマズの二本の長い髭が、鞭のようにしなるのは全く同時だった。

「ッ!?」

ナマズの髭が椛の剣と盾に絡みつく。
椛は悪寒がして、咄嗟に両手を開き、装備を放棄する。
直後、剣と盾から火花が飛んだ。

「こいつ、電気を!?」

にとりは火花の散り方から、それが電気によるものだと看破した。
椛が間一髪で感電を免れた事がわかると、大ナマズは体をくねらせて腹で地を這い、異常な速さで椛に急接近してきた。

(コイツ!? 腹のぬめりを潤滑油にして私との距離を一瞬で!?)

一瞬で間合いを詰められる。椛の眼の前には大きく開かれた口があった。

(幸い、歯は無いな)

懐から、糸切り用に持って来た刃物を抜く。

「喰われるのはお前だ」

刃物を突き上げようとしたその時。

「どっせい!」

口が閉じられるよりも先に、大ナマズは真横に吹っ飛んだ。
にとりのリュックから飛び出したロボットアームが、大ナマズの横腹に拳を叩き込んでいた。
大ナマズは横に二回、激しい音と砂埃を上げながら転がった。

「思い知ったか!!」

大ナマズのすぐ傍に着地する。

「さぁ、エイキチ君を吐き出して貰うよ」
「待ってにとり! そいつに不用意に近づいたら!!」

体勢を立て直した大ナマズは、間近に居るにとり向けてヒゲを伸ばしていた。
しかし、髭がにとりに届く事はなかった。
どこからともなく現れた二匹のヒグマが、大ナマズの髭をそれぞれ抱え込んでいた。

「まさかあのクマ達は!?」
「そう! 私の技術の結晶。ヒグマロボさっ!! 三途の川にネッシー号は持ち込めないし、三平ファイトは釣道具のせいでリュックに入らなかったから、この子達を近くに待機させてたんだ」

にとりが説明する間、常に大ナマズの髭から火花が散っていた。

「電気喰らってますけど、大丈夫なんですか?」
「私の地下工房で働いてるんだよ。感電・漏電対策はバッチリさ」

二体のヒグマロボは、怯むことなく大ナマズをガッチリと押さえ続ける。

「一気に畳みかけるよ!」

にとりが指笛を吹くと、三途の川に待機していた残りのヒグマロボが、ぞろぞろと上陸を始める。
フジツボや藻、海藻を貼り付けて行進する姿は、百鬼夜行さながらである。

「やっちゃえ皆! 尻子玉も残すな!」

数の暴力が大ナマズを襲う。
スズメバチを圧殺するミツバチの如く、全方位から鉄拳と蹴りの乱打を浴びせる。

「ふはははは! 先日のアップグレードで古代ローマカラテを覚えさせたからね! ついでに友情もインプットしたし! 向かう所敵なしだよ!」
「いささかやり過ぎでは?」

段々、大ナマズが可愛そうになってきた。

「そうかな?」

スーパースコープを肩に担ぎ、照準を合わせるにとり。

「やり過ぎですって絶対」

大ナマズがエイを吐き出すまで、その私刑のような光景は続いた。








幸いにも、エイは無傷で救出された。

「ありがとう。お嬢ちゃん達のお陰で、エイキチも無事に帰ってきたで」
「ミュージックフェア」

ホオジロザメとエイがそれぞれ礼を言う。

「ゴールドラッシュ」
「エイキチの奴がな『助けてくれたお礼に、鮫皮を分けてやる』って言うとるで」
「本当に!?」
「オールナイトニッポン」
「『二、三日で元通りだから。どってことない』だそうや。それに、アイツがどこかに行ったおかげで、三途の川底も平和になったし、大丈夫やろう」

大ナマズは川に撤退した直後、こつ然と姿を消してしまった。まるで初めから存在しなかったように。“影”のように消えてしまっていた。
鮫皮採取後、エイの傷口に十分な手当を施して、椛達は帰路についた。






戦利品を手に、二人は工房へ戻って来る。

「刀身が出来る頃には、鮫皮も乾燥し終えてるだろうし、やっとこれで柄の素材が揃ったよ」

床に柄に使う材料を並べていく。
その中で気になるモノを見つけ、椛は拾い上げる。円形の金属だった。

「これが鐔(つば)ですか?」
「そうだよ」

柄と刀身の間に挟まる部具である。

「木瓜(もっこう)型とは貴女らしい」

キュウリの断面を思わせるその形を見て、椛は苦笑する。

「凝った形にするよりも、それの方が重心が安定するし。手元を守る事を考えたら、それより良い形が思い浮かばなかったんだ」
「なるほど」

外見よりも機能性を重視する自分にとって、これ以上の形状はないだろうと納得する。

「ようやく、完成が見えてきましたね」

肩の荷が下りた椛は、大きく息を吐いて俯いた。

「ところで鞘はどうする? これも私が用意しちゃって良いの? 専門の職人に頼むとかは?」
「鞘は消耗品ですし、別に」
「そうかな? 折角だから拘って挑戦してみようよ。時間はまだあるんだし」
「鞘ですか」

新たに出現した課題に、椛は腕を組み考え始めた。




【 mission5:鞘師確保 ~ 姫海棠はたて ~ 】

刀身はとうとう研ぎの段階に入り、提出の日まで残り十日となった頃。
突然、大天狗は椛を呼び出した。

「最近、誰かから見られているような感覚がするのよ。視線を感じるわ。これ絶対ストーカーよ」

椛の眼を頼りに、犯人を探すつもりだった。

「錯覚じゃないですか? もしくは自意識過剰」
「本当だって! 昔、退魔師集団の討伐対象にされた時みたいな視線をビンビン感じるのよ!」
「きっと大天狗様を新種の霊長類か何かと勘違いした生物学者とかじゃないで……」

椛も視線を感じたため、咄嗟に振り返った。

「あっ」

視線の先。開いたままになっていた襖から見える景色の中で、何かを見つけた椛。

「どうしたのモミちゃん?」

尋ねられ、椛は遠くを指さす。

「ここから見える尾根。岩肌が露出した箇所から左に10尺の位置。望遠の筒でこちらを覗き込む奴がいます」

千里先を見る事の出来る眼が、こちらを覗き見る者の姿を捉えていた。

「多分、あれが犯人じゃないですか?」
「あの距離なら、弓なしでも届きそうね。投げるのはコレでいいや」

大天狗は指を鳴らしながら、部屋にあった茶筒を手に取り、振りかぶった。

「ファーー………ストッ!!」

全身を使っての遠投。茶筒が遠く彼方に消える。

「当たった?」

結果を椛に尋ねる。

「足元に落下して、すごく驚いてます」
「本体に当てるつもりだったんだけどなー、まあ良い。ちょっと行って来るわ。すぐ戻るから」
「いってらっしゃい」

その場で軽い柔軟体操をしてから、大天狗は飛んだ。








尾根。

「やっぱアンタか! このサイコレズ!!」

大天狗は、覗き見ていた者の顔をアイアンクローで持ち上げていた。

「ひぎゃぁぁぁぁぁ!!」

激痛で叫び声をあげているのは妙齢の女性。かつて天狗社会で『保守派』と評される面々を束ね、首領と呼ばれていた人物である。

「この前言ったわよねぇ!? 『会議、行事以外の時に、私の半径三海里以内に近づいたら殺す』って!」
「だ、だからこうして、三海里を守って遠くから大天狗様の麗しいご尊顔を」
「うっせぇ死ね!!」
「ひぎぃぃぃぃ!!」

激痛で雄叫びを上げながら、足をバタつかせる。


(だいぶ前にも、あんな光景を見た覚えが)

遠くからその光景を眺める椛はデジャヴを感じる。





「ああっ、でもこの状況ッ、大天狗様の手の香りが鼻腔に広がっ…」
「それが遺言かぁぁぁぁ!!」

握りつぶそうとしたその時。

「大天狗様! 主(ぬし)様も悪気があるわけでは!」
「お慈悲を! どうか寛大な御心で! 命だけは!」
「今回だけ見逃してください!」

首領のすぐ近くに居た、まだ幼さの残る三人の白狼天狗の姉妹が、大天狗に懇願する。

「くっ、子供を出汁にするとは小賢しくなったわね」

舌打ちしてから、解放してやる。





屋敷に戻って来た大天狗。

「ただいま」
「お帰りなさい」
「カッコイイ男に付きまとわれるんなら大歓迎なんだけどね」
「あっ、付きまといと言えば」

そういえば、と思い出す椛。

「なにかあったの?」
「最近、はたてさんの周りを探る輩がいるように思えます」
「マジ?」
「単純に好意を寄せているだけなら厳重注意で済みますが。天魔様との関係を探っているようなら非常に厄介な事ですよ」
「わかったわ。今日の昼、天魔ちゃんにこれ渡しに行くから、その時に相談しておくわ」

手元に置いてある風呂敷を軽く叩いた。

「外の世界のお菓子。あるツテで手に入ったのよ」







午後。
天狗社会で幹部のみが立ち入りを許されている議会所がある。
その一室で、大天狗は天魔の前で風呂敷を開けた。

「天魔ちゃん、これあげる」
「な、なんですかコレは!?」

可愛い絵柄の袋たちを前に、天魔は眼を輝かせる。

「外の世界で『調理菓子』って呼ばれてるものよ」
「それは興味深い」
「試しに一個選んで」

促され、一つ取り開封する。

「これが本当に菓子なのですか?」

中から出て来た銀色の袋とプラスチックの容器を前にして、怪訝な顔をする。

「その袋の中身をこの容器に入れてみて」
「粉しか出て来んが?」
「水をちょっと入れて、付属してる爪楊枝で混ぜるのよ」
「こんな事をして一体何が……おおおおおおお!!」

粉末と水が混ざり合うと、楊枝の先端に鮮やかな色のグミが生まれた。その様子に天魔は感激する。

「なんじゃコレは!? 錬金術か!?」
「違うわよ。そういうお菓子。ほら、食べてみて」
「あむっ……んんっ! 長いこと生きて来たが、作り立てを食べるというのは初めてじゃ!」

何度も頷き、手をブンブンと振る。

「他にもゼリーとか、ガムとか、ラムネとかミックスジュースとか…」

他の包装を手に取り、大天狗が紹介しようとすると。

「お二人ともいい加減にしていただきたい!!」

男の怒声が、議会所に響いた。

「今は議会の最中ですぞ!!」

その部屋には、二人以外にも大勢の天狗が詰めていた。
今日は幹部が集まり定例の会議が行う日で、ここはその会場だった。

「は? なに言ってんのよ。議会ならついさっき終わったでしょうが。解散の挨拶したら、急にあんたが喚(わめ)きだしたんじゃない」

大天狗が言い返す。
天魔も大天狗も真面目に会議に参加していた。この日話し合う予定の題目を全て片付け、天魔が終礼の挨拶をした時、幹部の一人である山伏天狗の男が立ち上がり、熱弁を始めた。
それを無視して、大天狗は天魔に調理菓子の説明を行っていたら、彼が猛烈に怒り出したのだ。

「某(それがし)がこれほど訴えているというのに、一体何をしているのですかっ!?」
「『ねりねりグミ』だけど?」
「これはペニシリンが発見された時以来の驚きじゃ」
「真面目にやってくだされ!!」

興奮し、何度も机を拳で叩く。

「なんという体たらく! お前たちもそう思うであろう!!」

両隣に座る、同門と思わしきに仲間に同意を求める。

「今日の天魔様は、一段と愛らしい」
「ババア可愛いよババア」
「お前たちに聞いた某が馬鹿だった!」

長い顎ヒゲをワナワナと震わせ、目を血走らせる彼は再び正面の二人を睨む。

「とにかくッ! 天狗の当主とその右腕である貴女達がそのような心構えだから、我々天狗が舐められるのです!!」
「別に舐められてないと思うけど?」

大天狗は頬杖を突きながら、気だるそうに答えた。

「否、舐められております! ここ最近、巷で起きている数々の異変。我々も被害を被っているのに、解決しても犯人からの謝罪も、妖怪の賢者からの説明もない!」
「被害ったって、イタズラレベルの規模じゃない。そんなんでイチイチ目くじら立てないの」
「規模の問題ではありません!」
(なーんか、守矢派の連中を除名したら。強硬派が活発になっちゃったわね)
(うむ。天狗の未来を案じてくれるのは、素直に嬉しいのじゃがのぅ)

以心伝心。長い付き合いの二人は、視線だけで言葉を交わす。

(とりあえず、今日は宥めて帰ってもらいましょうか)
(あいわかった)

天魔が頷き。ゆっくりと咳払いをしてから口を開いた。

「お主の言い分もわかる。じゃがな、巷で起きる異変など、天狗にとっては取るに足らぬ事。儂らはどっしり構えておれば良い。それが天狗の威厳となる」
「泣き寝入りしろと!?」
「そうは言っておらん。“ゲンコツ”は、ココ一番で振り下ろさねば意味がない。狼狽し、やたらめったら拳を振り回すのは下級妖怪のする事じゃ」

諭すように話す。しかし、彼の顔色は変わらなかった。

「天魔様の胸中、良くわかりました。ゲンコツを振り上げようとした時、腕が残っている事をせいぜい祈りましょう!!」

そう吐き捨てて、彼は議会所を大きな足音を立てながら去って行った。
彼の足音が消えて少しだけ間を置き、他の幹部達もポツポツと帰り支度を始めた。




やがて、議会所にいるのは天魔と大天狗だけになった。

「守矢の脅威が薄まったと思った矢先にこれか」

肩を回して凝りを解す天魔。

「まだ発足したばかりの集まりじゃない。今はまだ幹部同士、お互いの距離感を探っている時期よ」

守矢派の幹部を排除して、新たに人員を補充して再出発したばかりの天狗社会上層部。
まだ当分、波乱の日々が続きそうである。

「大天狗様」

一人の幹部が、議会所へ戻って来た。

「すみません。ああいう輩を抑え込むことこそが、私(わたくし)めの役目ですのに」

保守派を纏め上げていた鼻高天狗の女性が謝罪する。こめかみには、今日の午前に大天狗に絞められた痕が残っている。

「いや、今日はあれで良いわ。今の内に言いたい事を言わせておいた方が、後から変に拗れなくて済むわ」

大天狗は彼女の行動を適正だと評した。

「フヒヒヒヒ」

大天狗から肯定された瞬間、彼女は両手を頬に当てて、体をくねらせ始めた。

(これが無きゃ、優秀な奴なんだけどなぁ)

軽い頭痛に苛まれる大天狗。

「ああいう手合いは、手綱さえキチンと握れば、良い働きをしてくれる。奴が毒になるか薬になるかは、儂らの腕次第じゃ」
「では、私(わたくし)は当分、アレが先走らぬよう目を光らせておきましょう」
「そうしてちょうだい」
「よろしく頼むぞ」

鼻高天狗の女性の言葉に、二人は満足げに頷く。

「あと、すみません。話は変わってしまうのですが、よろしいでしょうか?」

議会の件がひと段落すると、元首領の女性がそう切り出してきた。

「ん? なに?」
「なんじゃ? 言うてみよ」
「姫海棠はたてという鴉天狗の少女についてなのですが…」

その瞬間、大天狗が彼女をバックブリーカーで締めあげていた。

「言え! どこでその名前を聞いたっ!?」
「アダダダダ!! でも、しばらくこの感触を楽しみたい!!」
「いいから吐きなさい! どこで聞いたの!?」

弓のようにその身を反らせる。

「か、幹部達の間で話題になってますよ! 何故彼女が天魔様と仲がよろしいのか、と!」
「なんですって?」
「アガガガガガガ! せ、背骨! 曲がっ、折れっ、分解すっ、死…」
「大天狗殿。ちとやり過ぎでは?」
「良いのよ。殺したと思ったら復活するゾンビみたいな奴だから」

鼻高天狗が沈んだ事を確認してから、二人は本題を話し始める。

「モミちゃんが言ってたストーカーの正体も、幹部の部下って可能性が高いわね」
「面倒な事になった」

腕を組み、眉間に皺を寄せる天魔。

「流石に『儂の身内じゃから手を出すな』とは言えんし」
「一時しのぎだけど、私の直属の部下にしちゃう? そうすれば下手に手は出せなくなるわよ?」
「ふむ。しばらくはそれで時間を稼ぐか」





天魔と大天狗が話している頃。
噂の張本人であるはたては、とある崖の上で、秋姉妹と共にいた。

「初日だし。今日はこれで終わりにしましょうか」
「ありがとうございます」

秋静葉は天魔から、再びはたてを鍛えるよう頼まれており、今日はその一回目だった。

「ところで、どうして急に再開したんでしょうか?」

理由を聞かされていなかった。

「『はたては、友達の事になると無茶をする。だから無茶をする必要がなくなるまで、鍛え上げてくれ』って」

秋穣子が教えてくれた。

「ようは、無茶を無茶と感じないくらい、頑丈な体と技術を身に着けろって事よ」
(レベルを上げて物理で殴る理論だ)
「何にせよ、じっくりやっていきましょう」
「よろしくお願いします」

今日はそこで解散となった。









「なんか記事になりそうな事ないかな」

二人を見送ったはたては、まだ崖の上に残っていた。
秋姉妹との鍛錬で、今日はまだ一度も念写をしていなかった事を思い出し、その場で携帯型カメラを取り出す。
文章を入力しようとしたその時だった。

「へっ?」

死角から飛んできた大型の鳥の足に、カメラをガッチリと掴まれ、そのまま掠め盗られてしまった。

(あれは、天魔様の鷹?)

嘴の形や、羽の色に見覚えがあった。

(とにかく追いかけないと)

はたては崖へと急降下する鷹を追うため、自らも飛んだ。

(あの子、滅茶苦茶速いっ!)

崖を滑空した鷹はそのまま木々が生い茂る森の中へと入る。
枝と枝の間。自身しか通れないギリギリの隙間を鷹は飛び、はたてを突き放す。
はたてもそれに習い、自分が通れて、かつ最短のルートを見極めながら懸命に追う。

(この音は、川?)

滝の音が耳に届き、前方に川が流れているのだとわかった。

(まさか捨てたりしないよね?)

嫌な予感は的中するもの。鷹は森を抜け、河原に出た瞬間、足を開いた。

「うっそ!」

森の中でその光景を見つめる。カメラは一直線に川へ向かっていく。

「よいしょっと」

しかしカメラは、川の前に立っていた女中が受け止めていた。

「なんで女中さんが……あ、しまっ」

一瞬の判断を誤り、太い枝に腹を強打する。

「ぐぅぅぅ」

呼吸困難に陥り、その場で蹲る。その枝をかわせば、河原に出られるはずだった。

「大丈夫ですか?」

申し訳なさそうに女中が近づいてくる。

「すみませんでした。天魔様が、貴女は一つの物事が終わると注意力が散漫になるからそれを身をもって教えるようにと…」

その為に、鷹にカメラを奪わせた。

「…」

聞えてはいるが、苦痛で返事どころではなかった。
内臓が暴れまわるような痛みと苦しさに、自然と涙が零れた。

「立てますか? そこはヒルが多いです、早くこちらまで」
「…」

俯いたまま、顔を横にふる。涙が数滴。地面を濡らした。

「ほら頑張って。泣きたくないから強くなったのでしょう?」
「違います」

しっかりした声で返事が返って来た。

「違うとは?」
「泣いて欲しくないから、強くなったんです」

誰に、と聞くほど女中は野暮ではない。

「失礼しますね」

断りを入れてから、蹲るはたてを負ぶさる。

「恥ずかしいかもしれませんが、我慢してくださいね」
「い、いえそんな!」

慌てて否定する。

「ただ、ちょっと懐かしいです」
「そうですか」

背負われて、山道を進んでいく。

「乗り心地は悪くないですか?」
「このまま寝ちゃいそうです。すごく安心します」
「良かった。天魔様以外の人を、背負った事がなかったもので」

その言葉に引っ掛かるものを感じた。

「あの、お子さんを背負った事は?」
「私に子はおりません」
「いらっしゃらないんですか?」
「産めない身体なんです。私は」
「え?」

予想外の返答に驚く。

「天魔様から、私の事は話すなと口止めされているんですけどね」

今のはたてになら話しても良いと判断した。

「私は、今のあなたより十ほど歳が上の頃、治安維持部隊を率いておりました。家柄と、学問に優れていたおかげで。その歳で高官の役職を与えられました」

それはまるで絵本でも読み聞かせるような口調だった。

「あの頃の私は権力に溺れ。貴女が軽蔑する事を幾つも平気でして参りました。その因果応報なのでしょう、ある宴会の席で、酒に毒を盛られました」

悪行を見かねた部下による鉄槌か、出世を妬んだ同僚の凶行か、上層部の制裁か、犯人もその動機も今となってはどうでも良かった。

「幸い、一命は取留めたものの、腑を広く焼かれ、激しい運動の出来ない身体になってしまいました。アルコールも分解できなくなりました」

思い返せば、彼女が酒を飲んだ所をはたては見た事がなかった。鍛錬の時も、彼女は少し付き合っただけで息が上がっていた。

「学問はそれなりに出来たので、退院後は、監査や寺子屋の教師等の内勤を務めるようになり。その後、天魔様のお世話役に抜擢されました」

そして長い長い歳月が経ち、今の女中としての彼女が形成されていった。

「今の医療技術や、妖術なら、治療できたりしないんですか?」
「仮に出来たとしても、治すつもりはありません」
「どうして?」
「私は多くを奪ってしまいました。これは私の罪。死ぬまでこの身体で生きていくつもりです」

それが彼女なりのケジメなのだとわかった。

「すみません。迷惑でしたねこんな話」
「い、いえ。そんな事ないです…」

どう返答すれば良いか困っていると、鷹が戻って来た。
鷹は女中の目の前で数回啼くと、飛び去ってしまった。

「はたてさん。今、鷹君が知らせてくれたのですが」
「なにか?」
「大天狗様が、貴女を直属の部下にしたいそうです」











翌日。椛と文の立ち会いのもと。大天狗による辞令交付が行われた。

「じれーこーふ。姫海棠はたて殿。以下同文」
「一人目で『以下同文』って言う人、はじめて見ましたよ」

これ以上にないくらい椛は呆れていた。

「はいこれ。私の部下になった特典として、私が開祖した鞍馬流剣術の奥義書の目録一式」

詰まれた巻物を渡される。

「いいんですかこれ貰って!?」
「素直に『いらない』って言った方が良いですよはたてさん。見た目が派手なだけで、実用性低い技ばっかりですから」
「ウチの流派は浪漫重視なの! 義経流にも影響与えてるんだから!」

その後、『組織系統としては、大天狗に仕える従者と同等の扱いではあるが、自由にしていて構わない』という説明を受け、はたては解放された。
大天狗の屋敷を出て、三人並んで歩く。

「刀の作成は順調ですか?」
「お陰様で。来週には研ぎ終わりそうです。柄の準備も出来てます」
「鞘の方はもう用意されているのですか?」
「どうするかはまだ決めていません」

当初はにとりに頼むつもりだったが、今の椛は迷っていた。

「にとりにではなく、やっぱり本職にお願いすべきでしょうか?」

文にまで言われてしまい、鞘師について本気で考える事にした。










にとりの工房。

「やっぱり餅は餅屋っていうし、私は賛成だよ。鞘師に頼むの」

にとりは鞘師への依頼に肯定的だった。

「にとりの知り合いで、有名な鞘師を知りませんか?」
「木工職人を何人か知ってるから、紹介するよ」

にとりから、住所と店名が書かれたメモを受け取り、早速そこを当たってみる事にした。

「あら、イヌバシリちゃん」
「ん?」

三人が工房のドアを開けると、目の前に厄神の雛がいた。

「まぁまぁ。これから三人でデートかしら?」
「違いますよ。刀造りの続きです。ちょっと鞘師を探しに方々を回ろうかと」
「何言ってるの? 鞘師ならすぐ近くにいるじゃない」

そう言って、雛はにとりの工房から三軒隣の家を指さした。

「あー。そういえばそこの彫刻屋のジイさん。昔は有名な鞘師だったっけ」

雛の言葉でにとりは思い出す。

「ちょっと厄い店主だけど、これ以上にない、最高の鞘を作ってくれるはずよ」
「『厄い』って、一体どんな店主なんですか?」
「気に入られれば、いずれ分かるわ」

多くの謎を残したまま、雛は去ってしまった。

「近所ですし。覗いてみますか?」

せっかくだからと、椛達は雛の言う職人を訪ねることにした。






「ごめんください」

『河童彫刻』と書かれた暖簾を潜り、入店する。
店内は、店というよりも、工具や素材が並ぶ工房に近かった。

「あぁ。なんだ?」

白髪が混じる角刈りに、ほっかむりを被せた、河童の老人がいた。
今は休憩中なのか、削りかけの木片を横に置き、キセルを吹かしている。

「休まれているところすみません。鞘の作成をお願いしたいのですが」

単刀直入は申し出る。

「もう作ってない」
「かつては評判だった鞘師だったと伺ってます」
「昔の話だ」

「…」

はたては二人の話を聞きながら、店内をゆっくり見渡す。

(電気の工具が一つもない)

工具は棚にずらりと並んでいるが、にとりの工房で見かける、電動で動く工具が一つもなかった。

(頑固一徹ってカンジがする)

足音を殺して部屋の中を歩く。謎の隠密性を持つ彼女のその行動に、他の三人は気付かない。

(ん?)

壁際まで歩き、ある物を見つけた。

(隙間に何かある、なんだろ?)

壁と箪笥の間、数センチのデッドスペースに、顔を近づける。

(白鞘だ)

はたてが見つけたのは、装飾の施されていない鞘。白鞘と呼ばれるものである。

(でも、なんかこの白鞘。模様が…)



「多少、値が張っても構いません。作ってはいただけないでしょうか?」
「しつこいぞ。他をあたってくれ」
「こちらなら良い鞘を作ってくれると伺ったのですが」
「知るかいそんなの」
「わかりました。他を当たります」
「おう。そうしてくんな」
「お邪魔しました。お時間を取らせてすみませんでした」

椛は踵を返しながらそう告げて出て行った。文も小さな会釈をして椛に続いた。

「ったく、とんじゃ邪魔が入りやがった」

キセルを置いて、彼は作業を再開する。




店の外。

「技術だけで飯を食って来た老人ほど、頑固な奴はいませんね」

店を出て早々、椛がぼやく。

「あ、そういえばはたてさんは?」
「まだ、中ですよ」

文が店を指さす。

「折角です。ココは、はたてに任せてみては?」

迎えに行こうとする椛に待ったをかける。

「なぜです?」
「あれは、お年寄りに好かれる素質がありますから。案外、すんなり聞いてくれるかもしれませんよ?」





店内。

「…」

彼の手の中で、木の塊が徐々に輪郭を得ていく。その様子をはたては眺めていた。

「なぜお前は帰らない?」

作業しながら、はたてに問いかけて来た。

「何を作ってるのか気になって」
「茶碗だ」
「えっ、お茶碗を手で彫って作ってるんですか?」
「なぜそうも驚く?」
「木のお茶碗っていったら、機械でガリガリ削って一瞬で作ってるのしか見た事なくて」

手作業で最初から最後まで、というのを見るのは初めてだった。

「手彫りの茶碗も知らねぇのか最近の餓鬼は?」
「はい、ごめんなさい」
「ケッ」
「…」
「…」

シュンとするはたてを見て、彼は居心地が悪くなる。

「おい」
「は、はい」
「そんなに気になるなら、近くで見てみろ」
「ありがとうございます」

その言葉に甘え、間近で作業を見学させてもらう。




「この木、節ばっかりなんですね」

ある程度作業が進んでから、はたてが話かける。彼が削っている木は、円形の節が目立ち、加工に向いている素材だとは思えなかった。

「良い素材を使って、良い作品が作る。そんなの、ちょっと訓練すれば誰だって出来る」

作業の手を止めることなく話す。

「どんな素材でも、最高の品物を提供する。それが職人だ」

はたては棚に置かれた、これから納品するであろう商品に目をやる。
数体の動物の彫刻で、どれも節を上手く取り入れた、趣のある作品だった。

「お陰で今じゃ、素材に節や荒が無いと落ち着かないくらいだ。節だらけの粗悪材を芸術品に変えられるのは、この幻想郷じゃ俺くらいなもんさ」
「すごいです」
「客をそう言わせるのが、職人の仕事だからな」

ムスっとしていた彼の表情が、少しだけ柔らかくなった。

「どうしてもう、鞘を作らないんですか?」
「金にならないから廃業した。それだけだ。作り方なんて、とうの昔に忘れたよ」
「嘘ですよね。それ」

その言葉で、彼の手がピタリと止まる。

「どうした急に?」
「さっき、見ちゃったんです。壁と箪笥の隅に、何本も鞘があったのを」
「アレは俺が作ったんじゃない」
「節だらけの粗悪材を芸術品に変えられるのは、おじいさんだけなんでしょ?」

鞘には節を利用した模様があり、誰の作品かは一目瞭然だった。

「世間知らずな顔して、中々目聡いんだな嬢ちゃん。餓鬼でも鴉天狗といったところか」
「なんで鞘は作ってないだなんて言うんですか?」
「嬢ちゃんにとって、すごく詰まらない話になるかもしれないが。それでも聞きたいか?」
「是非」
「俺が鞘をまだ作っている事に気付いたのは、嬢ちゃんが初めてだ。いいだろう。話してやる」

作りかけの茶碗を隅へ置き、彼は再びキセルを手に取った。

「俺は確かに昔、鞘師としてそれなりに有名だった」
「そう聞いてます」

彼はポツポツと語り始める。下積み時代の苦労。売れる為の試行錯誤。その努力が実った頃の思い出話を。

「俺の鞘の意匠は美しいと評判だった。刀の納まりも良く、保管にも向いていると評価が高かった。しかし、ひとつ重大な欠陥があった」
「欠陥?」
「当時、まだ若かったこの村の村長から指摘されたんだ『貴方の作った鞘は確かに美しく、刀の保管に適している。しかし他の職人の鞘よりも構造上、抜刀が数瞬遅れる』ってな」
「数瞬ですか?」
「数瞬だからって侮るな。命が懸かった場面で、それは大きな隙になる」
(確かに)

これまでの経験から、彼の言う事が深く理解できた。

「ある日『とある剣士が任務の最中、夜道で野盗に襲われた』という一報を受けた。暗闇からの不意打ちだったらしく、剣士は剣を抜く前に死んだそうだ」
「えっ」
「その剣士は俺の女房だった。俺が作った鞘を使っていた。その時、頭に過ったよ『俺の作った鞘じゃなかったら助かったんじゃないのか』って」
「そんな事誰にも。それに、悪いのはおじいさんのせいじゃ…」
「分っている。悪いのは野盗の連中だし。他の鞘にした程度で運命が変わるとは限らない。けどな、心がどうしても納得しようとしなかった」

野盗は全員捕まり、それ相応の処罰を受け、女性の亡骸は手厚く葬られた。けれど、彼の心が平静さを取り戻す事はなかった。

「あいつの死を境に、鞘師を畳み、木工職人になった。無理矢理にでも忘れる為に」
「じゃああの鞘は?」
「忘れようとしても出来なかった。あいつが死んで半年も経たない内に、俺の手は勝手に突き鑿(ノミ)と鉋を取っていた」

ただし、作り始めた鞘は今までのような意匠性を優先したものではなかった。

「どうすれば速く抜けるのか、どうすれば持ち主の生存率を高めるのか、それだけを追求した鞘を、俺は作り始めていた」

既に居ない者の為だけに、彼は木を削った。

「一年に一本、あいつの命日に合わせて俺は鞘を作った。毎年毎年、それを繰り返した」

作っては墓に供え、また作っては供え。その度に鞘は改良されていった。

「これだったらお前は助かったんじゃないかって墓石に話しかけながらな」

先程はたてが見つけた鞘達は、かつて供えられていた物だった。

「作らずにはいられなかった。いつか、最高の鞘が出来れば、あいつが帰ってくるんじゃないかって、そんなありもしない幻想に憑りつかれて」
「…」
「『ほら出来たぞ。最高の鞘だ。頑丈な椚(クヌギ)を使ったんだ。使ってみろ。どんな一撃だって防げる』、『ほら出来たぞ。最高の鞘だ。鯉口の形を工夫したんだ。すぐに抜けるぞ』。
 作っても作っても、あいつは帰ってこない。俺に何も言ってくれない。俺を責める事も、許す事も、励ます事も、慰める事もしてくれない。わかってるそんな事」

それでも彼は繰り返す。きっと今年も、来年も、再来年も。

(大切な人を喪う日というのは、誰にも平等に必ずやってくる)

彼の姿を見て、その実感が湧いた瞬間、心の奥底から言い知れぬ恐怖が噴き出した。

「どうした嬢ちゃん? 大丈夫か?」
「え? あっ…」

はたての手が震えている事に気付き、心配してくれていた。

「その震え様、今の話で、何か辛い事を考えちまったか?」

手の震え方に、共感するものを感じたのかそう問いかけてきた。

(椛の身に何かあったら、きっと私はこの人と同じになる)

そうなった未来を無意識の内に想像したからこそ、手が震えていた。

「今、私には喪いたくないと思う人がいます」

自然と口が動いていた。

「さっきの白狼か?」

コクリとはたては頷いた。

「椛の身体には、たくさんの傷があります。本人は紙一重で生き延びた結果だと言っていました」

あの身体に、あれ以上に傷が増えるのは、自分が傷つくよりもずっとずっと辛かった。

「もし、椛がこれから負うであろう傷の数を減らせるものがあるのなら、私は何をしてでも、手に入れたいと思います」
「餓鬼が軽々しく『何をしてでも』なんて言うもんじゃねぇぞ」

彼は咥えていたキセルを置き、鋭い眼光ではたてを貫く。

「その白狼に万が一があったら、嬢ちゃんはどうなる?」
「多分。おじいさんと、同じになると思います。一生囚われて生きる事に」
「ハッ、餓鬼がそんなもん背負うなんざ、千年早ぇ」

立ち上がると、勝手口で雪駄を履いた。

「案内しな。さっきの白狼のところへ」






にとり宅。

「邪魔するぞ河城」
「ジイちゃんから出向くなんて珍しい事があるもんだ」

はたてに案内され、彼はにとりの工房を訪れた。
その場には、椛も文もいた。

「やい。刀の図面を見せろ」
「これだよ」

にとりは、自身が設計した刀の図面を渡す。

「これを打つ鍛冶屋は、信頼できる腕なんだろうな?」
「天魔様と大天狗様のお墨付きの刀工と研師に依頼しています」
「なら良い。おい白狼」
「なんですか?」
「手を見せろ」
「はい?」

同意するのを待たず彼は椛の手を取ると、じっと眺め始めた。

「あいつの手も、こんなんだったな」
「あいつ?」

問いには答えず、彼は手を離した。

「この刀の鞘、俺に作らせろ」
「引き受けていただけるのですか?」
「ただし、どんな口出しも許さない。俺は俺が作りたいと思った鞘を作る」
「依頼主に口出しするなとは、ずいぶんと大きくでましたね」
「その代わり、持ち主を護る、最高の鞘を用意してやる」
「ならば文句はありません」

値段は一般の鞘師に依頼するよりも安く。
納期は必ず守るという口約束だけを交わして、老河童は帰って行った。

「すごいですねはたて。あの頑固一徹をどう説得したのですか?」

興味深そうに文が尋ねる。

「秘密」

口の前で指を立て、はにかんだ。






【 mission6:手入れ道具購入 ~ 射命丸文 ~ 】

鞘師に依頼して三日が過ぎた。提出まで残り一週間を切っていた。
この日の午前に、椛は大天狗に屋敷に来るよう言われていた。

「この前の幹部会議の休憩時間の雑談で、『ファーストキスは何味だったか?』っていうのが話題に上がってね」
「その話に至るまでの流れがすごい気になるんですけど?」
「一人、『廃アルカリの味』って言った奴がいたんだけど。何があったのかしら?」
「あまり深く追求しない方が良さそうな気が…」

椛は大天狗の背後に目を向ける。

「ところで、後ろにある大きな鞄はなんですか?」

異様な大きさのトランクケースが気になった。それが呼び出された原因なのだろうと椛は察する。

「今日から一週間くらい出張行ってくるから。留守の間、指揮権は天魔ちゃんと、サイコレズに預けたから、有事の時はその二人から指示を待ってね」

どうやらそれを伝えたかったようだ。

「結界ってすんなり抜けられるモノなんですか?」
「私くらいになると余裕よ。何年幻想郷に住んでると思ってるのよ」

裏ルートから強行突破の方法まで幅広く知っていると、そっと耳打ちしてきた。

「にしても遠征で一週間って…国でも滅ぼす気ですか?」
「違います。やっと来たのよ招待状が」
「招待状?」
「少し前に、三人にお見合い写真の山を見て貰ったじゃない。その婚活パーティの招待状よ」
「本当に行くんですか?」
「うん。チョーおめかしして行く」
「なんで一日だけの催し物に一週間も?」

大天狗なら飛べば日帰りでも行けるように思えた。

「外の世界は、未確認飛行物体には容赦なくミサイル撃ち込んでくるから、安易に高速飛行とか出来ないのよ」
「おっかない所ですね。まぁ、頑張ってください」
「うん。天狗代表として、恥じない婚活をしてくるわ」

人差し指と中指を立てて敬礼してみせた。

「一般の天狗とは明らかに別方向の進化を遂げた貴女が代表って、どうなんですかね?」

あと二時間程で出発するらしく、椛は彼女の支度を邪魔してはいけないと思い、屋敷を出た。









午後。

「~~~♪」

上機嫌な文は、椛の家を目指して歩いていた。
その時だった。

「どいたどいたー!」
「わひゃぁ!!」

何者かが高速で文を追い抜く。
その者が通過した際に発生した突風が、文を襲った。

「くぅっ、目に砂が」
「おっとぉ」

文を追い抜いた者は、両足を地面に擦らせてブレーキをかけて振り返った。

「あーごめんね文ちゃん。無駄にテンションが上がってたわ。これ使って」

大天狗が自身のハンカチを差し出す。

「どうしたんですかそのお姿は?」

渡されたハンカチで目尻を拭いながら尋ねる。着物が普段着の彼女が、洋服を身に着けている事に驚いた。

「ちょっと遠出するから、余所行き用に着飾ってみたのよ。どうよ?」

ノースリーブの白のワンピースに麦わら帽子を被る大天狗は、スカートの腰あたりを摘まんでみせた。

「八尺様のコスプレですか?」
「ちーがーうー!」

婚活パーティに行く事を説明する。

「良い知らせをお待ちしております」
「ありがとう文ちゃん。行ってくるわ。あ、そのハンカチは別に返さなくていいから」

こうして、大天狗は結界の外へと出かけていった。







大天狗と別れた文は、椛の家にたどり着いた。

「ごめんくださーい」

扉をノックする。今日の椛は非番で、この時間に家にいる事はリサーチ済みだった。

「どうも文さん」
「椛さん。ちょっとデートに行きませんか?」
「本日はもう閉店です。またのご愛顧をお待ちしております」

扉を閉めようとする椛。

「待ってください。ショッピング! 一緒に買い物行きましょう買い物!」
「何を買うんです?」
「椛さんがこれから使う、刀の手入れ道具ですよ。まだ購入していないのでは?」




文に半ば強引に連れ出された椛。商店の多い集落へと続く道を、文と共に歩く。

「刀の手入れは、詰所にあるものを拝借しようかと思っているのですが」

集落へ向かってはいるものの、椛は未だに買うかどうか決めかねていた。

「質の良い刀なんです。それに見合う高価なもので手入れをしないと」
「打ち粉や刀油なんてどれも一緒です。高いのは、納める箱やらの見た目が凝ってるだけです」
「良いじゃないですか。大勢の想いが詰まった刀です。雑に扱っては、可愛そうです」
「…」
「そしてなにより銘が椛さんと同じなんです。化粧道具には、良いものを使ってあげないと」
「……あまり高くないと良いのですが」

その言葉で、ようやく買う事を決心したようだった。





しばらくして集落へ到着する。
商店が多く並ぶだけあって、往来は道行く人で活気づいている。

「とりあえず、刀剣商を回ってみますか?」
「そうですね」

まずは刀剣を扱う店を巡ってみることにした。







数時間かけて、集落にある刀剣商の殆どを回りきる。

「何処の店も、品揃えは悪くないのですが」
「『これだ』ってモノがありませんね」

値段が高かったり、見た目が納得いかなかったりで、購買意欲がくすぐられるものには巡り会えなかった。

「あの店が最後ですね」
「あそこは高級店です。良品を扱っているのでしょうが、私の懐事情では手が出ません」

諦めて質屋でも回ろうとかと考えたその時。

「あら、相変わらず仲がよろしいのですね」

高級店から出て来た、藍色の着物の女性に声を掛けられた。

「げぇ」
「あ…」

とある人物に出くわして、二人は苦い顔をした。

「そのような顔をされるのは、いささか心外ですね」

かつて保守派を率いていた女性だった。

「ご無沙汰してます首領さん」

文の挨拶に、彼女は少しだけムスっとする。

「その名で呼ばないでください。もう保守派は解体されたのですから。今の私は、大天狗様の右腕です」

宣言し、髪を掻き上げる。銀の髪飾りが優雅に揺れた。

「そういえば、大天狗様から留守の間、一部の軍権を預かったとか」

椛は大天狗の言葉を思い出す。

「まったく大天狗様も戯れが過ぎます。欧州などに思いを馳せずとも。もっと近くに愛を唱える者がいるというのに」

頬に手を当てて、憂鬱そうにため息を吐く。

(これだけ見たら、すごい美人なんだけどなぁ)

その証拠に、往来にいた男ならず女までもが、彼女のその仕草に釘付けになっていた。

「お買い物ですか?」

胸に抱える紫色の風呂敷を見て、文が問う。

「まあそんな所です。刀の手入れ道具が古くなったので、新調したんです」
「…へぇ」
「貴女方は?」
「デートです!」
「私も刀の手入れ道具を探しに」

文の言葉に椛が被せる。

「手入れ道具? 支給品の低価格低品質な剣を使う貴女には不要ではなくて?」
「自分用の刀を持とうと思いまして。任務で使用するための」
「すごいんですよ椛さんの刀。大天狗様の今剣を打った家系の刀匠に依頼してありますので、きっと名刀になりますよ」
「それは喜ばしい事です。貴女は剣を振り回すことしか、取り得が無いのですから。より一層の活躍を期待していますね」
(皮肉で言ってるのか、本心なのかわかりませんね)

どう反応すべきかと、文は考えあぐねる。

「任務で使用すると言う事は、大天狗様の名の下にその刀を振るうという事です。努々(ゆめゆめ)それをお忘れなきよう」

そう告げる彼女の目には、只ならぬ殺気が篭っていた。

(この方は、大天狗様が絡むと本当に見境がなくなりますね)

文は首筋に滲む嫌な汗を拭うために、ポケットに入っていたハンカチを取り出す。

「お待ちなさい!!」

次の瞬間。文は女性に手首を掴まれていた。
あまりの速さに文にも、椛の眼にも捉えることが出来なかった。

「そのハンカチはまさか…」

彼女の身体が震えだす。

「五十三日前!! 大天狗様が人里に赴かれた際、大通りから西に三列離れた区画の反物屋で買われた、柿の葉で染めたハンカチではありませんか!!」
「詳細はわかりませんが、確かにこれは先ほど大天狗様からいただいたハンカチですけど」
「やはりそうでしたかっ! 道理でこんなにも強く匂いが残っているのですね!」
(怖い。眼がガチだ)

先ほど向けられた殺気とは、別系統の威圧感に二人は気圧される。

「譲ってください。言い値で買います!」
「そんな、お金だなんて」
「確かに! 大天狗様の使用品に値は付けられません! 良いでしょう! 貴女の望みを言いなさい!」
「良いんですか?」
「命以外なら何でも差し出す所存です!!」
「そんな大それた事じゃなくてですね。ちょっと譲って欲しいものがありまして」
「譲る? 私の地位を譲渡せよということですね…しかし、これもハンカチの為、背に腹は変えられません」
「だーかーらーですね!!」

文は彼女が抱える風呂敷を指差す。

「物々交換です! このハンカチを差し上げますので、その手入れ道具をください!」
「へ?」

彼女はキョトンとする。

「これが欲しいんですか?」
「それが欲しいんです。今、世界で一番」

文は彼女にハンカチを握らせた。

「あとはそちらの番です。椛さんに渡してください」
「………良いでしょう」

彼女は、憑き物が落ちたように穏やかな顔になる。

「犬走さん。貴女の戦いぶりは、組合時代から拝見しております。貴女が優れた刀を持てば、きっと鬼に金棒なのでしょう」

椛の前に風呂敷を突き出す。

「受け取りなさい。そして大天狗様の為に、その刀を振るいなさい」
「よしてください。私はただ、死にたくないから、失いたくないから剣を振るうだけです」

冷めた目で見つめ返した。

「きっと貴女のそういう所を大天狗様は気に入っているのでしょうね」

ふっと笑い、手を離した。椛の腕に風呂敷が落ちる。

「重っ」

抱えた風呂敷が想像以上の重さだった事に驚く。

「当然です。所々、金をあしらっているのですから」
「悪いですね、そんな高価なものを譲っていただい…」
「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥハァァァァ、スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥハァァァァ、スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥハァァァァ」

彼女は早速、手に入れたハンカチを口元に当て、異様な呼吸を繰り返す。

「あの…」
「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」
「あ、いえ。なんでもないです」

話しかけようとすると『邪魔するな』という眼で睨まれ、言葉を引っ込めた。

「狂気ってこういうのを言うんでしょうね文さん」
「完全に聖遺物扱いですね。大天狗様が使用した盃なんか手に入れた日には、聖杯として一生崇めそうです」
「これが上層部の一人ですよ?」
「大丈夫なんでしょうか天狗社会」
「でもまぁ。序列二位の方がアレですから。ある意味納得かもしれませんが」
「それもそうですね」

これ以上彼女と関わりたくない二人は、早々にその場を離れた。









目的を達成した二人は帰路についていた。

「よろしいのですか私の為に? 本当ならもっと有益な物と交換出来たのでは?」
「構いませんよ、あの時、私が世界で一番欲しかった物は紛れも無くそれなんですから。あ、それとも、見返りを要求した方が良かったりします?」

顔を近づけ、耳元で意地悪く囁く。

「有難く頂戴します」
「はい。そうしてください」

少し歩くと、遠巻きにはたての家が見えた。
明かりはついておらず、おそらく新聞のネタ探しか、天魔のもとへでも出かけているのだろう。

「時々思います。あの日、椛さんに協力を仰がなかったら、私一人で引篭りのはたてを説得できたのかなって」

もしもの未来を文は想像する。

「最終的には出来ていたと思いますよ」
「でも、きっと私だけでは彼女を自立させる事は出来なかったでしょう」

椛がいなければ、先輩や上官の言う事をただただ聞いて行動する受け身の少女になっていたかもしれないと文は考える。



しばらく歩くと、ダムの近くを通りかかった。

「ここはお互い、あまり良い思い出がありませんね」

椛にとって、かつて故郷だった場所。先輩の亡骸が埋まっている場所。守矢神社の様々な野望の起点となった場所。
自分一人では抗いようのない力に翻弄され続けた場所だった。

「そう、ですね」

文にとっても、この場所は辛い経験しかない。

「唯一あるとしたら、先輩と再会できたという事だけでしょうか」
「言えてますね」
「先輩さんは、生前、どんな方だったんですか?」
「初めて会ったのは、新人として配属された哨戒部隊でした」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


配属された初日。
名前のみという非常に簡潔な自己紹介を終え、詰所の端で自分に支給された物の整理をしていると話しかけられた。

「なんでお前みたいな歳の奴が配属してるんだ? 普通なら訓練生にも参加できる年齢じゃないだろ?」
「自分の食い扶持は、自分で稼がないといけないもので」
「家族は?」
「いません」
「頼れそうな親戚は?」
「いません」
「力を貸してくれそうな友達は?」
「いません」
「相談できそうな仲間は?」
「いません」
「ふーん」

顎に手を当てて先輩である白狼天狗の少女は考え込む。
しばらくして考えがまとまったのか、椛に手を差し出した。

「喜べ、私が記念すべき第一号になってやる」

そう言って無邪気に笑った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「不愛想で可愛げの欠片もない餓鬼に、ああも明るく接してくれたのは先輩が初めてでした。あの人がいなければ、ただでさえ最低だった私は、堕ちるところまで堕ちていたでしょう」

立ち寄り、慰霊碑に手を合わせてから、その場を去った。








墓地の前。

「ここには、あまり近づかないようにしてきました」

かつて、幼い椛から全てを奪った男が眠る墓地の前を通る。

「やはり駄目ですね。時が経ち、心に多少の穏やかさを得ても、彼を、あの男を許す気にはなれません」

墓地の中で、最も立派な墓石を見ながらそう告げた。

「それで良いと思います。誰を恨み、誰を許すのかは、全て椛さんの心が決める事です。そこに倫理や道徳が入り込む余地はありません」

文はただ、椛の今の心情を肯定する。
ここでは一度も足を止めることなく、二人は通り過ぎた。





様々な種類の落葉樹が突き出すように生えた崖の斜面。
その中にある一本の楓を、椛と文は眺めていた。

「あの木です。あれに私は引っ掛かってました」

発電所建造の騒動で神奈子を追い詰めた際、椛は発電の要となる御柱を破壊した。
破壊した事で生じた衝撃で吹き飛ばされた椛を受け止めたのがあの木だった。

「あの紅葉の中で意識が戻った時、ただただ泣いていました」

その時の心境を、椛は口にする。

「私はこの山に嫌われていると、ずっと思っていました。心のどこかで『この山は、私の死を望んでいる』と考えて生きて来ました」

しかしあの時、山は自分の命を救ってくれた。だから涙が止まらなかった。

「まぁ、今にして思えば、山なんて所詮は土が盛り上がり木が生えている場所に過ぎません。きっと、全部私の妄想だったのでしょう」

苦笑して、崖に触れて。楓の木を再び見つめる。

「でももし、この山に耳と口があるのなら、訊いてみたく思います。私の事をどう思っているのか」
「嫌いだと言われたらどうします?」

文が少しだけ、意地の悪い質問をする。

「そしたら私はこう言い返してあげます」

振り返った椛は両手を広げる。満面の笑みだった。

「私は貴方が大好きです。と」

その瞬間、吹き込んで来た風に木々が煽られ、葉の表面が太陽光を反射し、あたりがキラキラと輝きだした。

「……おっと」

自分らしからぬ乙女な仕草をしている事に気付き、赤面して両手を引っ込める椛。

「素敵な一枚、いただきました」
「撮ったんですか今の!?」
「ええ、ばっちりと」

カメラを手に文は微笑む。

「貸してくださいそのカメラ!」
「駄目です。手放すワケないでしょう。あんなベストショット」

逃げるように駆け出す文。それを椛は追いかけた。







しばらく椛から逃げる文だったが、ある場所まで来て足を止めた。

「そういえばここは」

つい最近まで椛が暮らしていた、旧椛宅の前だった。

「この家、まだ取り壊してなかったんですね」

少し前まで椛が住んでいた家を見て、文が呟く。

「廃墟と変わらぬ風貌ですが、まだ十分住めますし。私にとっては数少ない思い出の場所です。更地にするのは、もう少し後にしようかと思いまして」

追いついた椛がそう説明する。
二人は廃屋に近づき、まだ残っている縁側に座る。

「この席で、何度、月見酒したかわかりませんね」
「そうですね」
「一度、ここで無理矢理に唇を奪って、ぶん殴られた事もありましたね」
「謝りませんよ?」

椛にとっては、あまり思い出したくない過去である。

「今、迫ったら。どういう反応をしてくれるんでしょうか?」
「なんですか急に?」

文は椛の肩に寄り掛かる。

「さっき『嫌いだと言われたらどうします?』と聞いたじゃないですか?」
「ええ、嫌な質問でした」
「あの後、こう続けるつもりだったんです。『もしこの山が貴女を嫌いだと言っても、私は貴女を愛してます』って」

予想外の返事をされてしまったため、言うタイミングを逃してしまった。

「椛さん。私は、貴女を好きになって本当に良かった」

椛の顔は見ず、視線は前に向けたまま話を続ける。

「私だって、負けず劣らずの最低な奴でした。組織でのし上がる為なら、誰を蹴落とそうと構わないと考えていました」

狡猾で冷徹な文は、椛と出会った事で新しい道を見つけた。

「出世よりも大切なものがある事を教えてくれてありがとうございます」

礼を述べ、文は椛の顔を見つめる。

「やっぱり、手入れ道具のお礼。して貰っても良いですか?」
「何を言って…」

しっとりとした文の唇が、少しずつ椛に近づく。

「椛さん」
「今ならいつもの冗談で済みますよ?」
「椛さん」
「本気ですか?」
「椛さん」
「待ってください」
「椛さん」
「…」
「…」

重なる唇。椛は文を拒まなかった。

(柔らかいなぁ、椛さんの唇)

脳を駆け巡る心地良い電流に酔いしれながら、目を閉じようとする文。そんな彼女に向け、椛は自分の手に平を見せた。

「 ? 」

文が見ているのを確認してから、親指、人差し指、中指と順番に畳んでいく。
何かのカウントダウンだとわかったが、唇を離すつもりはなかった。
そして今、小指が畳まれる。

「イだァい!!」

脇腹に激痛が走り、文は飛び上がる。
椛が、文の肋骨の隙間に指を突き入れていた。

「うごごご…」

余りの痛みに悶絶し、縁側に寝そべる。

「おいたが過ぎますよ」
「ですが、一歩ずつ確実に前進してます」

痛みをねじ伏せて不敵に笑う。

「今はまだファイブカウントですが、いずれ時間無制限にして差し上げますから」
「勝手にしてください」


呆れたような、困ったような、鼻で笑うような、そんな微妙な表情を椛は浮かべた。






【 奉献式 】

実物審査の前日。
大天狗が帰って来たという事で、椛は屋敷に顔を出した。

「これ、お土産のマカダミアナッツ」
「国内であったんですよね?」

裏面までビッシリと異国の言葉で表記された菓子を受け取り、椛は困惑する。

「それで良い出会いはありましたか?」
「話は変わるけどさモミちゃん。よくボクシングの試合で、どちらの選手も攻撃しないで睨み合いが続くと『お見合いしてんじゃないんだぞ』ってヤジが飛ぶじゃん?」
「それが何か?」
「お見合いの最中にさ『ボクシングしてんじゃないんだぞ』って言われる事あると思う?」
「ないでしょ普通」
「だよねぇ……」
「何があったんですか?」
「いや、実はね」


船上で開かれた婚活パーティでの出来事を、大天狗は赤裸々に語り出した。


「今回。気性が荒かったり、なんかの拍子で暴走しちゃうタイプの参加者が多かったみたいでね」
「物騒な集まりですね」
「一対一でテーブルトークする企画があって。私の最初の相手がその類だったのよ。ライカンスロープの系統らしくて」
「…」

結末が椛には予想できた。

「そいつ、急に暴走し始めてね。まぁ私が速攻ワンパンで沈めたから、何事も無かったんだけど」
「災難でしたね」
「問題はその後よ、なんか他のテーブルでも暴走する奴が出始めてね。会場は大混乱」

混乱が混乱を呼び、会場は地獄絵図と化した。

「会場が落ち着いた頃には、参加者が半分に減ってたわ」

そして、残った参加者で一対一のテーブルトークを再開させた。

「で、そこでまた暴走するのが続出してね。そこから更に数を半分に減らして再開」
「でも、真っ当な相手もいましょう?」
「三人目でようやく正常な男に当たったけど、女性軽視の色々とムカつく奴でね。あんまりにも舐めた態度だったから途中で手が出ちゃったわ」
「なにやってんですか」

大天狗がその相手をノした頃、他でも似たような事があったのか、参加者の数がまた大幅に減っていた。

「暴走するわ、戦闘不能になるわ、命の危機を感じた連中が辞退するわで、どんどん数が減っていって。最後は私ともう一人だけになってたわ」
「貴女も辞退すれば良かったのに」
「あの過酷な状況を生き残った男なら、かなり見込みがあると思って、残ったのよ」
「それで、決勝の相手は誰だったんですか? さぞ名のある大妖怪なのでしょう?」

期待を込めて尋ねる。

「バンシー」
「へ?」
「バンシー」
「アイルランドとかいう国の妖精。確か女性でしたよね?」
「うん」

生き残るのが、男とは限らないという事を、この時まで完全に大天狗は失念していた。

「その妖精って確か、同性婚希望だったような」
「初対面で滅茶苦茶気に入られた。その場でプロポーズされた」
「保守派の首領といい、妙齢の女性にやたら好かれますね貴女は」
「断ったら『力尽くでモノにして差し上げますわ』とか言ってラストバトルよ。すんごい苦戦したわ」
「それもうお見合いって言うより…」
「そうよ! モンスタートーナメントよ! 婚活パーティだと聞いて、蓋を開ければ妖魔一武闘会よ!! はいコレ記念品! 高級洋酒の詰め合わせ!」

のしが付いた箱を椛の前に置く。

「今の話を聞くと、優勝の景品にしか見えませんね」
「本当よ畜生!」

なんとも言えない気持ちで、椛は大天狗の屋敷を後にした。










にとりの工房。
椛にとって、ついにその時がやってきた。

「出来たよ椛。鮫皮も上手く巻けた」

大天狗お墨付きの刀匠が打ち、天魔が認めた研師が磨いた刀身に、にとりが用意した柄が取り付けられている。黒漆の塗布された鮫皮が妖しい光沢を放っている。

「持ってみて」

抜き身の刀がにとりの手から椛の手に、慎重に移される。

「…」

刀身に浮かぶ自分の顔を見詰める。

「カガミ?」

カタコトの言葉で、にとりに問う。

「違うよ。椛だけの刀だよ」
「カガミ?」
(駄目だ。高価な物を身に着けると身体が拒否反応を起こす病気が発症してる)

高価な装飾品を手に取ると、正常な判断が難しくなる椛特有の発作。
治すためには、椛が今手にしているのは武器だとはっきり意識させる必要があった。

「ほら椛。試し斬りしようよ」

急ぎ、部屋に藁を巻いた竹を立てる。

「タメシギリ?」
「手に持ったそれで、あの竹をズバっと斬るの。わかる?」
「アッ、ハイ」

両手で柄を握り、竹の前に立つ。柄を強く握った瞬間、椛の顔付きが変わった。

「はっ!」

腹から声を出して刀を振るう。その刹那、竹が四等分に切断された。

「すごい。一回だけ振るうつもりだったのに、勢い余って三回も」

通常運転に戻った椛は、その切れ味と扱い易さに驚く。

「大量生産の剣は、切れ味はイマイチだし、金具は緩いし、柄は直線で、重心はブレブレ。対して、椛専用の刀は椛本来の力が存分に発揮できるよう、柄の形状や、刃の反り、重量に至るまで。全部計算してあるからね」

出した分の力が、そのまま刀に伝わるよう、にとりは設計していた。

「どう? その刀が高価な装飾品じゃなくて、自分の武器としてちゃんと自覚できた?」
「はい。ばっちりです」

その時、工房の戸が開いた。

「おう、刀が届いたんだってな?」
「待ってたよジイさん」

近所の鞘師の老河童が工房を訪ねて来た。

「ほら、出来上がったぞ」

その手には白鞘があり、椛は受取ると、慣れた手つきで刀を納めた。

(まるで初めから、ひとつの物だったかのようにピッタリだ)

まずは納刀の感触に驚く。まるで吸い込まれるように、するりと刀身が納まった。
鞘の中の刃は、何物にも触れることなく空中で静止している。
刀身の図面を見ただけで、ここまで正確に作れるのかと感嘆する。

「鞘で重要なのは納まりの良さじゃない。河城、少し離れてろ」
「 ? 」

にとりがその場から下がったと同時に、老人は懐からゴム毬を取り出して、椛の顔めがけて投げた。

「ッ!」

一閃、ゴム毬は真っ二つとなり、背後の壁にぶつかる。

「抜いた感触はどうだった?」

刀を天高く掲げた姿勢で停止する椛に問う。

「まったく抵抗なく抜刀できました。いえ、それどころか、まるで刀が意思を持って飛び出て来たみたいでした」
「当然だ」

その感想に、彼は満足げに頷いてみせる。

「鞘は刀の寝床じゃない。刀がすぐ役割をこなせるようにするための、舞台袖でなけりゃあならん。どうやら、ちゃん組めたようだ」
「貴方にお願いして良かった」

心からそう思い、口にした。

「どれだけ雑に扱っても良い。いくらでも新しいのを用意してやる。しかし、一つ約束しろ」
「約束、ですか?」
「その鞘を使っている間は、絶対に死ぬな。それだけだ。嬢ちゃんを泣かすなよ」

そう告げて、踵を返し、彼は退室した。

「死ぬな、ですか。中々難しい注文ですね」
「大丈夫。椛なら守りきれるさ。私が保証する」

にとりは全く心配をしていない。

「さて。鞘も揃ったし、あとは細かい箇所の調整が残ってるけど、おおむね完成だね」
「完成ですね」
「…」
「…」

しばらく無言で見つめ合う。

「出来たーー!」
「出来ましたーー!」

歓声を上げて、抱き合う二人。

「予定してた鍛冶屋が潰れると聞いた時は、どうなるかと!」
「それがまさか補助金が出る上に、最高の刀匠が打ってくれる事になるなんてね!」

抱き付いたまま、部屋中を飛び跳ねる。
そして部屋を三周してから、大の字になって倒れた。見慣れた天井を二人は仰ぎ見る。

「思えば、誰の命令でもなく、自分の為だけにこんなに必死にあっちこっち動いたのは初めてかもしれません」
「楽しかった?」
「とても」

迷いなく答えた。

「ところで、にとり」
「なにかな?」

椛は刀を天井に向けて掲げた。
これからこの刀を扱うにあたり、どうしても確認しておきたい事があった。

「刀は何かを斬るための道具。それ以上でも、それ以下でもありません」
「そうだね」
「私はこれから、この刀で、誰かを傷つけ、最悪、死に至らしめるかもしれません。設計者として、それに耐えられますか?」
「それは愚問だよ椛」

にとりは顔を横に向け、刀を指さす。

「その刀のナカゴ(柄で隠れている刀身の根本)には、椛の本当の名前『※※※』を刻んである」

刀は無銘で申請しているが、ちゃんと名前が決まっていた。
完成した刀身に、にとりが鏨(たがね)で打ち込んである。

「その子を、椛の分身だと思ってる」

そういう存在になってくれるよう願い、設計した。

「椛とその子の決断を、私は信じる。たとえその刀が血に染まる日が来たとしても、私はその結果を全力で肯定する」
「貴女には、本当に敵いませんね」

椛は腕を下ろし、にとりの胸元に刀を持ってくる。

「最終の調整、どうかよろしくお願いします」

それをにとりは両手で力強く受け取る。

「任された!」

最終調整をにとりに託し、椛は工房を後にした。











椛がにとりの工房を出た頃。
秋姉妹との鍛錬を終えたはたては、崖に腰掛けて、カメラの画面を眺めていた。

――― そちらの私へ、貴女は今、どうしてますか?

カメラに備わっているメモ帳機能に文字を入力していく。

――― こっちは、貴女の助言のお陰で、最悪の結末だけは回避できたかと思います。

こんな事をしても伝わるかどうかわからない。ただ心の整理をするために、綴っておきたかった。

――― 椛が報われる方法はまだ見つかりません。

一瞬だけ画面を切り変える。崖の木々を背景に、両手を広げて満面の笑みを浮かべる椛が映っている。
撮影者の文から教えて貰い、念写した。
はたての宝物が一つ増えた。

――― でも大丈夫、きっと見つかります。

一歩ずつ着実に進んでいるという実感はあった。



――― さて、貴女がこちらに来た時。貴女は私に、貴女の記憶を少しだけ見せてくれたのを覚えていますでしょうか?

別世界の未来の自分が歩んだ陰惨な道を、はたては垣間見た事がある。
己の過ちが招いた悲劇、己の力不足が招いた損失。それによって心に圧し掛かって来た沈痛と罪悪感と後悔。一生癒える事のない心の傷。最悪の未来だった。

――― これから先、私もそれと同じような道を歩むのかどうはかわかりません。

どれだけ強くなろうと、何度正しい選択肢を選んだとしても、確実に回避できるという保証はどこにもない。

――― もしこの文章が、寺子屋の先生や天魔様に当てた手紙だったら、ここで『そうならないように頑張ります』と書いて筆を置くでしょう。

しかし、これは他ならぬ自分自身に宛てた文章。なので本音を書く。

――― 怖いです。怖くて堪りません。いつかその日が来るのではと想像しただけで、苦しくて夜も眠れません。

出来る事なら、今の日常が永遠に続けば良いと、心から願った。

――― どうして内気だった貴女が、あんな攻撃的な性格になったのか、今ならわかる気がします。

似ても似つかぬその性格だったが、ようやくその理由がわかった。

――― 貴女は守りたかったのですね。自分の日常を。あらゆる災難を跳ね除け、外敵を排除するための力を欲しくて天魔になったのではありませんか?

失いたくないから、強くなろうとした。怖い事を考えないようにひたすら自分を鼓舞した。
そのなれの果てがあの姿なのだと理解できる。

――― 私の未来が貴女と同じになる可能性はまだ十分に残っています。ですが…

「あ、まずい。そろそろ鷹君が来る時間だ」

時間が迫っている事に気付いたはたては、急ぎ、黙々とカメラに文字を入力する。
自分が言いたい事を最後まで入力し終わると、画面を額に当てた。

「送信……は、出来ないか」

有りもしない機能を唱えて、シャッターボタン押し、立ち上がった。

「よし、やるか」

その場で屈伸を数回繰り返してから、カメラを崖に放った。
するとすぐ、背後から飛んできた鷹がカメラを両足でガッチリ掴み、眼下の森へと滑空を開始した。

「今日こそ捕まえよう」

はたてはその後を追う。
これも鍛錬の一環として、あの日から続いていた。

(始めた頃よりは、周りが良く見える)

何度も繰り返し行ったこともあり、視野が広がっている事を実感する。

(鷹君の動きも、だいぶ目で追えるようになった)

鷹の動きを先読みし、最短ルートを見極める。

(このルートで)

自身が通れるギリギリの隙間に、恐れることなく飛び込む。

(絶対に追いつく)

もうすぐ森を抜けて、河原に出る。

(今日こそっ!)

初日に腹を打ち悶絶させられた太い枝。今、はたてはそれを踏み台にして、加速する。

(届け!!)

すぐ目の前には、椛の写真データが入った大切なカメラがある。それに向かい、全力で手を伸ばす。
が、しかし。

「あっ」

指先の爪が触れるか触れないかの距離。

(今日も駄目か)

はたての手は空をきった。

(あ、これはヤバイ)

掴む事に全神経を集中させていたはたては、着地する事はおろか、受け身を取ることさえ考えていなかった。
脳裏に紅葉卸の映像が浮かび、観念して目を閉じる。

「まったく世話が焼ける」

想像していた衝撃も、苦痛もなかった。
天魔がはたての体を受け止め、抱えていた。

「集中すると他が見えんくなる癖を早く直せ。命がいくつあっても足りんぞ?」
「ピィーィ」

天魔から降ろされると、鷹が近づいてきて、首を傾げる。

「大丈夫、どこも痛くないよ。心配してくれてありがとう」

自身の身を案じてくれる鷹の顎下を指先で撫でて礼を言う。

「惜しかったですね。もう少しだったのに」

女中がカメラを手渡してくれた。

「惜しいものか。着地の事を考えておらんなど、言語道断じゃ」
「すみませんでした」
「それとお主」
「なんでしょう?」
「何か陰鬱な事を考えておらんか?」
「えっとそれは…」

先程までカメラに入力していた文章のせいか、そんな気質を纏っていたらしい。それを見抜かれた。

「無理にとは思わんが、迷ったら頼れ。色々と背負い込むには、お前はまだ若い」
「そうします」

頷いてから、カメラが壊れてないか確認する為に電源を入れ直す。
立ち上がった画面には先ほど入力した言葉の続きが映っていた。



――― ですが、その時が来るのは今じゃありません。

――― 一人で全部抱えて進めるほど、私は大人じゃありません。私はどうしようもない弱虫です。

――― だからまだしばらくは周りに甘えようと思います。

――― 私の事を気にかけてくれる人たちから学ぼうと思います。

――― いつか来るかもしれないその日までに、貴女とは違う、私なりの道と見つけておきます。

そう綴られていた。

「行くぞはたて。腹が減ったろう?」

天魔が踵を返して歩いていく。

「はーい。ただいまー……ん?」

携帯型カメラが一瞬だけ振動したような気がして、再び画面に目を向ける。

――― せいぜい頑張りな。

そこには、入力した覚えのない文字が浮かんでいた。

「 ? 」

眼を擦り、再度画面を見た時には、その文字は消えていた。

(気のせいだったのかな?)

はたてはカメラをポケットにしまうと、天魔たちを追いかけた。












大天狗は椛が去った後外出し、守矢神社を訪れていた。

「そっちから出向くとは、一体何用かしら?」

神奈子が大天狗の応対をする。

「ちょいと商談を」
「まずは場所を変えないかしら?」

神奈子がそう提案する。二人は守矢神社に続く石階段の中腹あたりの位置に、並んで座っていた。

「別に聞かれても問題ないし……あっ、そこのお兄さん。カッコイイね。夕飯どう?」
「ウチの信者を誘惑しないで」
「信仰と恋は別モノでしょう? ねーお兄さん、これから可愛い天狗が集まる合コンがあるんだけど、参加しない?」
「だから止めい! 彼は私も気になってるんだから!」
「アンタにはタケミナカタがいるでしょうが!!」
「あんな腑抜け、こっちから願い下げよ!!」

ギャイギャイと言い合っている間に、信者である人間の青年は行ってしまった。

「で、商談って何かしら?」

ようやく本題に入る。

「スポンサーになってあげようかなぁと思って。守矢神社の」
「スポンサー?」
「ちょっと内部で『天狗はいつも異変の時、後手後手に回っている』って声が上がってね」
「ほう」
「早苗っちって、異変の調査に良く乗り出してるし、解決の実績もあるじゃん?」
「それで?」
「異変時は守矢を全力でバックアップするから、今後は『天狗の依頼で異変の調査に乗り出す』って恰好にしてくれない?」
「なるほど。大体見えてきたわ」

大天狗の狙いを察した神奈子は頷く。

「早苗に協力する見返りに、早苗が調査してわかった異変の情報を渡せと」
「天狗のバックアップで異変解決の実績が増えて、天狗は威厳を幻想郷にアピールできる、ウィンウィンじゃない?」
「魅力的な提案だけど、私達には人間の信者もいる。天狗の手先だなんて思われたらタマッたものじゃないわ」

どこかの巫女じゃあるまいし、と苦笑いする。

「そこは好きに説明してくれればいいわ。『天狗が調べてくれと泣きついてきた』『依頼される前から異変解決に乗り出していた』『ただ利用しているだけ』好きに触れ回りなさい」
「それでそっちの面目は保てるのかしら?」
「十分よ。異変の最新情報が手に入って、『守矢を顎で使っている』っていう名分さえあれば、上層部の溜飲が下がるわ」
「高いわよ。ウチの風祝様は?」
「望む所よ。そうでないと投資のし甲斐がないわ」

二人は同時に手を差し出す。

「せいぜい利用してあげるわ」
「せいぜい利用させて貰おう」

不敵に笑い、固く手を結んだ。





守矢神社の本殿。

「早苗、今、里で怪異が頻発している事は知ってるね?」
「ええ、色々と噂になってます」
「解決に行っといで」
「……しかし」

諏訪子のその提案に、早苗は浮かない顔をする。

「当面は力を蓄えるために、大きな行動は控えるのでは?」
「大丈夫。今まで早苗が頑張ってくれたお陰で、守矢は持ち直せた」

諏訪子は早苗の蛙の髪飾りに触れる。
髪飾りに諏訪子の神徳が注がれていくのを感じた。

「行きたいんだろう異変解決に? 見てればわかるよ」

博麗の巫女や、白黒の魔法使いが異変を解決したという新聞記事を見る度に、早苗が表情を曇らせるのを諏訪子は知っている。

「もう我慢しなくてもいいから、思いっきり暴れておいで」

「ちょいと待ちな」

本殿に神奈子が姿を現した。

「なんだオイ? 邪魔しようってか?」

諏訪子は敵意を剥き出しにするが、神奈子はそれを涼しい顔で受け流す。

「良い話と悪い話、どちらから先に聞きたい?」
「何言ってんだお前?」
「では、悪い話を先にお願いします」
「ちょっと早苗!」

早苗の回答に神奈子は頷く。

「これからは、異変に関わる情報は全て天狗に渡す事になった」
「良い話というのは?」
「天狗どもが早苗を全力でバックアップしてくれる事になった。うんとコキ使ってやりなさい。何か壊しても、天狗が賠償してくれるわ」
「そりゃあ良い。好きなだけ暴れられる」

手を叩き喜ぶ諏訪子。

「これで心置きなく異変解決に行けるわね」

神奈子の手には、蛇を象った新しいデザインの髪飾りがあった。

「今まで、雑に扱ったり、色々と気を遣わせてしまったりと、苦労をかけたね」

触れずとも、ありったけの神徳が補充されている事が早苗にはわかった。

「どうですか?」

新たに受け取った髪飾りを着ける。

「ああ、似合ってるよ早苗」
「前のはダサかったからね」

二柱それぞれが感想を述べる。

「では、守矢神社風祝の東風谷早苗、異変の調査に行って参ります!!」
「頼んだよ。遠慮なく私達を頼ってちょうだい」
「危ないと思ったら、すぐに帰って来なよ」

人里に向い飛翔する早苗を、神奈子と諏訪子は見えなくなるまで見送った。
















山道。

「あーー痛って。強く握り過ぎだっつーのあの神様」

握手した手を振りながら、大天狗は自身の屋敷に向かっていた。

「おや」

最近見なかった人物を見かけて声を掛ける。

「おーーい。雛姉ぇさーん」

木陰で涼んでいる雛に手を振る。

「今日は厄神様のお仕事はお休み?」

そう尋ね、隣に座る。

「今日は良い日ね。快晴でみんなの気分が明るいせいかしら、厄が全然見当たらないわ」

山の向こう側に広がる入道雲を眺め、伸びをしながら答える。

「そういう日もあるのね」
「毎日がこうなら良いのに」
「本当ね」

背後の楓の木にもたれ、頭の後ろで手を組む大天狗。
見渡すと道の両脇には楓が生い茂っていた。

「この道は紅葉時期がとても見頃なんだろうけど、こんな緑一色ってのも悪くないわね」
「そうね。秋にはない、力強い命の息吹のようなものを感じるわ」
「こんな素敵な並木を、一緒に歩いてくれる彼氏が居れば、文句無いんだけどね」
「人によって周期はそれぞれ。百年の者もいれば、二百年、三百年と、生前に背負った業に応じて異なるの」
「何の話?」

突然の話題に訝しむ。

「戦によって歴史に名を残したのなら、雪ぐべき業は、常人の何倍になるのかしら?」
「だから何の事?」
「源平合戦から八百年。そろそろ頃合いかもね?」
「なにが言いたいの?」
「出会うなら、そろそろなんじゃないかしら? って事よ」

立ち上がり、大天狗がやって来た方向へと歩いていく。

「雛姉ぇさん?」
「魂っていうのは不思議なもので、前世に縁のあった場所や者に自然と引き寄せられるものよ」
「おーい?」
「またしばらく遠出するわ。当分、この山に私の出番は無さそうだから」

大天狗は、小さくなるその背を見送る他なかった。

「なんだったのかしら一体?」

気にしてもしょうがないと自分に言い聞かせ、大天狗もその場から離れる。




「おい、そこな餓鬼んちょ。守矢神社はそっちじゃないわよ」

途中、人間を見つけて呼び止める。

「ごめんなさい。裾野で山菜を採っていたら、出口がわからずに」
「いやいやいや。誰にも見つからずにこんな所まで来れる人間なんて…」

振り向いた青年の顔を見て、大天狗の言葉が途切れる。
先程の雛の言葉の意味を、大天狗はなんとなく理解した。

「ボーイミーツガールってやつね」

青年はかつて育てた人間と、顔立ちや雰囲気が酷似していた。

「 ? 」
「ああ、こっちの事。ついて来なさい。麓まで案内したげるわ」

手招きして彼を誘う。

「ところでアンタ、虐められ体質だったりする? ……あーやっぱりねー」

二人は楓並木を歩き出した。











にとりの工房を出た椛は、自身の隊の詰所のすぐ近くを通る。

「もう一本お願いします!」
「よかろう」

詰所の前で、白狼天狗の青年と巨躯の男が木刀を手に鍛錬を行っていた。

「驚いたぞ。前に一度剣を合わせてから、まさかここまで腕を上げているとは」
「ありがとうございます」

「精が出ますね」

椛は非番ではあったが、詰所の前までやってきた。

「最近、こいつに鍛錬に付き合ってくださり、ありがとうございます」
「気にするな。彼はとても鍛え甲斐がある。こちらまで楽しくなってくる」
「ヒマな時はぜひ付き合ってやってください」
「心得た」

そして椛は詰所から去って行った。そんな彼女の後ろ姿を男はじっと見つめる。

「あの、ひょっとして大将さん。ここ最近、貴方がこの詰所を訪ねてる理由って…」
「ふんっ!!」
「危ねぇ!!」

突然の一撃を、彼は間一髪で受け止める。

「鍛錬を続けるぞ」
「アンタも隊長狙いか! 上等だ! ぜってぇ負けないからな!!」












詰所を離れた椛は山道を進む。
強い日差しを受けた木々は、むせ返るほど濃い深緑の香りを放っていた。

(落ち着く匂いだ)
「散歩ですか?」

そんな事を考えて歩いていると、文が上空から話しかけて来た。

「そちらは?」
「新聞のネタ探しです」

文は椛の隣に降り立ち、並んで歩く。

「ところで椛さん。ずっと前にした約束、覚えてますか?」
「どの約束でしょう?」

貴女と交わした約束はたくさんある。

「貴女を、勝たせるという約束です」
「ああ。あれですか」

呪われた笛という噂で奔走し、解決した後の宴会で、密かに交わした約束である。

「あれから一度でも、私は貴女を勝利に導く事ができたでしょうか?」
「…」

椛は考え込む。

「保守派の壊滅。発電所建造の阻止。勝利とは呼べなくないですか?」
「私にとってあれらは引き分け、痛み分けです」
「引き分け、ですか」

椛に勝利の実感を与えられず、文は俯く。

「しかし」

そう言って椛は続ける。

「こちらも、相手も生きている。多少の被害はあっても、誰も死ななかった。今の私にとってそれは、勝つことよりも喜ばしいことです」
「それは何よりです」

それを聞き、文は満足げに笑った。

「いよいよ明日、実物審査です」
「心配ですか?」
「いいえ。全く」

大勢の者から協力を得て作られた刀。通らぬ道理などなかった。

「通るに決まってます。なんたって、最近の私は色々と絶好調ですか……ら?」

突然、下駄の鼻緒が切れた。

「え、待って。なぜ今?」

縁起の悪さをこれ以上にないくらい、感じさせられた。

「あやややや。これはちょっと幸先悪いですね」
「まぁ、いつもの事です」

明日が審査日である。
長かった一ヶ月が終わりを迎えようとしていた。

















月明かりが眩しい満月の夜。

「…」

自宅の居間に立つ椛は、これは自分の夢の中だとすぐにわかった。
縁側に座る二人の白狼天狗は、どちらもこの世にはいないからだ。
縁側に座る少女の一人は、かつて全てを失った椛にとって初めての仲間であり、頼れる先輩であった。

「どうした浮かない顔をして? 明日はお前のお披露目日だろう?」

椛が『先輩』と呼び慕った白狼天狗の少女は、隣に座る幼い子供にそう問いかけていた。

「良いのかな? 一緒に居ても。またこの名前を名乗っても?」

縁側に座るもう一人。先輩に比べ、遥かに低い背丈の白狼天狗の女児は俯きながら答える。

「私は、犬走※※※は、犬走椛が生き残るために切り捨てた部分だから」
「もう捨てませんよ」

幼い自分の隣に椛は座る。

「貴女のこともちゃんと背負って、私は前に進みます」
「本当に?」
「ええ。約束します」
「そっか。じゃあまた一緒だ」

幼い椛は無邪気に笑った。

「良かったな」

先輩が女児の頭を撫でる。

「うん!」

大きく頷くと、彼女の身体は徐々に色を失い、やがて空気に溶け込むように消えてしまった。
彼女が座っていた場所には、一振りの刀が残っていた。

「良い刀だ。製作に関わった者達の想いが繋がって一本の刀になってる」

鞘から抜き、刀身を月光に照らしながら先輩はそう告げる。
ひとしきり眺めてから鞘に納めて、椛を見た。

「奉献式しようか」
「奉献式?」
「こんな良い刀なんだ、完成したのを受け取ってハイ終わりじゃ、いまいち締まらないじゃないか?」
「そうかもしれませんが」
「いいからやるぞホラ、こっちを向いて片膝を突け。目線は下な」
「相変わらず強引なんですから」

言われた通りの姿勢になる。
すると彼女も椛の方を向いて正座し、両掌の上に、橋を掛けるように刀を乗せた。

「コホンッ。さて、犬走椛」
「はい」
「日頃より妖怪の山の平和の為、日夜戦う汝を讃え。その証として、この刀を授けん」

椛の前に刀を差し出す。

「犬のように忠義に厚く。仲間の為に走り。椛のような可憐さを持ち。清廉潔白で、狼のように強く。天狗の誇りを忘れず。これを振るう事を切に願う」
「多くないですか注文?」
「お前なら全部こなせるだろ。でなきゃコレは渡さん」
「盟約致します」

両手で受け取り、頭を深く下げた。

「さて、お前の顔も見れたし。そろそろ行くよ」

手から刀が離れると、彼女は立ち上がり、玄関へ向かって歩いていった。

「あっ、ちょっと」

その後を椛は追う。

「あの、先輩」
「どーした?」

玄関で屈む彼女に呼びかける。

「また、会えますか?」
「会えるさ。お前が良い子にしてたらな」

玄関で屈んだまま、何かごそごそとやりながら答える。

「あの、先輩?」

何をしているのか尋ねようとした時。

「よーいドンだ椛」
「え?」
「ここから先は楽しい事が目白押しだ。まったり歩くのも結構だが、しばらくは突っ走ってみるのも悪くないんじゃないか? よっし出来た」

そう言って立ち上がり、玄関を開けて出て行こうとする。

「走れますかね? 今の私に」
「今のお前なら大丈夫。誰かに支えて貰わなくても、独りで走れるさ」

差し込んだ月明かりが彼女を優しく照らす。彼女は、確かに笑っていた。
そこで視界が途切れた。





早朝。

「…」

静かに椛は目を覚ます。

(とても、懐かしい夢だった)

縁側に出ると外は快晴で、どんな憂鬱さもかき消してしまうと思えるほど明るかった。

「今日も良い日だ」

朝食の支度をして、身支度を整える。
通知書を受け取ってから、今日で丁度一ヶ月。実物審査の日である。

「椛さーーん!」
「椛ぃーー!」

外から良く知る声が聞えて来た。文とはたても、実物審査に同行する約束を交わしていた。

「すぐ参ります」

玄関に移動し、いざ下駄を履こうとした時、ある事に気付いた。

「あれ、鼻緒が?」

昨日、切れたハズの鼻緒が直っていた。
応急処置で結び直したのではなく、まるで新品のように元通りになっていた。
夢の中で先輩がしていた事を思い出す。

「あの人にはいつも本当に」

そう呟き、下駄を履く。戸を開けると、少し離れた場所で、文とはたてがこちらに手を振っている。

『ここがスタート地点だぞ椛』

背後から声がした。

『独りで走れるか?』
「大丈夫です」

振り返る事無く答える。
振り返っても誰もいない事はわかっているし、今見るべき方向は過去ではない。

『準備は良いか?』
「いつでも」

ここまで来るのに、随分と掛かってしまったと椛は思う。

『位置について』

幼い頃、全てを奪われ。復讐という負の感情を糧に立ち上がった。

『よーい』

そこからは挫折と絶望の連続だった。未来に背を向け、後ろ向きに歩いていた。

(大丈夫、今の私なら)

文とはたてを見る。二人のお陰で前を向けた。

(ここが新しい出発点だ)

『ドン!』

犬走椛は、自分の意思で走りだした。
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コメント

感無量。
途中の古代ローマカラテとか色々楽しいとこもいろいろあって、それを感想に書こうと思っていましたが、この余韻に消えてしまいました。
守谷の石段の硬い手触り、楓の木々の間の風の生々しい青くささ、もみじの夢の中の床板のしっとりと薄く汚れているだろう感触などが脳裏に過ります。
やっと、優しい風が吹くようになった彼女の生に幸あれ。

夢の夢の……や、フランちゃんのお話も気長にお待ちしております。

  • 2015/06/27(土) 22:12:58 |
  • URL |
  • 鯖人 #g46G3st.
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

鯖人さん

イヌバシリさんシリーズもようやく結びとなりました。
本当に長らくお付き合いくださり、本当にありがとうございます。

これからもまだまだSSを書いていきます。
鯖人さんが楽しんでいただけるものを書けるよう頑張ります。

  • 2015/06/28(日) 19:59:52 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

久しぶりの巡回で画面をスクロールさせているとイヌバシリさんのタイトルを見つけ、思わず一気に読ませていただき、勢いでこのサイトまでお邪魔させていただきました。
原作キャラ、オリキャラ、コメディ、シリアス全てを包括したごった煮の様な世界観とその中で生きるキャラクター達が本当に大好きです。
画面をスクロールする度に「ああ・・・、もうこんなに読んじまった・・・」という嬉しい様な寂しいような相反する感覚になったのはこのシリーズが初めてでした。
最後に、この素晴らしいシリーズをありがとうございました。またいつでも続編お待ちしています。

  • 2015/06/29(月) 19:34:50 |
  • URL |
  • ファンファン #Yqv9s9DY
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ファンファンさん

ありがとうございます。色々なモノや要素がごちゃ混ぜになった本シリーズを気に入っていただけて本当に嬉しいです。
楽しんでいただけて、書き手冥利に尽きます。

  • 2015/06/29(月) 23:15:34 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

犬走さんシリーズの新作が読めることに深く深く感謝します

ありがとうございました。一振りの刀を巡って込められたエピソードやら、人々の思いやらが幾重にも折り重なっている読み応え抜群の作品を本当にありがとうございました。
従者さんがまさか組合員だったとは、…妙にしっくりきました( ̄▽ ̄)
白狼天狗三姉妹の今後のエピソードも面白そうですよね。
個人的に大将が報われる未来を推したいです。(あと、首領が報われるのも面白いかも🎶)
他にも大天狗様への遅咲きの春の話、ワクワクしますね。
まさかお見合いとボクシングをそうやって話に盛り込むとは!そしてそのオチも個人的にツボにはまりました。
つい、朝食と昼食を取らずにずっと読みふけってしまいました。

他にも、この刀が遠い先につくも神となって幼い椛の姿で登場する話を想像してしまいました(⌒▽⌒)

とりあえず、一言で言えるなら「最高」でした!
本当にありがとうございました。

ではお体に気をつけて、ゆっくりで構いませんので次回作も楽しみに待っています。

  • 2015/07/01(水) 13:10:54 |
  • URL |
  • オセンベイ #-
  • [ 編集 ]

Re: 犬走さんシリーズの新作が読めることに深く深く感謝します

オセンベイさん

丁寧な感想をくださいまして、本当にありがとうございます。
話が膨らむコメントもたくさん頂けて、とても嬉しいです。
従者の元組合員ネタも拾っていただけて幸いです。

最後まで読んでくださり感激です。
「最高」という評価までしていただき、書き手冥利に尽きます!

これからもSS書きを頑張って続けます。また次回も楽しんでいただけるよう精進します。

  • 2015/07/01(水) 21:28:12 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

ああ、忙しいのに一気読みしちゃいました。
今回もおもしろかったです。次回作も楽しみにまってます。


「エスポワール号っていって、過去に色んな催し物に使われる → 使われた
『デキチャッタコン』か『サズカリコン』なんでどうかしら?」→ なんて
これ以上彼女と関わりたく二人は、早々にその場を離れた。  → たくない二人

かな……と思います。

  • 2015/07/06(月) 16:42:16 |
  • URL |
  • F15 #A1vz8dvw
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

F15さん

ご指導くださってありがとうございます。訂正致しました。
いつもお忙しい中、読んでくださり本当にありがとうございます。

次回作も楽しんでいただけるよう頑張ります!

  • 2015/07/06(月) 22:14:58 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

執筆お疲れ様です。
毎回新作読むたびに一週間の間はこの小説のことばかり考えるくらいに夢中になってしまいます。
バカなので変な考察とか書けませんがすごい小説だと思います。
これからも木質さんの小説に期待しています。

自分の勝手なイメージでキャラデザしましたが、歩け!イヌバシリさんの一話冒頭とイラストツイッターにあげてみたので良かったら見てくれると嬉しいです。

  • 2015/07/20(月) 16:46:06 |
  • URL |
  • LICE #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

LICEさん

これまで何度もブログにコメントをくださいましてありがとうございます。
私のSSにこれほどまでに深い関心を抱いてくださり非常に光栄です。とても嬉しいです。

ツイッターの絵を拝見致しました。
イヌバシリシリーズの原点である、椛と大天狗の会話シーンをイラストを描いてくださりありがとうございます!!

椛、大天狗、天魔、全員スタイリッシュで滅茶苦茶カッコいいです。
椛が可愛カッコ良くて、細身でありながら戦慣れしている雰囲気がたまりません。
大天狗の行き遅れ・妙齢感が出ていてとても素晴らしいです。『少し残念な美人』という私のイメージにぴったりです!
天魔が幼い容姿ながらも、威厳がありありと伝わってきます。翼のデザインが独創的で、他の天狗と一線を画していて魅力的です。

椛と大天狗の上下のツーショットがとても気に入ってます。三コマ目で緩い感じに戻る二人が好きです。
大天狗と天魔の並んだ二人の絵も良いです。この二人がいるから天狗社会は纏まっているのだと想像すると、とても頼もしさを感じ、作中の雰囲気を思い出させていただきました。

美しい天狗達の絵を本当にありがとうございます。
感謝と感激で胸がいっぱいです!!

  • 2015/07/20(月) 20:28:14 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

ここまでの感想いただけるとは思いませんでした笑
犬みたいに駆け回りたいくらいうれしいです!
正直冒頭の漫画風に描いたものも、次のもみじが刀を置く構図がうまくいかなくてupしてしまったかんじなので、これからもすこしづつですがあげていこうと思います。
ここまで素晴らしいお言葉もらえるなんてモチベーションが有頂天です!

あとよければなんですが、木質さんのありのままの思い描いていた大天狗や天魔、もちろん文やもみじなどのイメージを教えてほしいです。
木質が思い描いてたのになるべく近いのが書きたくて。

これからもツイッターにちょくちょくあげようと思います。よければ暇なときにご指摘とかもっとこうしてほしいとかほんと遠慮なしに書き込んでください。

こんな拙い絵に感想くださってありがとうございまさた!

  • 2015/07/20(月) 20:55:39 |
  • URL |
  • LICE #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

LICEさん

各キャラのイメージですが、ざっくり。

<1話時点の各キャラのイメージ>
椛……目上はちゃんと敬うが不愛想。自分の生活が最優先で、自分に関係ない事にはトコトン大雑把。任務時は殺人マシーン化して、遂行のためなら躊躇しない。
文……ノリが良く、常に愛想を振りまいている。狡猾な面を時折見せる。
はたて……引篭りなせいもあり、周囲に気を使い過ぎる控えめな性格。初対面の相手と会話する際は、怯えた仕草を見せる。
大天狗……組織の掌握・適切な指揮・様々な分野で情報通。など、有能で出来る女だが面倒臭がり。婚活が最優先。
天魔……組織のトップとして十分な威厳と貫禄を醸し出しているが、容姿のせいでそれが半減してしまっている。ロリババア。

即興で上げてみるとこんな感じですが、それにあまり拘らず、LICEさんが感じたり、思ったようなイメージで描いていただけたら嬉しです。
また、自由にアレンジを加えても構いません。好きなように弄繰り回してください。私自身が、原作キャラをかなり弄繰り回しているんですし。

まだ描いていただけると知り、非常に光栄です。
麗しさに満ちた絵を拝見できる日を楽しみにしております。

LICEさんのお好きなペースで、気軽に描いていただけると幸いです。

  • 2015/07/20(月) 22:19:32 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

個人的なイメージ曲

OP

vol.1~vol7
平川地一丁目 運命の向こう
http://www.nicovideo.jp/watch/sm669740?ref=search_key_video

vol.8
OPなし

vol.9~vol.11
高橋優 太陽と花
http://www.dailymotion.com/video/x1uz7xv_%E9%AB%98%E6%A9%8B%E5%84%AA-%E5%A4%AA%E9%99%BD%E3%81%A8%E8%8A%B1_music
安全ですがニコニコではなく海外サイトです

vol.12
OPなし

番外編
平川地一丁目 運命の向こう

ED

vol.1~vol.4
BUMP OF CHICKEN ハイブリッドレインボウ(カヴァー曲)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm19681649

vol.5~vol.7
akeboshi Wind
http://www.nicovideo.jp/watch/sm7571634

vol.8
OPなしEDのみ
BUMP OF CHICKEN ハイブリッドレインボウ(カヴァー曲)

vol.9~vol.11
シギ 輝いた
http://www.nicovideo.jp/watch/sm18694463

vol.12
OPなしEDのみ
平川地一丁目 運命の向こう

番外編
BUMP OF CHICKEN ハイブリッドレインボウ(カヴァー曲)

  • 2015/09/16(水) 10:40:24 |
  • URL |
  • #JalddpaA
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

素敵なチョイスをありがとうございます。リンクから聞いてみました。

平川地一丁目 運命の向こう
vol.1~vol7は、椛にとって理不尽の連続でした。
『平等』など存在しないと知っている彼女が、どんな気持ちで明日を求めたのか考えさせられました。

高橋優 太陽と花
vol.9~vol.11の孤独や傷を隠して前に進もうとする椛の姿が歌詞と重なりました。

ハイブリッドレインボウ
世界の隅っこ。誰にも気に掛けられない山の日陰者の椛。それでも力強く生きてる姿を想像させられました。

akeboshi Wind
ナルトのアニメでこの曲は特に好きでした。和訳は、はたてに通じるものがありますね。

シギ 輝いた
アップテンポでとてもカッコイイ曲です。
「道」や「走り出す」等、歌詞の一つ一つがイヌバシリさんシリーズの内容と重なっていて驚きました。
この曲が一番イヌバシリさんシリーズとマッチしている気がします。


紹介してくださってありがとうございます。どれも作品の空気にあった素晴らしい曲ばかりでした。

  • 2015/09/16(水) 23:24:31 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

http://www.nicovideo.jp/watch/sm6231007
ハイブリットよりこっちのが合うかも歩くって歌詞もあるし

  • 2015/09/20(日) 21:03:38 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

http://www.nicovideo.jp/watch/sm22529585
1分半版だとこんな感じ

  • 2015/09/20(日) 21:05:36 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

お久しぶりです。

あまりにも過酷すぎて途中をいくらか飛ばしてしまいましたが、椛が少しは幸せになりそうで良かったです。

それにしても、先輩の幽霊 すごいですね。霊体になっても物理干渉できるなんて……。

  • 2015/10/03(土) 16:41:10 |
  • URL |
  • 蒼き星 #VWFaYlLU
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

蒼き星さん

読んでくださりありがとうございます。

>>それにしても、先輩の幽霊 すごいですね。霊体になっても物理干渉できるなんて……。

先輩に不可能はありません故

  • 2015/10/03(土) 22:25:11 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

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