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木質の偽造ペレット工場

東方の二次創作SSです。いぢめ・グロ注意

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魔界の母と悪魔の妹 3


幻想郷にやってきた一日目の朝

神綺には幻想郷に来たら一番最初に行こうと決めていた場所があった

朝食をとり、手ぶらで神綺は玄関を出る
「出かけてくるわね」
「どちらに? 必要なら私もご一緒しますが?」
玄関で夢子が呼び止めた
「アリスちゃんに会っておこうと思って」
「どちらにいるのかご存知で?」
「分からないけど、大丈夫よ」
神綺の髪の結わえてある部分が立ち上がり、グイングインと回りだした
「この『アリスちゃん・レーダー』があれば。どこに居ても問題ないわ。これが導いてくれる」
(そんな機能あったんだ・・・)




【香霖堂】

アリスは陳列された布を眺めていた
「この種類の布、ここに並んでるので全部かしら?」
「ああ。それで最後なんだ」
「人形の衣装の下地に使うから結構必要になるのに」
この日は人形の素材を求めて店を訪れていた
「なら次に入荷したら取って置くよ」
「あらいいの?」
「君は他と違ってちゃんと代金を支払ってくれるからね、お客様には当然の対応さ」
「助かるわ」
そんなとき、来客者を知らせるドアの鈴の音が鳴った

「すいませーーん、アリスちゃんが際どい露出のメイド服着て、えっちなポーズとってるフィギュア売ってませんかー?」
「・・・・・」
「・・・・・」
突然の魔界神の登場にアリスの思考は停止する
意味不明な商品名を叫ばれ。霖之助の思考も停止している

「やっほーアリスちゃん、遊びに来ちゃっ・・・」
「おらあっ!!」
アリスは魔力で足を強化してから床を蹴り加速。弾丸のような速度で母親の腹に膝をめり込ませて、外まで弾き飛ばす
魔界神は店の10m先にある木に叩きつけられた
「あーびっくりした」
「チッ」
しかし痛がる素振りをまったく見せず体についた砂埃を払う母を見たアリスは小さく舌打ちした
「・・・・」
無言で鞄から上海人形よりも一回り小さな人形を取り出すと、振りかぶり片足を高く上げ投げた
「アーティフルサクリファイス!!」
投げられた人形は一直線に魔界神に飛んでいく
「こんな単調な軌道。甘いわ、夢子ちゃんがつくるオムレツよりも甘いわよアリスちゃん」
神綺はゆったりと腕を伸ばし、人形を受け止めようとする
しかし
「っ!?」
人形が神綺の手に納まる直前でアリスは指を振った。指の動きに連動するように直線だった人形が急に曲がり軌道を変え、神綺の脇腹に張り付く
「あら?」
アリスは立てた親指を下に向けた
「爆(は)ぜろ!」
刹那、神綺の脇腹を中心に直径1メートルの小爆発が起きた
耳をつんざく轟音と目の眩む閃光があたりを支配する

しかし煙が晴れると魔界神は無傷。その場に平然と立っていた
「うん、腕を上げたわね。お母さん鼻が高いわ・・・・・・あれ? アリスちゃん?」

アリスは神綺に背を向け、全力で逃げ出した



【魔法の森】

娘を追って、森の奥深くまでやってくる
「アリスちゃーん。どこに行ったの~?」
(なんであの爆発くらって無傷なのよ……鬼だって上半身と下半身に別れる威力なのに)
草むらに身を隠して息を殺し、母親の動向を窺う
「おかしいわ。私の『アリスちゃん・レーダー』はこのあたりから強い反応を示しているのに」
「なによその機能」
「今、声が?」
(しまった)
慌てて口を塞ぐがもう遅い。神綺はアリスがいる方向な進み出した
(落ち着くのよ私。クールに、落ち着いて奇数を数えるのよ。奇数は必ず1余る孤独な数字、私に妙な親近感を与えてくれる)
「アリスちゃーん、返事して」
(1…3…5…7…9…11・・・12、違う・・・13・・・)
「アリスちゃーん、小学校の運動会の組体操で人間ピラミッドつくる時に、1人余っちゃったから、完全したピラミッドの横で1人で変なポーズさせられてたアリスちゃーん」
「ぐはっ!」
アリスの心に1200のダメージ
「あら、そこに居た……どうしたの蹲って? まさか怪我をっ!?」
「あんたのせいよ、あんたの」





【魔法の森・アリス邸】

「ここがアリスちゃんのお家ね。へー、ちゃんと片付いてる」
「ちょっと勝手に漁らないでよ」
母を椅子に座らせて、人形にお菓子を用意させ、自分はお茶を淹れた
「幻想郷って広いわね。シーガイア何百個分かしら?」
「なんでシーガイアなのよ、せめて東京ドームで計りなさい」
紅茶のカップを乱暴に母の前に置いた
「何しにコッチに来たの?」
「当然、アリスちゃんが心配になって・・・」
「嘘ね」
ばっさりと切り捨てた
「む~~本当なのにー」
「一番の目的は何?」
「うんまあ、とりあえずはこっちと魔界を自由に行き来できるようにしたいかな?」
「そんなことしたら魔界も幻想郷も大混乱よ。悪いことは言わないから帰って。今ならまだ部外者には知られて無いし、大事には・・・」

「おーーいアリスーー。ちょっと魔法で訊きたいことがあるんだけど・・・・・・って、えええぇぇぇぇ!!」

ノックもしないで霧雨魔理沙が家に入ってきた。意外な人物がいるとこに驚き素っ頓狂な声をあげる
「こいつは一大事だ!」
「待って!」
外に出て箒に跨り退散しようとする魔理沙の肩をアリスは掴んだ
「だ、誰にも言わないで!」
「無理だろオイ! 魔界神だぞ!?」
「ほら、私のグリモア。魔理沙が死ぬまで貸してあげるから。だから、ね?」
「嫌だよ、それ醤油くさいんだよ!」

結局、アリスを振り切って魔理沙は行ってしまった

「これじゃあ霊夢や紫の耳に情報が入るのも時間の問題ね。厄介なことになったわ」
「どうして? 事前に連絡を入れる手間が省けたじゃない」
「はぁ・・・」
「 ? 」
緊張感の無い顔で紅茶に三杯目の砂糖を入れる母を見て、アリスは溜息を吐いた








【 紅魔館 】


「可愛く賢い小悪魔ちゃん~~♪」
小悪魔は軽やかにステップを踏み上機嫌に廊下を歩く。すれ違ったメイドに、にこやかに会釈をする
「レミリア、パチュリー出し抜いて~♪」
指先を指揮者のタクトのようにリズミカルに振るう
「魔界神を呼び出した~♪」
ある部屋の前で立ち止まり、ノックもしないで入る

「すべてが全部~~♪ 計画どおり~♪」

窓から遠い場所に置かれたベッドに向かい歩く、途中にあったゴミ箱を乱雑に蹴飛ばした

「・・・・・・・・のはずなんですけど」

声のトーンが一気に落ち、リズムが無くなる

「なんであなたが、まだ生きているのですか?」

ベッドで眠るフランドールを見る
頬が扱けて、肌の血色も良くないが。安らかに寝息を立てている

「私のスケジュール帳では、あなたはとっくに退場している筈ですよ?」


昨夜の忌々しい出来事が小悪魔の脳裏をよぎる


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



時計台で幻想郷の日の出を拝んでから夢子たちの所に戻ってきた神綺
地下室に足を踏み入れた瞬間に違和感を感じ、周囲を見渡し始めた

「なにかしら?」
「どうされましたか?」
そう尋ねたのは夢子。小悪魔から紅魔館内部の見取り図を見せてもらい、説明を受けている最中だった
「さっきから、誰かに呼ばれてるような・・・・・・たしか、アッチから」

ベッドの方に歩いていき、その下を覗き込む

「えっ?」

袖に床の埃がつくことも厭わず、体の半分が崩壊したフランドールを丁寧に引っ張り出す
「あなた大丈夫!?」
(あれれ? まだ生きてた?)
もうとっくに灰になって消失しているとばかり思っていた
(神綺様はどうして気付いて・・・・いや、今はそれよりも)
予想外の出来事に、表にこそ出さなかったが動揺する
(私の取るべき行動は)
見つかった以上、この場をなんとか取り繕う必要があった
(この状況で死なれたら面倒ですね、色々と面倒なことを訊かれる)
損得を計算し、瞬時に取るべき行動は導き出す。取るべき行動を決めた
「妹様っ! こちらにいらしたのですか!? しっかりしてください!」
神綺の許に駆け寄り、必死に呼びかける演技をする
「この子は?」
「フランドール・スカーレット。レミリアの妹です」

暗い顔で、顔を背けながら言う
「なぜこんなにも酷く衰弱しているの?」
「この子は、家族から虐待を受けていたんです。日常的に」
なんとか誤魔化そうと言葉を考える
「虐待を?」
「ええ、食事はろくに与えない。気が向けば暴力を振るわれ、監禁なんて朝飯前。周囲はやめさせようと必死でしたが、お嬢様の手前、強く言えなかったのです」
「それは本当なの?」
夢子から向けられる猜疑の目に、小悪魔は自信たっぷりに頷く
「ええ。魔界に送られたレミリアに訊いてみてください。『妹を虐待したのか?』と。きっと否定しないはずです」
そう訊かれたら、最近の行いを思い出してレミリアは頷くしかないと見越しての発言だった
「どうしてこんな所に?」
「普段は無人ですから、姉から逃げるためにずっと隠れていたのでしょう。それに気付かず私は、ここで魔方陣を作成してしまったようです」
辻妻が多少合わなくても、思いつく限り喋った

「そうだったの・・・・・・」

老婆と見紛うようなフランドールを見て、神綺は目を伏せ、そっと彼女に触れた

「治療するわ」
「可能なのですか?」
口でそう尋ねるが、この魔界神ならそれを平然とやってのけてしまうことを小悪魔は知っている
(あーあ。これはちょっと手間が増えましたね)
少しずつ顔色の良くなっていくフランドールを見て、内心毒づきながら治療を手伝った



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「その場しのぎで、なんとか事は収まりましたが、これじゃあボロが出るのも時間の問題ですよ」
フランドールは未だに眠りについている
神綺の力により一命を取り留め。薬物の影響で醜かった容姿も、幾分かはマシになっていた
崩壊した手足は再生されたが、まだ神経が通っておらず形だけのものでしかない
快調と呼ぶにはまだまだほど遠かった
「おかげで微妙に予定が狂ちゃったじゃないですか。ほんっっっと、あそこで死んでおいてくださいよ?」
その手には咲夜が使用していた銀製のナイフ
「これから先。余計なこと言われると私のぜーーんぶが水の泡」
神綺からの信頼を失うのだけは避ける必要があった
「でも殺しはしません。ここで殺したら私が真っ先に疑われますからね」
フランドールの喉笛にナイフの柄を押し付けた。押し付けて数秒、ごりりと何かが拉(ひしゃ)げる音がした
「ゲホッ、ゴホッ・・・・・カ・・ッフ・・・ケ・・・ア・・」
喉を完全に潰した。小さな血の玉が数滴、口の端から流れる
「ガホッ・・・・・っっ・・・・・・あ・・・・・ぁぅ」
咽るだけで、起きる気配は依然として無い
「痕は残らないようにしてあげます、血も拭いておきますね」
弱り回復力の大幅に低下した今の彼女なら、声を取り戻せるのにそれなりの時間を有すると小悪魔は踏んでいた

「治ったらまた潰してあげます」













神綺が帰って来たのは空が暗くなる少し前だった

「おかえりなさい。アリスには会えましたか?」
「うん、元気にしてたわ」
「それは何より」
この時間まですっかり話しこんでいた。ほとんど神綺が一方的に喋り、アリスがそれを聞き流すというものだったが
「丁度、夕飯ができる頃なのでダイニングルームへどうぞ。ユキとマイもいるはずです」
夕食の間は、アリスの話がずっと続いた

「ごちそうさま」
「はい、おそまつ様です」

食事を終え、自室に戻る前に、神綺はある部屋に立ち寄った
「フランちゃん、おきてる?」
未だに眠り続ける吸血鬼がいる部屋
彼女の世話は夢子が選抜したメイドたちに任せてある

ベッドに腰掛け、彼女の顔を覗き込んだ
「ここに来た時から、誰かに呼ばれているような気がしたの」
最初は気のせいだと思った
しかしその後も声は止むことなく、ひと段落した時、声がした方向へ向かってみたら、ベットの下に彼女が居た
「私に何か御用があるの?」
「・・・・」
眠る彼女は答えない

このまましばらくこの部屋にいたが、この日彼女が目を開けることは無かった














二日目



「本日は、どちらにお出かけで?」
朝食をとってからすぐ、夢子はこの日のスケジュールを尋ねてきた
「まずは幻想郷の管理者さんのところね」




【 博麗神社 】


「やっぱり来たわね」
「あれ? 驚かないの?」
霊夢は縁側に座り、湯飲みを片手に神綺を出迎えた
「昨日魔理沙から聞いたもの」
「あ、そうだ。これ、魔界のお土産“ドクロ大根”と“ダークマターの干物”。夜になると茜色の煙が出るから明るい内に食べてね」
「これはこれはご丁寧に・・・・・せいっ!」
受け取った瞬間、霊夢はそれを思いっきり遠くへ投げ飛ばした
「・・・・グスン」
「グスンじゃないわよ、あんなマンドラゴラもどきと、謎の黒い塊なんて食えるわけないでしょう」
「おいしいのに」
「まだ言うか」


それから神綺は霊夢の隣に座り、自らの目的を話し出した


「ふーん」
興味無さ気といった風に返事し、お茶を啜った
「『新と旧の境界』だっけ? それを取っ払いたいってこと?」
「ええ。魔界とここの垣根を無くしたいの」
「なら紫に相談しないと」
「ゆかり?」
初めて聞く名に神綺は首をかしげると、霊夢は怪訝な顔をした
「知らないの? 幻想郷の管理者。ずっと昔から生きてる大妖怪」
「そうなの?」
初耳だった

この時、神綺の胸のうちに小さな違和感が生まれた

「とりあえず、まず紫に会いなさい」
「その人はどこに?」
「生憎。私にもわからないわ。良く現れる場所なら何箇所か知ってるけど、一番確率が高いのは白玉楼ね」
大雑把にだが、白玉楼までの道筋を教えてもらう
「ありがとう。さっそくその場所に行ってみるわ」
「最後に」
立ち去ろうとする神綺の背中に言葉を投げた
「あんたが問題を起こさない限り、博麗の巫女は動かないから。この意味、わかるわね?」
警告だと理解した神綺は首を縦に動かした
「よろしい」







【冥界 白玉楼】

庭の掃除をしていた魂魄妖夢は、言い知れぬ不安感に駆り立てられて。箒を投げ出して門へと走った
下界に繋がる長い長い階段の先に、二つの人影が見えた

「ごめんなさいね。お仕事中に『付いてきて欲しい』だなんて無理を言って」
「何を仰いますか、神綺様の頼みごと以上に大事な仕事など存在しません」

侵入者は二人、のん気に雑談をしながら階段を登ってくる

「霊夢ちゃんがね、この場所が一番『ゆかり』って人に会える確率が高いというの」

賊がやがて最後の一段を登り終えた。無警戒に門まで近づいてくる

「会ったらまず何からお話するのですか?」
「そうね。最初に敵意が無いことを知ってもらわないと。境界についてのお願いはそれからね」

二人が門をくぐった時、妖夢は開いた扉の裏手に身を潜めていた。息を殺して、二人の後ろ姿を睨みつける

「紫という妖怪。一体何者なのでしょうか?」
「大昔から生きている、幻想郷の管理者だそうよ」
「そんなの初耳ですよ?」
「でしょ。私も知らなかったわ」

物音を立てず、すり足で静かに近づく。幼い頃、師から学んだ歩法である
刀はすでに鞘から抜いてあった。抜き身の刀が二人を映し出す
(何者かは知らないが、ここより先に行かせるわけにはいかない)
振りかぶり無警戒な片方、髪を結わえた女に狙いを定める。彼女から言い知れぬ何かを感じていた
(幽々子様をお守りするのも私の仕事だ)
そのまま振り下ろした







(なっ!!?)

下ろされた刀は途中でピタリと静止していた

メイド服の女の親指とひとさし指が刃を摘んでいる。それだけで刃は動かない
動揺する間に、メイドに口を抑えられた
「今、私は神綺様と大事な話をしているの。邪魔をしないで頂戴」
耳元で小さくそう言われた
どれだけ押しても引いても、剣は不動だった

「おかしいでしょう? 霊夢ちゃんたちが昔魔界に来たとき、そんな妖怪が存在してたなんて聞いたことないわ」

命を狙われた当人は、背後の異常事態に気付かず、歩きながら雑談を続けている

「確かに、幻想郷の誕生に関わっていながらその名を一度も聞いたことが無いのは変ですね。たった10年ほど前の話なのに」
刃を摘みながら主に返事を出す
「10年? そういえば、霊夢ちゃん、あんまり成長してなかったわ。魔理沙ちゃんも雰囲気は変わってたけど、まだまだ子供だったわ」
「霊夢はもともと幼児体形なだけじゃないですか? 魔理沙は魔法使いになって歳を取らなくなったとか?」
「うーーん。言われて見ればそうかしら」
「きっとそうですよ」
メイドはそっと刃から指を離し、主の隣に並んだ

再び無防備な背中を晒すが、妖夢は斬りかかる気にはなれなかった
二人が屋敷の玄関の戸を叩くまで、その場から動けないでいた













白玉楼の主。西行寺幽々子に簡単な自己紹介をしてから、紫について尋ねる
しばらく彼女と話をしたが、八雲紫の情報の収穫は無かった

長い階段を今度は下る
「ここの主人は、我々のことをあまり良く思ってないようですね?」
「そう? 話しててそんな気はしなかったけど」
「目の奥に、何か敵意に似た感情がありました」
去り際に冷たい声で『ここは死者の居場所、極力、生者は来ないで欲しい』と早々に立ち去るように促された
「まあ攻撃されなかっただけ良しとしましょうか?」
「そうですね」
最後の段に足を付いたその時だった

「こんにちは」

空間が裂け、そこから一人の女性が現れる
「何者だ」
夢子が神綺の前に立とうとするが、それを神綺は手で制した
「御初にお目にかかります。神綺と申します。この子はメイドの夢子ちゃん」
こんな登場が出来る者は幻想郷に一人しかいないと聞き及んでいる。隙間から現れた女性のほうも自己紹介をする
「私は幻想郷の管理者。八雲紫と申します。アポなしですみませんが、お時間少しいただけますか?」
返答を待たず、二人の足元に隙間が発生して問答無用で飲み込まれた







隙間から抜け出た場所には、一軒の大きなお屋敷があった
「私の住まいです。どうか遠慮なさらずお上がりください」
庭から玄関に向かう途中、九尾の妖獣が洗濯物を取り込んでいるところが目に付いた
「藍。お客様にお茶を」
「かしこまりました」

通されたのは茶室だった


「なるほど。私が引いた『新と旧の境界』を取り払って欲しいと」
「はい、お願いします」
「・・・・・・生憎ですが、その願い、お受けするわけにはいきません」
「なぜですか」
「魔界が危険だからです。誰だって自分の家の勝手口が猛獣の檻の入り口と繋がっていたら怖いじゃありませんこと?」
幻想郷を守る身として、それは当然の処置だと主張する
「仰るとおり魔界は恐ろしい世界です。凶暴な生物は多数います。しかしそれは過去のこと、今は秩序ができ、力を持った怪物もきっちりと棲み分けさせることで安全に管理しています」
「貴方のそう仰るのなら、確かにそうかもしれません、ですがもう手遅れです」
紫は妖しく笑った
「アナタ方は、幻想郷に来て大きな違和感を感じませんでしたか?」
「違和感・・・・・・あ」
神綺には心当たりがあった
「『新と旧の境界』は単なる分厚い壁ではありません。あれはもともと一つの世界に存在している魔界と幻想郷を、次元ごと断絶する究極の境界」
「次元ごと?」
「境界が張られてから今日まで、少しずつ少しずつ、お互いの世界は切り離されていったんです。そして沢山の矛盾が生まれた。そう例えば・・・」
紫は足を軽く崩して、手にしていた扇を半分ほど広げ口元を隠した

「魔界とこちらの時間の流れに大きなズレがあるのに気付きましたか?」
「それは確かに」
霊夢や魔理沙たちを見てもあまり変わっていなかったと感じた
「そして事実の齟齬。魔界人の知っている幻想郷と、現実の幻想郷がところどころ食い違っていることに」
紫の存在を知らなかったのがそれにあたる
「これが『新と旧の境界』の影響。今の魔界と幻想郷は地上と月以上に遠い場所にあるんです」
「そんな・・・・」
神綺は悲痛な面持ちで項垂(うなだ)れる
「ですが。魔界のヌシが直々に出向いたのに、門前払いするほど、私とて礼儀知らずではありません」
「 ? 」
「二つの条件をクリアしてくだされば境界を取り払い、魔界と幻想郷を再び繋ぐとお約束しましょう」
魔界神を無下にして、手痛いしっぺ返しを食らうのを恐れた紫は、一つのチャンスを与えることにした
「条件ですか?」
「幻想郷には、幾つもの勢力があります。私が指定したその勢力の主すべてから『魔界と幻想郷が繋がってもかまわない』と言わせてください。それが一つ目です」
「もう一つは?」

紫はいったん扇を閉じ体をやや左に傾けた。眉が緩やかな弧を描く

「ときに魔界の母。あなたは弾幕ごっこというものをご存知かしら?」
「だんまくごっこ? 知ってる夢子ちゃん?」
わからないため、夢子に振った
「だんまく? 男膜? アナルヴァージンのことでしょう。きっと」
「・・・あの、それ、ぜんぜん違いますわよ? そもそもなんでそんな発想?」
これまで自分が醸し出していた胡散臭さが、危うくメイドの一言でぶち壊しになりそうになった
「ゴホン。弾幕ごっこは、種族の格差を埋める画期的な決闘方法です。どうでしょう今回の件。最後はその弾幕ごっこで決めてはいかがでしょうか?」
「構いません」
即答だった
「ろくに考えもせず返事とは、ずいぶんと自信がお有りなんですね? まだ詳しいルールも説明していないのに」
「郷に入っては郷に従え。紫さんのご提案、謹んでお受けいたします」
両手をついて頭を下げた
「神綺様、トップの貴方がそうも軽々しく頭を下げては・・・」
(紫“さん”ね・・・)
名字ではなく名で呼ばれたことに、僅かな不快感を感じていると
「失礼します。お茶が入りました」
襖の向うから声がして、お盆を持った藍が現れた
「いいところに。藍、一息入れたら。この方達に弾幕ごっこのチュートリアルをして頂戴」
「かしこまりました」




屋敷から少し離れた場所に、障害物の無い広い土地があった
藍はそこで、夢子に弾幕ごっこの基本ルールの指導をしていた。それを紫と神綺は少し離れた位置から見守っていた

「以上が通常弾の作り方です。やってみましょう」
「こうですか?」
夢子が手を振ると丸い弾が発生した
「いい具合です。飲み込みが早くて助かります」
藍はここで主人に目配せをした。紫は小さく頷いた
「ではこれから通常弾だけで、私と軽く練習試合をしましょう」
「もう実戦ですか?」
「実際に動いてみたほうが感覚もつかめますから」
「わかりました」

二人は一定の距離を取る

「藍、初心者だからって気を抜いちゃ駄目よ」
「がんばれ夢子ちゃーーん」

開始の合図後、先に動いたのは夢子だった。ありったけの弾幕をばらまく
(数にものを言わせているつもりでしょうが、弾と弾のスペースが広すぎて安置だらけ)
その場を少し横に飛びのいただけで、全弾を回避した
(やはり素人・・・・・・ッ!?)
夢子が藍の目の前にいた
(なるほど、今の弾幕は接近を気付かせないための目くらまし)
至近距離から、夢子は最初と同じ量の弾幕を藍に放った
(ですが。まだまだ拙い荒削りの弾幕。これも少し横にずれるだけで回避できる)
思った通りに弾をかわしきったその時だった
「疾っ!!」
「え?」
夢子の体重の乗った蹴りが藍のふくらはぎを穿つ
「ぁが!?」
片膝をついた藍の顎に、夢子の膝蹴りがめり込み、そのまま意識を刈り取った

「ちょっ!? なんで蹴ったし!?」
「 ? 」
紫が声を荒げる理由がわからず肩をすくめる夢子
「ごめんなさい。夢子ちゃん、偶に抜けてるところがあるから」
「・・・・・うーん」
気を失ったのは数秒で、藍はすぐに意識を取り戻し体を起こした

「なんて恐ろしい弾幕だ。まるでミドルキックとシャイニング・ウィザードのコンボを食らったかような衝撃が体に」
「いや、実際に食らってるからそれ」

その後、藍の足がおぼつか無いため、口頭で弾幕ごっこのチュートリアルが行なわれた

説明が終わる頃には空は暗くなっていた
「これ。弾幕ごっこの公式ガイドブック。書店で1500円するけどあげるわ。これに細かいルールやスペルカードの作り方が載ってるから」
「ありがとうございます」
「後日、弾幕ごっこで対戦して貴方たちが勝てば。『新と旧の境界』を外すことを約束しましょう。ただし各勢力に認められるというのが条件ですが」

紫が手をかざすと、空間にスキマが開いた

「お帰りはこちらです、場所は紅魔館でよろしかったですよね?」
「あら、ご存知だったんですか?」
「私の情報網を侮ってもらっては困ります」
それなら、紅魔館を一時的に強奪していることを紫は知っているということになる
「私からは何も言いません」
その件は魔界と紅魔館の問題だと紫は考えていた。だからそれに対してどうこう言うつもりは無かった
「各勢力には私から事前に説明しておきますので、明日から自由に回ってください」






【紅魔館】


「よし、角とった」
「隅を取ったら勝てると思ったら大間違いよ」
ユキとマイはオセロに興じていた
「二人とも遅いね」
「確かに、もう眠いわ」
すると突然、真上の空間が裂け、そこから神綺と夢子が落ちてくる
「どああッ!」
「うわっ!?」
オセロを台無しにして、二人は帰って来た
「一番偉い人から幻想郷の市民権を得るチャンスを貰ってきたわ」
仰天するユキとマイを余所に、神綺は夢子を下敷きにしたまま報告した
「よ、良かったですね」
「ただし、ご近所さんたちに認められないといけませんという条件つきだけど」
神綺に潰されながら夢子が言う
「そうなんだ」
「とりあえずどこから回ろうかしら?」
夢子の上からどいて神綺は悩みだした
「確か幻想郷の地図が図書館にあると思うので、小悪魔に訊いておきます。私とユキ、マイで調べておきますので。神綺様は今晩はもうお休み下さい」
「ありがとう。でも徹夜はしちゃだめよ。みんな12時までには絶対に寝ること」




遅めの夕飯を摂り、風呂から出て髪を乾かした神綺は自室に戻る前に、フランドールの部屋に立ち寄った
メイドの報告で、今日も彼女は起きないことを聞いた
「やっぱりまだ、体力が回復しないのかしら?」
神綺が彼女に施したのは命を繋ぎとめるだけの治療だった。その気になれば全快まで可能だったが、彼女の今後を考えるなら自然治癒力に任せたほうが良いと判断した
「早く良くなってね」
フランドールの頬に触れる
「あら?」
彼女の体が異常に冷たいことに神綺は気付いた







■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

まだ姉妹の年齢が幼かった頃。二人はよく遊んでいた
この頃の姉妹の力は互角ではなく、フランドールの方が圧倒的に勝っていた

この日、珍しく二人は喧嘩をした。どんな理由だったかはもう思い出せない。それほど些細な理由だった
先にレミリアがフランドールを叩いた。それにむっとして彼女も叩き返した
妹に叩かれたレミリアの体は大きく跳ねて壁にぶつかった。吸血鬼の体が幸いして、軽症で済んだが、姉はその場で大声で泣き出した

騒ぎを聞きつけた大人たちがやってくる
最初に駆けつけたのは母親だった。たまたま近くの居たのが彼女だった
やってきた母親はレミリアを庇うように抱きかかえ、フランドールを凄まじい形相で睨みつけた。それは本来、我が子に向けるものではなかった

―――どうして?

母の体は震えていた。恐怖していた、フランドールの能力が発動すれば自分は一瞬で肉塊に変えられることを知っているからだ
しかし、それでも母はレミリアを庇い抱きしめた。逃げ出したくなる恐怖を、子を守る親の愛がねじ伏せた
その姿はフランドールの目にとても美しく映った。うらやましく思った
だから余計に悲しかった

―――どうして私にもしてくれないの?

1歩近づくと、母は姉を一層強く抱きしめた。命をかけて守るとか細い背中が語っていた

―――なんでお姉様だけなの?


やがて父親と従者たちがやってきた

―――誰か私と一緒にいてよ

大勢の手によって、冷たい地面に押さえつけられた


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

彼女の夢はそこで終わった


「・・・・・・」
フランドールは静かに目をあけた。どれくらいの時間寝ていたのかはわからない
ぼんやりとした景色がやがて鮮明に見え始めた

「・・・ん?」
頭が一気に覚醒した
夢の中で母と呼んでいた人物が目の前にいた。同じベッドの中、自分を抱きかかえて眠っている
彼女の体温が低いことに気付いた神綺は、温める目的で入ったのだが、そのまま眠ってしまっていた
(お母様だ)
初めて感じる温もりに包まれて、自然と涙が流れた。痛み以外の理由で流したのは随分と久しかった
声は出なかった、喉に痛みを感じた
(あったかい)
そう思って目を閉じる。たった数秒間の覚醒だった













三日目

フランドールの部屋で一夜を明かした神綺は、起床すると着替えるために部屋を出た
「それじゃあ、行ってくるわね」
眠り続ける彼女にそう言ってからドアを開けた

ダイニングルームに行くと、夢子が朝食を用意してくれていた
「お願いしてある件はどうなってるの?」
「こちらに」
夢子の手には幻想郷の地図
「妖怪の山。永遠亭。地底。命蓮寺。冥界。これらが八雲紫の指定した勢力です」
「まずどこから挨拶に行こうかしら」

話し合い。最初に回る場所は地底に決定する

「それじゃあ、行ってくるわね」
「これからは私もお供します」
昨日で紅魔館内での雑務を一通り終えた夢子は随行を願い出た
「夢子ちゃんはユキちゃんマイちゃんと一緒にお留守番をお願い」
「しかし・・・」
「それに“あの子”が心配なの。様子を見ていてあげて」
横目で小悪魔を見た
「・・・・・・かしこまりました」
「ありがとう」

神綺は一人で、紅魔館の門を潜った





【 地底 】

「あなたを見た時、最初は『似てるな~』程度にしか思わなかったわ、でもね」
黒い翼を持つ女の子の肩に手を回す。もう片方の手には外の世界のビデオのパッケージ
「このビデオに出演してる子、あなたなんでしょ?」
「知らない!知らない!知らない!」
頭を振って否定する
「いやらしい子。男の人のを、あんなにも美味しそうに頬張っちゃって」
「う、うにゅぅ……だって監督が、『出演してくれたらご飯たくさん食べさせてくれる』って」
「じゃあ認めるのね? このビデオの子が自分だって。男の人の上で激しく動いてる子が自分だと。こんな無修正に出てるなんて、いけない子」
「言わないでぇ!」

神綺の手には、映画ヒッチコックの『鳥』があった

「なにやってるんですかあなた達?」

呆れた目で二人を見る少女が一人
少女は胸にコードの付いた目玉をさげており、黒い猫を抱えていた

「そこのあなた。地霊殿に行きたいのですね?」
神綺を見てそう言ってきた
「どうしてそれを?」
「ご案内いたします。どうぞこちらへ」
少女は背を向けた。小声で抱えている猫に小声で話しかける
「お燐、お空と協力して。強いと思った方を一人、地霊殿に呼んできてください」
猫が頷くのを確認してから、腕から解放する
地底にやってきた女性の方をちらりと見る
「あ、私は神綺といいます。一応は・・・」
「魔界の神ですか。驚きました、もっとおぞましい姿をした方だと想像していましたから」
「あなたは一体?」
目の前の華奢な少女が特別な力を持っていることを理解する
「ああ、うっかりしてました。私の自己紹介がまだでしたね。心を読んで相手の素性を知ると、つい挨拶した気になってしまうんです」
悪癖をお許しください、と謝り名乗ろうとする
「私は古明地さとり。覚の妖怪で、ついでに地霊殿の主をやっております」
神綺が魔界を認めてもらうため各勢力を訪問するということは、紫から彼女の耳にすでに届いていた





【 地霊殿 】

「どうぞ。お口に合うかわかりませんが」
地霊殿の客間に招かれて、お茶を振舞われる
「わぁ、いい香り」
息で冷ましながらお茶を啜る
「何の疑いもなく飲むのですね」
「え?」
意味がわからないとばかりに、神綺は首をかしげた
「ここは地底ですよ。あなたはもっと警戒すべきです。スラム街を歩く気持ちでいなければならないのに、あなたの心にはそれが全く感じられない」
「そ、そうなんですか?」
「・・・・・・・」
流れてくる神綺の思考に、さとりは調子が狂いそうになる
「なぜですか?」
「なぜって?」
「みんな、私が覚妖怪だと打ち明けると心を読まれまいと意識して、大なり小なり警戒するのに、あなたは逆に読んでくれと言わんばかりにこっちに思考を垂れ流してくる」
家族のこと、魔界のこと、好きな食べ物、スリーサイズ。その他諸々。次から次へと思考が雪崩れ込んでくる

「だって、言葉を使わないで自分のことを知ってもらえるって、素敵なことじゃないですか?」
「・・・・・」
今まで一度も遭遇したことのないタイプの相手だった
「魔界の神がそんなポジティブでいいのですか?」
「魔界の神だからポジティブなんです」
「ふふっ」
おかしくて笑った。すっかり毒気を抜かれた気分だった

「いいでしょう。地霊殿の主こと古明地さとりは、魔界と幻想郷が関わりを持つことを容認しましょう」
「よろしいのですか?」
「その代わりと言ってはなんですが、ひとつお願いしてもよろしいですか?」
「出来る範囲でなら」
さとりは両手を組んで胸の前まで持ってくる
「地底が幻想郷の中でどんな位置づけになっているかご存知ですか?」
「えっと少しは」
能力を危険視された者。門地による差別。誰からも受け入れられない者が最後にたどり着くのがこの場所
「地底のような劣悪な環境で暮らすには惜しい者が何人もいます。幻想郷と魔界が繋がった暁には、どうかその子たちを受け入れて欲しいのです。大勢とはいいません、ごく数人でいいんです」
咎無くしてこの地に追い立てられた者が、地底には沢山いた、さとりには彼らが不憫で堪らなかった
「お願いします」
腰を直角に曲げて頭を下げた

神綺の返事は決まっていた








しばらく話をした後、神綺は地霊殿からおいとますることにした

「今度、妹さんにも合わせてください」
「ええ」
そう約束して門を開けたとき
(む、これは?)
さとりの脳に知っている者の思考が流れ込んできた

門を開けた。外では鬼の星熊勇儀が仁王立ちして待っていた
「なんかのっぴきならない状態だって、猫と鴉から聞いたけど?」
神綺の前にずいと立ちはだかる
「あんたがその原因かい?」
「勇儀さん、その方は大丈夫です。色々とお話してわかりました。良い方です」
「さとりにそこまで言わせるなんて中々のもんだね」
へぇ、と興味深げに神綺を見る
「あの・・・・・・えっと・・・」
「うん。悪いやつじゃなさそうだ」
警戒を解き、自身の肩を軽く揺すっての力を抜いたのをアピールした
「いやぁ、驚かせてすまないね」
照れくさそうに頭を掻いてから、手を差し出してきた
「星熊勇儀ってんだ。御覧のとおりの鬼さ、よろしく」
「こ、こちらこそ。神綺っていいます。魔界で神をやってます」
握手を求められたので快く応じた。大きさの異なる手が結ばれる
5秒ほどで二人の手は離れた






神綺が帰ったあと、勇儀は地霊殿のペットを誘い旧都の飲み屋街に繰り出していた。それにさとりも同行した
「勇儀さん」
「ん?」
ほろ酔いの鬼にさとりは話しかけた
「さっきの握手。神綺さんと力試しするためでしょう?」
「あれかい? ははは。やっぱりさとりに隠し事はできないね」
「どうでしたか?」
その問いに勇儀は若干耳を疑った
「怒らないのかい? 私はあんたの客人の手を潰そうとしたんだよ?」
てっきり叱られるとばかり思っていた。この酒飲みに付いて来たのだって、自分を糾弾するためなのだと予想していた
「当然それもあります、しかし鬼と魔界神の力比べも気になります」
「まいったねこりゃ」
勇儀は自分の手をじっと見て、握手したとこのことを思い起こした
「何も無かったよ」
「何も? 本当に?」
「いや、実際に力を篭めたんだ。その実感が無かった」
勇儀の思考を読む。彼女の脳内には、暗闇を握り締めようとする彼女の姿が浮かんでいた

「百の力を篭めたら、百の力が内側から返って来たんだ。だから今度は五百の力を篭めた、すると五百の力が。千を篭めたら千が、万を篭めたら万が
 ・・・・・・全然、底が見えない。もしかしたら自分は始めから力なんて篭めてなかったんじゃないかと錯覚しそうになったよ」

その手は小刻みに震えていた

「むこう様に争う気が無いなら、喧嘩は一生出来そうにないね」









【紅魔館】

神綺の留守中
小悪魔はフランドールの眠る部屋に今日も訪れていた
「あれからあなたをどう処理しようかずっと考えていたんですよ」
フランドールを生かしておきたくなかった、神綺たちに知られたくない情報を漏らされるのを危惧していた
「喋れないようにするだけじゃ安心できません。かといって殺すと後々面倒です・・・・・・なので」
その手には、かつてフランドールが服用していた錠剤。それを手の中で粉々に砕く
「薬中にしちゃえば、私の言いなりになってくれますよね?」
薬漬けにすることで自分への恭順化を謀ろうとした
鼻から吸引させるために寝息を立てるフランドールの口を塞ぐ
「ほら、苦しいでしょう? 鼻で一生懸命呼吸してください」
薬を握った手を鼻の穴に近づけようとしたときだった

「何をしているのかしら?」

部屋のドアのところに夢子が立っていた。ドアの開く音がまったく聞こえなかった
「もー駄目ですよ? 女の子の部屋なんですから、ちゃんとノックしてあげないと」
「そうねごめんなさい」
(この女・・・)
小悪魔は夢子の訪問が偶然ではなく、意図的であることを感じ取った
「それじゃあ私はお暇(いとま)しますね」
手をポケットに入れて中に薬の粉を落としてから、踵を返す
「私さっき『何をしているのかしら?』って訊いたはずだけど?」
夢子はドアを閉めてドアノブを握る。答えるまで通さないとその目が語っていた
「・・・・・」
「・・・・・」
無言で数秒、お互いを見合った。先に表情を崩したのは小悪魔だった
「そんなの決まってるじゃないですか? フランドールお嬢様が心配だからですよ?」
「そう・・・・・・だったらいいのよ」
ドアを開け、体を横に軽くずらして進路を小悪魔に譲る
「李下に冠を正さず。あまり疑われるような行動は慎みなさい」
「ええ、肝に銘じておきます」
その言葉に、やはり夢子は自分に釘を打ちにきたのだと確信した











夢子がエントランスホールを通ると、白い魔法使いマイが備え付けの木椅子に座り寛(くつろ)いでいた

「何を読んでるの?」
「えーと新聞? そこにたくさん詰まれてたから」
夢子も一部手にとり軽く目を通した、どうやら山の天狗が発行しているものらしい
「おもしろい?」
「微妙。記事に興味をそそられない・・・まあお堅い夢子姉さんにはこういうゴシップ記事は・・・」
「チンコが生える薬の記事とか無い?」
「はい?」
ユキは耳を疑った
「神綺様は完璧な存在。しかしたった一つ。足りないものがあると感じるの」
「えっと・・・」
唐突に話しだした
「古来、神とは生命を超越した存在。故に性別など存在しないんじゃないかしら? だから神綺様にもちんぽがあってしかるべき。いや無いほうがおかしいと考えるのが自然
 可愛らしくも、どこか艶かしさを感じるボディライン、近づく者に安心感を与える母性と包容力・・・・・・・・挙げたらきりが無いわ。でもね、ペニスだけが足りない
 神綺様にペニスは美しくないと思うかもしれない、けれど、それは間違った認識よ、というか神綺様にそれが無いと私は誰に処女を捧げればいいの?
 母という世界ランクを制覇した以上、次は父という新しいステージに挑戦すべきよ。あ、決してニューハーフになれとかそういう意味じゃないから
 こないだビデオ屋でふたなり人妻がペニスにベルト巻いて射精を制限させられ、3時間責められ続けて最後に「くっさいザーメン出させてください!」と泣きながら叫ぶ内容のを借りたけど、滅茶苦茶興奮したわ
 外の世界に性転換手術なんてのがあるけどね、人工ではなく天然でなければいけないの、こう神綺様自身からニョキニョキ~と生えてくるような、自らの体を創造する感じで
 つまり両性具有は神綺様の魅力を一層際立たせるスペシャルなステータス。幻想郷なら、きっと神綺様にペニスが生える方法が見つかるのでは・・・・・おや?」
妖精メイドがやってきて来客を知らせた
「ちょっと見てくるわ」
話を中断して席を立ち門へ向かった
「なんだ今の?」
机に深くもたれ、マイはしばらく呆けていた



「どうしたの?」
「あ、メイド長。こちらのお客様が」
門にいたのは桃の乗った帽子をかぶる少女。比那名居天子だった
「桃の訪問販売は間に合ってるわよ?」
「まーまー、そんなこと言わずにお姉さん。今なら数もおまけして・・・・・・・ってちゃうわ!」
(ノリツッコミしたわ、この子)
天子の手には招待状があった
「なんか今週あるはずのパーティが無くなったって衣玖から聞いたんだけど本当?」
「ええ。パーティの中止の知らせは、すでに招待客全員に配ったはずだけど?」
レミリアがパーティを今週開催する予定だったことを小悪魔から聞き、幻想郷に来た最初の日に中止を知らせる紙を作りメイドたちに配らせていた
「ごめんなさい、あなたには誤って配送されていなか・・・」
「くそう、折角高いお金出してダフ屋から買ったのに」
「正式に呼ばれてないの?」
「んなことはどうでも良いのよ。で、なんで中止になったのよ?」
「それはね・・・」

夢子が説明を終えた瞬間に、天子は緋想の剣を手に斬りかかった
結果返り討ちに合い。棄て台詞を吐いて逃げ出した












【 図書館 】


夢子との一件で、小悪魔は少しだけ不機嫌だった

「うりゃ♪」
「ピギュィィィィ!!!」
図書館、最奥の部屋。かつてフランドールから魔力を吸い取っていた生物は彼女に一匹一匹踏み潰されていた
「この子で最後っと♪」
「ギュッ!!!!」
顔に生物の緑色の体液がビチャリとかかった。それを指に絡ませてテイスティングする
「不味い。全然魔力が無いですね」
パーティに必要な魔力が集まって以降、この生物たちは使われていないため、体内に魔力がほとんど残っていなかった
殺した生物の死体を一箇所に集め、死体の山の上にフラスコを置き、それらを魔法陣で囲った
「さて、どれくらい集まりますかね?」
魔方陣の効果は、死体を魔力に還元させる外法のものだった










魔力の溜まったフラスコと旅行鞄を手にした小悪魔は、廊下で黒い魔法使いユキに出くわした

「どうしたのさ小悪魔? そんな大荷物持って」
「一度魔界に帰って、数百年ぶりに家族や友人に会いに行こうかと思いまして」
「そりゃあ良い事だ。ところで通行料はあるの?」
「ええ、こちらに」
生物たちを殺して得た魔力の入ったフラスコを見せる
「今日の夕方には戻ってきますので、皆様にはそうお伝え願います」
「ああ。いってらっしゃい」




【 魔界 】

レミリア達は城で一番上等な客室にいた
彼女らには、寝床として今の部屋があてがわれている
外出は自由で、外に出る際はサラとルイズが同行する。言えば何処へでも連れて行ってくれるらしい
食事や本は何でも取り寄せてくれて、至れり尽くせりの生活だった

「ここでも暮らしも悪くないわね」
「そうですね、ご飯は豪華でおいしいですし」
「魔法関連の本もたくさんあるわ」
「メイドも良く教育されてます。うちのメイドもこれくらい出来ればいいのですが」
それぞれが快適だと思うところを言いあった

「でも癪ね」

レミリアの言葉に全員が同意した
ソファに腰掛けたレミリアは、幻想郷への戻り方を画策する
「パチェ、戻り方はわかる?」
「私たちを転送に使った魔法陣、あれと同じものがこの城のどこかにある。それに必要な魔力を篭めて発動すれば戻れるはずよ」
「つまり魔方陣の場所を突き止めればいいわけね?」
「それと敵の戦力の把握です」
パチュリーの言葉の後、咲夜が進言する
「咲夜さんの言う通りです。私たちを襲ってきたやつらと同レベルの敵が何人もいたらキツいです」
クリアしなければならない問題はいくつもあった
「そういえばフランドールが持っていた紙にも魔方陣が・・・・・・いや、考えすぎか」
紅魔館では到る所でパチュリーの描いた魔方陣を見ることが出来る。魔法陣の知識に乏しいレミリアには、どれも同じに見えた
その時、ドアがノックされる
「なに?」
「ルームサービスです。オードブルをお持ちしました」
カートを押して部屋に赤い髪の給仕が入ってきた
「頼んでないわ、勝手に入ってこないで」
美鈴が帰れとカートの前に立ちはだかる
「まあまあ、そう仰らず」
給仕はヘッドドレスを外して、結い上げた髪を解き隠していた羽をピョコンと出し、伊達眼鏡をはずした
「いやあ。紛れ込むのに苦労したんですよ」
「小悪魔!?」
四人全員が驚いた
「諸事情であまり長居できません。手短に用件を伝えます」
カートのクロスを剥ぎ取ると、中から二冊の本が出てきた
「離れていても会話の可能な通信機と、もう一冊は城の内部資料です。どこが何の部屋か詳細が書かれています」
「よし、それならすぐにでも」
レミリアは勇んで立ち上がった
「まだです」
それに小悪魔が待ったをかける

「近いうちに“最高のタイミング”が来るはずです。その時になったらこの本にてお知らせしますので、どうかお待ちください」


>>魔界の母と悪魔の妹 4
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