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木質の偽造ペレット工場

東方の二次創作SSです。いぢめ・グロ注意

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ある愚者の孤独な復讐(前編)

注意
・ゆっくり虐待SS






山々に囲まれた盆地
そこに外部との交流はほとんど無く、土地の痩せた貧しい村があった


「村八分の身のくせに飯をたかりに来るだなんて本当に卑しい子だね」
青年はただ黙って女性に対して頭を深く下げていた
「まったく、親が親なら子も子だよ。兄妹そろって厄介者だね。本当にっ!」
女性の小言が終わるまで、青年は顔を上げることができなかった。奥歯をかみ締める音が青年の鼓膜にだけ聞こえる
「ほら、受け取ったらさっさと村から出て行きな」
ようやく女性の小言が終わり、青年は乱暴な手つきで袋を手渡される
「ありがとうございます・・・・」
米を受け取り礼を言い、青年は次の場所を目指す
目的に建物に着き、左右を見回し人気の無いことを確認してから小さく戸を叩く
「先生、先生」
返事は無い
「先生に何用だ」
代わりに背後から声が掛けられ咄嗟に身構える
「・・・・・・なんだあんちゃんか。先生はどこか知らないか? 妹の薬が欲しいんだ」
「もう無くなったのか?」
「最近また発作が酷くなって、もうほとんど飲んじまった」
「生憎と先生は薬草取りに出かけている。明日の夕方にでもまた取りに来い」
「わかった出直すよ」
建物に向かい頭を下げ、急いで村を後にする
村を出るまでの途中、すれ違う村の人間に悉く冷たい視線をぶつけられた


村を出て家に向かうまでの道中。ろくに整備のされていない林道を青年は進む
「あっ・・・」
受け取った米の入った袋の底に擦り切れてできた小さな穴があいていた、慌ててそこに手をあて塞ぐ。村に居たときは人目を気にし過ぎて気付けなかった
あの家の女性の嫌がらせだと青年は瞬時に理解する
「以外と胸筋使うなこの持ち方は・・・・・・・・ん?」
草の影に動く複数の丸い物体を見つける。ゆっくりの一家だった、大きいものから小さいものまでいて地面を掘ったり、草を食んだりしていた
(冬篭りの餌集めか)
色めいた山は落葉が進み始め、徐々に気温も下がり始めている
暖かい時期を恋しく思いながら青年は家路を急いだ



村から離れた山の中に青年の家はあった
しかしそれを『家』と呼ぶにはいささか躊躇われた
童話の狼が息を吹きかかれば簡単に吹き飛ばされそうな粗末なつくりの小さな小屋だった
戸が外れるのに気をつけながら慎重開ける
「ただいま」
「あ、にぃちゃんお帰り」
小屋の真ん中には小さな囲炉裏。それを挟んだ向かいに布団に入った妹がいた

この家には兄妹の二人だけで住んでいる。両親は2年前に他界した、二人とも流行り病だった
父親が村で人傷沙汰を起こして以来、一家はこの小屋へと追いやられ細々と暮らしていた
家の横には石を積んだだけの小さな墓が二つある

囲炉裏で火を起こしながら青年は話す
「また今日も帰る途中にゆっくり見たぞ」
「そうなんだ、最近はこのあたりまで来るようになってるみたいだね」

半年ほど前の話
この集落の近くにゆっくりの群れが越してきた。ゆっくりまりさとゆっくりれいむだけで構成されていた群れだった
その群れを統べるのはドスまりさ。3メートルはあろうかという巨体で賢くて仲間思い。それ故に群れの信頼も厚かった

「あいつらの中身は餡子っていうけど。本当だと思うか?」
甘い物などここ何ヶ月も口にしていない兄妹にとって餡子ほど魅力的な甘味はなかった
「駄目だよ食べたら。ゆっくりだって一生懸命生きてるんだから」
もうこの家には食べるものはほとんど無く。青年が罵られのを承知で村の親戚に食べ物を分けてもらいに行ったのはこのせいだった
「わかってる、村とあいつらが結んだ『決まりごと』だろ。破る気は無いよ」

ドスまりさは引っ越してきて早々仲間を引き連れて村へとやって来て、自らの力と能力を見せ付けた後に『不可侵協定』を申し出てきた
その力は圧倒的で、争えば自分達はただではすまないと理解した村長は協定を結ぶことに合意した
協定の内容は単純明快。ゆっくりが畑を荒らさない代わりに人間もゆっくりに危害を加えることをしない
このルールに違反した場合は犯した側に厳しい処罰が下す。というものだった
ある意味で村とゆっくりは共存していた

自分たちとしても下手に手を出して村との関係をこれ以上悪化させるわけにはいかなかった
ゆっくり同様、この兄妹も冬を越せるかどうかの瀬戸際だった
「そういえば薪の備蓄がもう・・・・」
「わかった。明日とってくるよ」
「手伝えなくてごめんね」
すまなそうにして俯く
「そんなこと気にするな」
妹にそんな顔をされるのが青年には堪らなく堪えた
「でも私も枝拾ったりとかなら・・・・・うっゴホッゴホッ」
ゴホ、ゴホン、、ゴホン、ゴホゴホゴボ…ッ うぅ…ゴホン―…!
「おい、大丈夫か!」
妹は呼吸器を患っていた。発症したのは約1年ほど前。元々体が弱く、さらに長期にわたる不摂生と湿気の多い場所で過ごしたのが原因だった
大体一週間に2~3回の割合でこの発作は起きる
青年は急いで木箱から三角に折られた紙を取り出す
発作を抑える粉薬が包まれていた
そしてこれが最後の一つだった
げほっげほゲホゲホンゲホン・・・ゼィゼィ・・ぅゲホンゲホンゲホンゲホンゲホゥげホッ、、ハァッ、ハァッ、げほ、ハァッ、
咽る妹に竹の水筒を渡す
「一気に飲むなよ、ちょっとずつ、ちょっとずつだ・・・・・・・そうだ。上手いぞ」
兄の指示通り、薬を少し含んでは水を飲む行為を繰り返す
飲んだ粉が気道に付着していがらを抑え、徐々に呼吸が安定していく
この薬がなければ妹は長時間この咳に苦しむことになる。長いときは一晩中
「ふぅ・・・・・・ふぅ・・・・・・・・・」
背中をさすってやる。さする青年の手が背骨の形を布越しにもかかわらずはっきりと捉える
袖から伸びた腕は肘の関節の輪郭がはっきりとわかった
「お前また痩せたか?」
妹は頑なに首を横に振るだけだった

発作から数分が経ち、妹の呼吸はいつもの浅いものに戻っていた
「ねえ。にぃちゃん」
「なんだ?」
「にぃちゃんって恨んでる人いる?」
唐突な質問ではあったが、兄は包み隠さず答えた
「そりゃぁいっぱい居る。まず川向こうの親戚のババァにくそジジイの村長、親父にお袋、あと俺とお前に石投げてきたやつら全員。挙げていったらきりがない」
村八分となる原因を作った両親。その親が死んでなお自分たちを受け入れようとはしない村長。手を差し伸べてくれない親戚。迫害する村人。全てが許せない
「ねえにぃちゃん。私たぶん・・」
「滅多なことは言うな。親父らとお前の病は違う、お前のは治る見込みのある病だと先生は言ってたぞ」
「そうじゃなくて、わた・・」
「米が炊き上がったぞ」
無理矢理言葉を遮った。何が言いたいのかは知らないが、縁起でもないことを言おうとしているのはわかった
「食ったらさっさと寝ろ。いいな?」
「うん!」

食後、二人は寄り添うように眠る
「寒いな」
所々壊れた壁から吹き付ける冷たい隙間風が兄妹を舐め回した
「私は平気だよ」
「ならいい」

もうすぐ本格的な冬がやってくる
春になれば今よりずっとあたたかくなって、今よりたくさん食べるものが手に入る
この冬さえ越せば妹はきっと治るという確信があった
寝息を立てる妹の寝顔を見る
その頬にはもう以前のようなふくよかさは無かった
(明日も頑張ろう)
そう誓い青年も眠りについた




次の日
朝から青年は冬を越すための薪を集めるために小屋にあるノコギリとロープ、ナタとヨキ(斧)を持ち手ごろな樹木を探していた
「この木でいいか」
薪に適した程よい大きさの広葉樹を見つけた。伐倒方向の確認をしてノコギリで受け口をつくり、追い口をつくり木を倒す
倒したらナタとノコギリで枝を打ち。小さく玉切りをして、ヨキで割る。割った薪を集材用のカゴに入れてる。この作業を延々と繰り返す
空腹が仕事の邪魔をするが構ってなんかいられない
季節は待ってはくれない。少しでも多くの薪を集めなくてはならなかった

汗を拭うついでに周りを見渡すと今日もゆっくりの群れを見つけた
(まったくご苦労なことだ)
気にせず薪集めを再開した





兄が樹木にノコギリの刃をあてている頃、妹は家の周りを散歩していた
家に閉じこもってばかりでは治るものも治らない。と兄に言われ、定期的に行なっている
たった少しの距離を歩くだけで息を切らしてしまう自分を不甲斐無く思いながら、おぼつかない足どりで進む
「あら」
草の陰から小さな球が一つ飛び出してきた
「ゆっきゅりちてってね!!」
手のひらに乗る大きさのゆっくりの赤ん坊が一匹だけいた
突然の挨拶であったが、妹も微笑みながら返した
「うん、こんにちは」
よく見ると赤ん坊ゆっくりの目の周りは赤く腫れていた
それに子供が単体でいるのはおかしいと思い訊いてみる
「あなた、お父さんとお母さんは?」
するといきなり赤ん坊は目に大粒の涙を浮かべて泣き出した
「ゆう゛う゛う゛う゛う゛う゛みんなどっがいっじゃっだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
この赤ん坊、数時間前から親とはぐれこのあたりを泣きながらずっと彷徨っていた
そこへ偶然妹が通りかかり寂しさに勝てず草むらから出て声をかけた
「あなた迷子なの?」
顔を前に傾けて肯定する
「よかったら家に来る?」
「いいにょっ!?」
その言葉泣き止んだ
家からこの場所まで大した距離はないから親が来ればすぐに見つかるはずだ、それにここにいたら他の動物に捕食されてしまうと思った
赤ん坊を手に乗せてすぐ近くの小屋へと戻る。いつもより高い視点に赤ん坊は歓喜した
手のひらからあがる歓声に妹は頬を緩ませる、赤ん坊を連れてきたのには話し相手が欲しかったという気持ちもあった

その光景を離れたところから見ている者達がいた
赤ん坊ゆっくりの家族である。いなくなった子供をようやく見つけたと思った直後、人間の手に乗って連れ去られるのを見て驚愕した
「ゆゆっ!! いもうとがゆうかいされたーーーーー!!」
「れいむのこがぁぁぁ!!」
「と、とりあえずどすにほうこくするんだぜ! あしのはやいまりさがいってくるんだぜ!」
母れいむに人間の監視を任せて父まりさは一目散に巣を目指した

ゆっくりたちの巣は村の北側にある山肌の露出した斜面にできた洞穴だった
入り口はドスまりさより一回り大きく、同じ直径で奥まで続いていた
どういう仕組みかはわからないが、洞窟の中は奥まで明るかった
巣にたどり着き、息切れ切れの父まりさに仲間が声を掛ける
「どうしたのまりさ、そんなにいそいで? もっとゆっくりしようよ」
「いまはそれどころじゃないんだぜ! どすはどこなんだぜ!?」
「いつものいちばんおくのへやだよ」
礼を言うのも忘れ父まりさはその道を急ぐ
「どす! どす! たいへんなんだぜ!!」
『どうしたの?』
洞窟の奥は底がすり鉢のように窪んでおり、ほかの場所よりも広かった
すり鉢の底にドスまりさが鎮座していた。その横には腹心と思われる成体のゆっくりれいむとまりさがいた
この場所は普段ドスまりさと腹心しか常駐することは許されていなかった、その奥に食料を蓄えてあるからだ
「まりさのこどもが、にんげんにゆうかいされたんだぜ!!」
「「『ゆゆっ!!』」」
父まりさは自分の見たことを全て伝えた
群れ全体に激震が走った

だがドスまりさだけがこれはチャンスだと閃いていた
もしこれが事実なら赤ん坊の生死を問わず、協定違反の罰金として越冬の食料を要求できる。苦労して餌をあつめる必要が無くなる
万が一人間が要求を断っても自身の必殺技“ドススパーク”を使えば人間は「はい」といわざるおえないはずだと
普段温厚なドスまりさも群れの繁栄のためなら人間に対して鬼のように冷徹に振舞える覚悟と自信があった


目先の利益に囚われてドスまりさは、父まりさの報告が誤解かもしれないという可能性にまで頭が回らなかった


腹心の2匹と話し合った結果。赤ん坊の救出隊と村に行く部隊の二つを作り同時に進行するという段取りを立てた
『群れの中で強い子を集めてね! その子たちで赤ちゃんの救出部隊を作るよ!!』
「ほかのこはやまでしょくりょうをあつめているみんなをよんできてね!」
「かずがあつまったらみんなでむらにいこうね!」
ドスまりさと腹心がそれぞれ指示を出した
部隊はすぐに編成され兄妹の家に派遣された

『仲間を傷つけたやつは絶対に許しちゃだめだよ!!』
「「「ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」」」
別れ際にドスまりさは救出隊にそう激を飛ばした







布団から上半身だけ出してゆっくりの赤ん坊と会話を楽しむ妹。かれこれもう2時間以上は経っていた
「ん?」
「どうちたの?」
外から物音が聞こえた気がした
そう感じた直後、いきなり戸が倒れた
「にぃちゃん、戸を開けるときは丁寧にっていつも自分で・・・」
小屋に入ってきたのは兄ではなかった
「おとーしゃん、おかーしゃん!!」
ゆっくりの赤ん坊が目を輝かせながら喜び叫んだ
小屋に入ってきたのはゆっくりたちだった。目で追って軽く数えてみても10匹はいる
一人と一匹は向かい合って笑い、赤ん坊が妹の手のひらから降りる
「良かったね、迎えに来てくれて」
「うん!!」
とてとてと小さな歩幅で母のもとまで歩み寄る
母れいむは急いで我が子を口の中に入れるとすぐ小屋を出て行った
さよならを言う時間も無かった
その母れいむが出て行くと他のゆっくりが壁を作るように横一列に並ぶ
「 ? 」
その奇妙な光景に妹は首をかしげた
集団の代表である父まりさが口を開いた
「よくもうちのこをさらったな!!」
その言葉に妹は驚愕した
「待って。私は・・」
「うるさいよこのゆっくりさらい!! あのこをたべるきだったんでしょ!?」
群れのゆっくり達は『人間はゆっくりに対してヒドイことをする』というの認識を強く持っていた
その言葉を皮切りにゆっくりたちが一斉に飛び跳ねだした
「ぐぅッ」
4キロ以上ある皮と餡子の塊がぶつかり、体を大きく振られる
その痛みを堪えて事情を丁寧に説明する
「勝手に連れて行ったのはごめんなさい。でもあの子に危害をつもりなんて無かったの、信じて」
「いいわけしないでね!!」
「あやまったっていまさらおそいんだぜ!!」
「おお、みぐるしいみぐるしい」

数匹が妹を襲い、残りが部屋の中を荒らしまわった

ゆっくりといえど成体は以外と力を持っている、病人の妹がそれを追い払うのは困難を極めた
ましてやこの数ではどうすることもできなかった
自分の身を守ることだけで精一杯だった
「にんげんがまりさやれいむにかてるわけないんだぜ!」
「『ふかしんきょーてー』をやぶったばかなにんげんはゆっくりはんせいしてね!」
妹は薄い布団を被ってゆっくり達からの暴力にひたすら耐えた
布団の上にゆっくりが乗りかかり、容赦なく飛び跳ねる
「痛い・・・痛い・・・・ごめんなさい、許して・・・・」
叫ぶ力すらもう無かった
「ゲホッゲホッ」
ゆっくり達が暴れたことで舞い上がった部屋の埃と灰、ゆっくり達の体に付着していた砂により気管を痛めてしまった
ハァッ、ぐゥゥっゴボンゴボンゴボンゴンゴンゴンゴンゴン、は、ハァっ、ヒ―――…ゴボンゴボンゴボンゴボっ
「ごほごほうるさいよ! さっさとだまってね!!」
咳の音に苛立ちを覚えさらに強く妹を踏みつけるゆっくりたち
ついに妹の被っていた布団を剥ぎ取り、直接体当たりを始める
妹はただ本能で体を丸くすることしかできなかった
頭に、足に、腕に、背中に、腹、いたる所に重量のあるゆっくりがぶつかってくる
砂袋で殴られているのも同然だった。骨は折れないものの相当な痛みだった
やめてと言いたくても咳で声が出ない
ゆっくりの気が済むまでこの暴力は続いた

部屋にあるものはほとんど壊され、妹も虫の息の状態になってようやくゆっくりたちの動きが止まった

「じゃあね! これにこりたらにどとばかなまねはしないでね!!・・・・・・・ペッ」
「にんげんがまりさたちにかなうはずないんだぜ!!・・・・・・・・・ペッ」
それぞれの言葉で妹をなじり、その体に老廃物となった餡子の唾を吐きつけてゆっくりの団体は小屋から出ていた
圧倒的勝利にみなご満悦だった
ゼヒィ…ゼヒィ…ゼヒィ…,コヒュゥ、コヒュゥ、、コヒュゥ、、ゼィッゼィッゼィッゼィッ、、うぅ…、――
痰だらけの喉で必死に呼吸して息を整えようと努める
うう・・・・っゴボンゴンゴンゴンゴンゴン…、ゴボンっ
しかし駄目だった
痛む体に鞭打ってなんとか這いずりながら薬の入っている箱に辿り着く
「あ・・・」
薬はすでに昨日の時点で無かったことを思い出した
少女の咽る音だけが寂れた小屋の中に響いた



薪の積んであるカゴを担ぎ青年は家を目指していた
「ん?」
道の向こうからゆっくりの群れがこちらの方向にやってきた
ゆっくりたちは何か楽しげに話している
(本当に最近よく見るな・・・)
青年とゆっくりは特に何事もなくすれ違った

家についたのはそれから数分のことだった

小屋の様子がおかしいことに気づきカゴを捨てて走る
倒れた戸を無視して土足のままあがる
「おい、何があった!!」
床にうつ伏せになって倒れている妹を抱き起こす
妹に付着した餡子と先ほどすれ違ったゆっくりの集団の二つが符合する
「ゆっくりどもが襲ってきたんだな!?」
「ち、違うの・・・ゴホぉッ、、 ゴホぅごホ・・・・私が迷子の赤ちゃんを連れて来たから・・・あの子たち、私が攫ったと・・・・あハッ、エホンゲホン」
「なんだよそれ! あいつらの勘違いじゃないか!!」
体についた餡子を無視して布団に寝かせる。いつもよりも症状がひどい
「すぐに薬とってきてやるからな! おとなしく寝てろよ!」
時刻はもう夕方だ今行けば薬はあるはずだった。全力で走れば村とここまでなら20分とかからない
だが
「まって・・・・にぃ、ちゃん・・・・・行かないで・・・」
妹の手が離れていこうとする兄の着物の袖を掴む。どこにそんな力があるのか、袖に皺ができるほど力強い握りだった
「心配するな、あっという間だから」
「でも・・・・・・・・・・・わか、った・・す、ぐに、帰ってきて、ね・・・・」
息も絶え絶えにそう言うと手を離した
青年は妹に布団を掛けなおしてから家を飛び出した
薪集めの作業と空腹でクタクタだったが、疲労感は背後から聞くる咳き込む音にかき消されていた








「なんだありゃ・・・?」

村の入り口に大量のゆっくりが殺到していた
その先頭にはドスまりさ
『むらの人間が仲間をさらったよ! 協定違反だよ!!』
「「「きょーてーいはんだよ!!!」」」
村の年長者である村長に詰め寄っていた
「待ってくれドスまりさよ。先ほど全員を調べたがこの村でそんな事実は無かった」
村長の後ろには村の男衆が待機しており、一触即発の状態だった

「おい、通してくれ!」
道を塞ぐゆっくりを潰さないよう気をつけながら押しのけて前に進む青年
「おさないでね! ゆっくりとおってね!」
「まりさをおすやつはだれなんだぜ! あやまるんだぜ!」
ようやく先頭まで抜け出し、村長とドスまりさの会話に割り込む
「すまない村長! 妹がゆっくりに襲われて発作を起こしたんだ! 薬を分けてくれ!!」
村長と呼ばれた老人はまるで偏頭痛を患ったように顔に手を当てる
「もしやと思ったがやはり貴様らだったか・・・」
落胆の表情から一変、憤怒の形相で青年を睨みつける
「そんなことはどうでもいい! 早く薬を・・」
「五月蝿い!!」
村長の後ろの男に頬を殴られた。青年はなぜ自分が殴られたのかわからなかったが
すぐに起き上がり村長にくらいつき同じ言葉を吐く、最も優先すべき事は薬である。周りの状況など目に入らなかった
「頼むよ、なんでもする! いつもより酷いんだ!」
今度は違う男に殴り倒される。そして別の男が背中に圧し掛かり青年の動きを封じた
青年を完全に拘束したのを確認して、村長がドスまりさの方を向く
「ドスまりさよ、ぬしらの仲間をさらったのはこいつだ。だがこいつはこの村の人間ではない」
『ゆっ!? そうなの?』
その場にいた村人が皆頷いた

ドスまりさはにとってそれは誤算だった、これでは越冬する食料が集められない
怒りの矛先は青年に向けられた
拘束される青年の前まで移動して見下す
『おにいさん。よくも仲間を攫ってくれたね!』
「違う! 攫ってなんかない、お前らの誤解だ! 事情はあとでじっくり説明してやる、だから離してくれ!! 時間が無いんだ!!」
『言い訳しないでね! 自由になりたいなら責任とって食べ物を持ってきてね!! 話はそれからだよ!」
取れるところから取らなくてはならない、そうしなければ飢え死にするのは自分達だ
「食うもんなんてもうない」
『嘘言わないでね! 人間はたくさん食料を持ってるの知ってるんだよ!』
「それは村の連中だけだ。村八分の俺達にはない」
『ゆぅ~~~~~~~~~~~~~~~~』
青年から絞り取れるものはないと分かったドスまりさは困り果てた
群れのために、転んでもただで起き上がるわけにはいかなかった。よって最後の手段を講じることにした
青年に圧し掛かる村の男に退くように促す
『ゆっくり反省してね!!』
至近距離でドスまりさの体当たりを受けた青年は5mほど吹き飛ばされて転がった
「ぅ・・・・ぐ・・・ぁ・・」
吹き飛ばしてすぐに村人全員を見る
『いいね! 協定を破るとみんなこうなるからね!!』
青年を見せしめに使うことで、村人に圧力をかけることにした。これで村人は今後も協定を破棄することはないだろうとドスまりさは考えた
『みんなかえるよ!!』
ドスまりさの号令で全員が振り向き、巣へと進んでいった
「まて・・」
小さな声だったが、ドスまりさにははっきり聞こえた
『ゆ?」
青年がうつ伏せのまま尋ねる。眼球が小さく痙攣していた
「俺の家を襲ったのはおまえの指示か?」
「ゆ? そうだよ。でも悪いのは子供をさらったおにいさんたちだからね!」
それだけ言うとドスまりさは向き直り、群れの先頭まで移動した


ゆっくりたちが見えなくなりようやく体の痛みが和らぎはじめていた
早く薬を得るために青年は起き上がる
だが、村長たちがその道を塞いだ
「おぬし、どのツラ下げて村にきた」
怒気をはっきりと感じる低い声だった。誤解を解かなかれば薬は得られないと理解して、慌てて説明する
「違うんだ。妹は親からはぐれたゆっくりを保護しただけなんだ」
だが血気盛んな若い衆にとってその事実はどうせもよかった
「それがどうした! おめぇんトコの胸の腐った餓鬼が余計なことをしたせいで、危うく村に被害が出るところだったんだぞ!!」
「ッッッ!!!」
その男を殴り殺したい衝動に駆られるが、割れるほど強く奥歯を噛み締めてそれをなんとか堪える
ここで手を出したら薬は手に入らないため必死に耐えた
妹が苦しみ続けている現状で、薬を得ることのできない自分の不甲斐無さが一番許せなかった



その頃の青年の家
「うん・・・だいぶ楽になってきた・・・・・・」
ようやく発作がおさまり妹の呼吸は安定していた
「こんなに苦しくないの何年ぶりだろう・・・・・・・・」
先ほどから押し寄せる大きな睡魔と闘いながら兄の帰りを待つ
「にぃちゃん遅いな・・・・・・」
一番会いたい時、傍にいてくれないことを残念に思いながら妹は静かに目を閉じた



青年に対する罵詈雑言はまだ続いていた
いつものように頭を下げて全員の怒りが鎮まるのを待つ。心の中では延々と呪詛を吐き続けていた
「もうそのへんでいいだろう」
青年が顔を上げると、昨日の夕方に診療所で会った男が横から輪に入り込んでいた
村の中で一番体躯の大きいこの男は村長の孫で、やや堅物ではあったが、その実直な人柄で村民から好かれて頼りにされている存在だった
「なんじゃ? いくらお前らが昔のよしみだからといって甘い顔は出来ぬぞ」
「今回のは向こうの勘違いで村に事実上被害は無い。これ以上はただの八つ当たりだ」
そう言って青年に紙の包みを渡す。目的の物だった
「ほら。早く行ってやれ」
「あんちゃん、すまねぇ・・・・・みんなもほんとうにすまねぇ・・・・・・」
なるべく感情を込めてそう言うと青年は一目散に家を目指した
所々陰口が聞こえてきたが全く気にならなかった


空は暗くなり何度も躓き転びながら山道を行く
村で受けた暴力で体中が悲鳴を上げていても関係なかった
一秒でも早く妹に薬を届けたかった


倒されたままの戸を乱暴に踏みつけて泥だけなのも気にせず小屋に入る
「すまないっ! 遅くなっ・・・・・・・・て、もう寝てらぁ」
布団の中で妹が仰向けになって寝ていた。いつもどおりの姿勢だった
「そりゃあ、こんなけ遅くなったら待ちくたびれて寝ちまうよな」
妹のすぐ隣に腰を下ろし胡坐をかく
顔にまだ餡子がついていたので落としてやる。乾いた泥のようにぱりぱりと離れた
ついでにボサボサの髪も綺麗に洗ってやりたかったがそれは出来そうになかった
布団には入らず、ごろりと床の上で横になり妹と目線を合わせる
「ごめんな・・・・」
ゆっくりたちにより荒らされた小屋の中
家具は全て倒され、囲炉裏の灰はそこら中にぶちまけられていた
薬を貰うためとはいえ、こんな酷いところに妹を一人残してしまったことを後悔した
村に行く前、妹に掴まれた袖にはまだ温もりが残っているような気がした
今頃は村の人間、ゆっくりたちも家族と食卓を囲い団欒の時は過ごしているのだろう
自分たちも夕飯にしようと思ったが、なけなしの食べ物はゆっくりたちが部屋を荒らした際に駄目になっていた
残念なことに兄妹が今日食べる分はこの小屋にはなかった
「・・・・・・・」
ぼんやりと土色の肌の横顔を眺める
思えば苦労させてばかりだった
不甲斐無い兄に文句も言わず、いつも笑顔を向けてくれた
それに何度救われて元気をもらったかわからない
「春になったらさ、ここを離れて、新しい土地に行こうな・・・・・・・たぶん、そこならきっと誰にもいじめられないから」
隙間風にさらされて冷たくなった髪を、梳かすように何度も撫でた









翌日。昼時に青年が「あんちゃん」と呼んでいた男が訪ねてきた
「昨日は大変だったな」
「ああ、昨日はありがとう。上がってよ」
家の中に通されて男はあることに気づいた
囲炉裏の向こうには汚い布団だけがあり、その中に居るべき人間がいなかった
「あの子は?」
青年は無言で外を指さした
「なんだ、散歩か」
「・・・・・」
青年は膝を抱え、終始俯いたままだった
男はぞうりを履き直して表へ出て、青年が指さしたところを見た

墓石が三つになっていた

「昨日、帰ってきた時にはもう遅かったよ・・・・・・ついさっき埋めた」
定まらぬ視線のまま青年は説明する。彼の目は充血しているのに男は今気が付いた
「そうか・・・」
男は花の添えられた墓の前で手を合わせた
誰にも見取られずにひっそりと亡くなった少女を思うと胸が締め付け荒れた
それは長い長い合掌だった
合掌を終えて立ち上がる

村八分になる前までこの自分より少し年上の男と兄妹は幼いころからつるんで遊んでいた
青年は男を「あん(兄)ちゃん」と呼び慕っていた。二人は兄弟のように仲が良かった
しかしそれはもう昔の話

「いくつだったんだ?」
「こないだ十四になったばかりだ・・・・・・・・まだこれからだってのに・・・」
青年は力いっぱい唇を噛み締める。皮が切れて血の玉が生まれ、線となり顎に滴った
薬が切れたこと、ゆっくりたちの勘違い。越冬前という皆が神経質になる時期に起きた悲劇だった
「自分を責めるな。不幸な偶然が重なったんだ」
青年は俯いたまま顔をかぶり振った
「助かる命だった、病だって治る見込みはあった。ゆっくりやお前らが邪魔しなければ春には元気になっていた・・・」
脳裏に浮かぶのは元気に走り回る妹の姿
春になり病気が治ったらここを離れて新しい土地で生きていこうと決めていた
少なくとも今よりは確実に良い暮らしができる
そのときは腹いっぱいになるまで食べて、時間を忘れて遊びまわって
今までつらい思いをした分、幸せになってもらいたかった
「あの子は冬を越せる体じゃなかった、遅かれ早かれこうなる運命だった。暖かいうちに逝けたのがせめてもの救いだ」
その言葉が青年の妄想を砕いた
「てめぇ!」
怒りに任せて男の胸倉に掴みかかる
「村に戻って来い。爺さんには俺から取り成してやる。今、村には少しでも人手が必要なんだ」
「ふざけるな!!」
青年の拳が男の顔面を捉えていた
殴られて、しかし男は痛そうな素振り一つ見せない
再び拳を男の顔面を打ち付けるが男は微動だにしなかった
男は気にせず話を続ける
「病で家族を失ったやつだって村に大勢いる。現に俺の親父も病で死んだ。不幸なのは何もお前だけじゃない」
「黙れ!!」
鳩尾に打ち込んでも男の表情は変わらなかった。男が頑丈なのではなく自分の拳に力が無いのを青年は気づけない
「大方ほとんどの飯をあの子に食わせてたんだろう? 自分はろくに食事も取らずに」
男の腕一振りで青年は地面に叩きつけられた
一度倒れると今まで蓄積した疲労が一気に押し寄せてきて、立ち上がることができなかった
妹を守るという義務感だけがカラッポの体を支え満たしていた。今まで働けていたほうがおかしいくらいだった
「あれだけ冷たくしておいて戻れなんて、ムシが良すぎるとは思っている。だがあの子のことを思うなら来るべきだ」
忌々しく男を睨みつけて青年は首を振りその申し出を頑なに拒んだ
「お前の考えは大体わかる、復讐しようとしているのだろう。ゆっくり共に」
「当たり前だ。あいつらのせいで妹は死んだ、お前らだって同罪だ」
「お前一人で何ができる? 上手くいきっこない」
「俺が餓鬼の頃、読み書きや将棋、碁の打ち方を覚えるのが同年代じゃ一番早かったの覚えてるか?」
「昔の話だ、村にはお前より賢いやつなんて大勢いる。仮に復讐を達成したとしてもあの子は決して喜ばない」
「・・・・・・」
青年は黙るしかなかった
「明日また返事を聞きに来る、それまでに頭を冷やしてよく考えておけ。あの子の死を無駄にしたくなかったら村に戻れ」
墓の前で青年は一人取り残された




夜、青年は荒らされた家の中を片付けていた
床を箒で掃き終えて一息つく
「よし、これで少しは綺麗になっただろ」
部屋の天井には高い位置にロープがぶら下がっており、その先には首が通せる大きさの輪が作られていた
箒を置き台座にのぼり首に輪をかける
「最後くらい、綺麗にしないとな・・・・」
逆恨みだと思われても妹の無念を晴らしたかった。だが、そんな気も男の言葉でとうに失せた
復讐など不毛だと始めからわかっていた、妹もそれを望んでいないことも
だからといって村に戻る気もない
家族のいないこの世にもう未練はなかった
目を閉じて、青年は足元の台座を蹴飛ばした





青年は気が付くと川辺にいた
「おや。こんな若者が自殺するとは世知辛い世の中になったものだねえ」
声を掛けられたほうを見ると小船に乗った女性がいた
「中有の道も通らずの人型のままここにいるってことは、あんた死に損なったね、いやっ御目出度い御目出度い♪」
イマイチ女性の言っていることが分からないため尋ねた
「あなたは? それにここは・・・」
「ここは三途の川。死者の魂が集まる所さ」
その言葉で青年は自分が小屋で首を吊ったことを思い出した
死の世界があるという事実に不思議と驚きはしなかった。きっとこれは自分が死ぬ前に見ている夢なのだと思った
「あなたが船頭?」
「いかにもあたいが三途の水先案内人の死神だよ」
それを知り、ぜひ訊いてみたいことがあった
「昨日、女の子を運ばませんでしたか? 歳は俺より下の」
死神の女性は顎に手を当てて考え唸る。ふいに目を開けて指を立てた
「ああ、いたね。持ち金があんまりにも少ないから驚いたよ。まあ霊魂には口が無いからどんな人生だったかまでは聞けなかったけど」
「そうですか・・・」
妹の魂が無事に渡れたことに安堵した。きっと楽土へ行けるに違いない
「・・・・・・・可哀想だがあの子は地獄に行くだろうね」
「え?」
思いもしなかったその言葉に彼の思考が一瞬停止する
「あたいもこの仕事長いからね。魂見ただけで大まかなことはわかっちまうだよ・・・・おっと余計なことをいっちまったね・・・」
「あいつは罪など何一つ犯していない!!」
夢にしては余りにも笑えない冗談だった、気づけば女性に掴みかかっていた
掴まれえいることも気にせず女性は説明する
「いいかい、深い怨恨を抱いたまま死んだ者は例え罪がなくても、重すぎて天国へは昇れないのさ。気の毒だがそれが決まりだ」

『にぃちゃんって恨んでる人いる?』

以前そう訊かれたのを思い出した
あの言葉は自分は誰かを恨んでいるという意思表示だった、妹も自分同様にだれかを恨んでいた
それはきっと村人、ゆっくり、両親、親戚.....恐らくは不甲斐無い兄も。そして何より他人に迷惑をかけてしか生きていけない自分自身を
青年は崩れ落ちるように地面に膝をついた。様々な言葉が頭の中を駆け巡る
「まあ、一番刑の軽い所に連れて行かれて。そこで50年くらい耐えれば転生を許されるのがせめてもの救いだね・・・・・」
女性が何か言っているがまったく耳に入ってこない
瞳孔が開いたままの虚ろな目で青年は対岸を眺める。霞がかって向こう岸は見えなかった
せめて、こちら側では幸せになって欲しかった
病で苦しみ続け。ここ数年腹いっぱい飯を食ったことも、綺麗な着物を着たことだって無かった
村八分にされてから、自分が家にいない時はいつも一人ぼっちで過ごしていた
ゆっくりのつまらない事情で死んでしまい、そしてその行き先が地獄という理不尽さを嘆いた
もう少し穏やかに死を迎えることができたら、行き先は変わっていたのかもしれないという事実が堪らなく悔しかった

「ほら、臨死体験は終わりだよ。今度はしっかり善行積んでからこっちに来な」
その言葉の後、青年の感覚は光の中に薄れていった




目を覚ますと青年は天井を仰いでいた
ロープをかけたはずの天井は割れており、そのロープの先は自分のすぐ隣に落ちていた
どうやら天井が自重に耐えられなかったようだ
首吊り自殺は失敗したのだと理解した
瞬きをすると視界が霞んだ、自分が泣いていることに気づいた
気を失っている間に何か夢を見たような気がするが今はもう思い出せない
しかしその夢は、彼に小さな変化をもたらした
一度は消えたはずのドス黒い感情が再び胸の奥底で燻りだしていた。それが強い義務感となり彼の心の真ん中に居座った
「お前の恨み、にぃちゃんが代わりに晴らしてやるからな」
自然と口にしたその言葉。それが彼に活力を与え突き動かした

翌朝。男が返事を聞くために青年の家に訪れたがそこに青年の姿は無かった
もう青年がその家に戻ってくることは無かった





ある日
村の杣師(きこり)が二人、家屋の補強になりそうな材を探して林道を歩いていた
「おい、あれ」
一人があるものに気づき指をさした
そこにはあの青年がいた
「なんで一心不乱に穴掘ってんだ?」
青年はクワを使い小さな穴を道のいたるところに量産していた
「妹が死んでおかしくなったんだ、関わったらなにされっかわかんねぇ。迂回すっぞ」
「んだな」
二人は道を変更した
青年は穴を掘り終えると今度は薪を割って細くしてナタでその先を削り始めた

またある日
別の杣師達が、山で作業するための道具が入っている小屋の倉庫に入ると、道具の位置に違和感を覚えた
「なあ。獣除けの有刺鉄線が一巻分なくなってるんだが。だれか知らないか?」
「この時期そんなもん使う奴はいないだろ。数え間違えてないか?」
「んだよ、だからあれほど帳簿をつけろと俺は言ったんだ。川原んとこの獣脂保管庫の壷もまだ数えてないんじゃないか?」
「今更数えたって遅ぇよ。油なんてこの冬で一気に使いきっちまうんだから」
山小屋の装備がいくつか無くなっていたが、だれも特に気にとめていなかった








青年が村長の孫の前から姿を消して一週間が経とうとしていた
その時、ゆっくりの巣には数組の家族しかおらず、ほとんどが餌集めに出払っていた
洞窟の奥にはドスまりさしかいない
ドスまりさは冬篭りの食料のことで頭を抱えていた
『ゆゆぅ~~~どうしよう・・・・』
昼夜を問わずみな餌集めを頑張ってくれていたが、どう見積もっても足りそうになかった
痩せたこの土地では思うように食料が集まらなかった
村に食べ物を分けてもらおうかと考えあぐねていた時、一匹のゆっくりがやってきた
「どす! にんげんがどすにようがあるってここにきたよ!」
『ゆ。わかったよ、通してあげてね』
丁度いいと思った。食料について交渉する良い機会だった。向こうが厳しい条件を出してきても呑むつもりだった
だが、やって来たのは村の人間ではなかった
『おにいさん?』
その青年には見覚えがあった。一週間前に仲間を攫った連中の一味だとドスまりさは記憶していた
青年は懐かしそうにあたりを見回す
「実はここ、俺達が子供の時に秘密基地として使っていたんだ」
『ゆ? そうなの・・・・・・・じゃなくて何のよう? 用が無いならさっさと出ていってね!』
見たところ手ぶらで何も持っていないのでドスまりさは青年と会話するのは時間の無駄だと判断した
「そう邪険するな、用が済んだらすぐに出て行く」
青年はすり鉢状の中にある手ごろな窪みを見つけてそこに腰掛ける
「まず、この前のことから話そうか」

ドスまりさに以前の誘拐の件が誤解であることを説明した。そして妹が死んだこととその理由も

「お前がちゃんと誘拐の事実の確認を取ってから行動してくれていれば、こんなことにはならなかった」
『まりさたちは悪くないよ! 勝手に連れて行ったのは事実だよ! かわいそうだとは思うけど自業自得だよ! 変な言いがかりはやめてね!」
「そうだな、悪いのはゆっくりだけじゃない・・・・・・・“お前ら”と“村の連中”が妹を殺した」
『ゆっ!?』
青年の目が険しくなる。威圧するような眼光にドスまりさがたじろぐ
「本当はな、お前らを何匹か殺してから村の畑を荒らして、お前らがやったように見せかけて疑心暗鬼に追いやり共倒れさせてやろうと考えていたんだ」
悪びれる様子もなく青年は告白した
「でも、それじゃあ意味が無い。それだと妹の供養にならない。全ての元凶であるお前が何も知らないまま全部が終わってしまう」
『 ? 』
「お前は知っておく必要がある。これからお前達に降りかかる災難はすべて俺の妹からの恨みだということを」
ドスまりさには青年の言いたいことが全く見えてこない

「分かりやすく言ってやる。今日は宣戦布告しに来た、お前のせいでこれから仲間が大勢死ぬことを伝えに」

その言葉で理解した。この青年は妹の仇を討ちに来たのだと
青年は妹が死ぬ直接の原因を作った自分を恨んでいる、そのための復讐をするのだと
『みんなに手を出すのは許さないよ!!』
この青年を生きて返す訳にはいかなかった
青年は懐から怯えた赤ん坊のゆっくりを2匹を取り出した。ここに来る前に親から取り上げたものだった
「今俺を見逃してくれたらこいつらは無事に返してやる」
それは立派な人質だった。ここで青年を潰すのは簡単だが2匹も巻き込まれて死ぬ
『ゆ゛ぅ~~~~~~』
「別に殺してくれてもかまわない、こっちは2人死んで、そっちは2匹失って終わる。公平でいいじゃないか?」
ここで青年を殺さなければ、大勢の仲間が死ぬことになるかもしれない
そう思った時、赤ん坊の目がドスまりさを真摯に見つめているのに気が付いた
ドスまりさが自分達を見捨てるわけがないと信じきっている目だった
その無垢な目に魅入られてドスまりさは判断を鈍らせた
結局ドスまりさは人間に対して非情になることは出来ても、仲間に対して非情になることはできなかった
青年は緩やかな歩幅でドスまりさから離れて距離を取る
来た道を戻ると洞窟に居残っていたゆっくりたちと目が合う。数家族といっても相当な数だった
「ほら約束通り返してやる」
赤ん坊を親と思わしきゆっくりの夫婦に渡す
他のゆっくりたちは人間に対する恐怖で動くことができなかった


青年が巣を出ると空はすでに暗くなっていた
振り向いてみると、巣の入り口に見張りのゆっくりは一匹もいなかった
皆怖くなってドスまりさのところに集まり、今後のことを相談をしているのだろう
見張りのいない今が絶好の機会だった。自分が宣戦布告をした直後にこうなることを密かに期待していた
洞窟のすぐ近くの茂みに隠しておいた有刺鉄線と大きめの杭、大きめの木槌を取り出す
青年はそれらを担いで再び巣の入り口に走った

巣の入り口の両側近くに杭を立てて、木槌で地面に深く突き刺す
急いでその杭と杭の間に有刺鉄線を往復させる
トゲが指に刺さり血が出たが気にせず続けた
仕上げに鎹(かすがい)を打ち込み鉄線がズレないように固定する
ここまで10分とかからなかった

外から聞こえる不審な音に反応してドスまりさたちが駆けつけた時に“それ”はもう完成していた。
巣の入り口の横幅は2m強、それだけの長さだったため短時間でできた
有刺鉄線のバリケード。ようするに畑の獣避けに使うものとまったく同じものである
違う点を上げるとしたら、それより若干高く作られていたこと

「「「「な゛に゛ご゛れ゛ぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」

ゆっくりは皆、目を剥いた
洞窟の入り口に外の世界との関わりを絶つように、有刺鉄線が張り巡らさせて通れなくなっていた
体の小さな子供なら下を潜れて出られるものの、成体は潜ることも飛び越えることできなかった
当然巣の入り口とあまり差の無いドスまりさはどう体を捻っても外に出られそうになかった
トゲを恐れずドスまりさは鉄線に体当たりしたが、道が狭く十分な助走が得られないため本調子が出せず、無意味に体を傷つけただけだった
そしてなによりそれだけ杭は頑丈に打ちつけられていた
巣にいたほとんどのゆっくりが自分たちは巣に閉じ込められたことを自覚した

『おにいさん! まりさたちをどうするつもり!?』

答えず青年は入り口のすぐ隣に腰を下ろした
手にはどこにでもある長い棒が一本だけ握られていた


一週間準備したとはいえ、一人で出来ることなんて、たかが知れている
この地域のゆっくりを全て根絶やしに出来るなんて思っていない
すぐにでもこのことは村に露見してしまうだろう
復讐に使える日は長く見積もっても3日が限界だと青年は思った

どんな結末を迎えてもかまわなかった
ただ妹の苦しみの何万分の一でもいいから教えたかった


孤独な復讐が今はじまった


>>後編へ
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