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木質の偽造ペレット工場

東方の二次創作SSです。いぢめ・グロ注意

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歩け! イヌバシリさん vol.2

歩け! イヌバシリさんの二作目



犬走椛:哨戒が任務の白狼天狗。天狗社会では下っ端。でも、ふてぶてしい。

射命丸文:新聞記者の鴉天狗、幻想郷で顔が広い。椛に好意を抱いている。

姫海棠はたて:最近まで引き篭もっていた。現在は椛が新聞作りを手伝ってくれている。

河城にとり:河童。椛の将棋友達。エンジニア。

大天狗:「お姉さん」と呼ぶと「イヤミかッ!?」と言う。「おばさん」と呼ぶと「まだピチピチだしッ!」と言う面倒くさいお年頃。
    椛とは古くからの付き合い。

天魔:見た目は子供。頭脳は老婆。


【 prologue 】


定期報告のために大天狗のいる詰め所までやってきた椛。

「以上が今週山を訪れた者たちです」
「相変わらず平和ね」
化粧に気合の入っている妙齢の女性は、椛が持ってきた書類を退屈そうに眺めていた。
「今度、イケメンな侵入者が来たら拉致ってここまでデリバリーしてね」
「嫌ですよ面倒くさい」
書類の内容全てに目を通した大天狗は、印鑑を押して椛に返す。
「では、私はこれにて」
「あ、そうだモミちゃん」
「はい」
書類を懐に仕舞い帰ろうとする椛を大天狗は呼び止めた。
「今度ね。天狗一武道会を開こうと思うの」
「なんでまた?」
「天狗として生まれたからには『最強』の称号に憧れるものでしょう?」
「ちなみに優勝したら何が貰えるんですか?」
「私」

大天狗は自分自身を指差した。

「えーと。優勝したら天狗様の地位が手に入るってことですか?」
「そうじゃなくて。優勝したら私をお嫁にできます」
「仰っている意味がよく分かりません」
「これ以上の分かりやすい説明は国語の先生でも無理よ」
「え?」
「え?」
見事にお互いの認識が食い違った瞬間であった。
「でもそうなると、大会には大天狗様と結婚したいと考えている者だけが参加することになりません?」
「必然的にそうなっちゃうわね」
「もし参加者ゼロだったら、心が折れない自信ってあります?」
「ちょっと無いかなー」
その光景を想像してしまったのか、大天狗は口に手を当てて神妙な顔をしだした。
「それじゃあ、お試しで3ヶ月だけ私を彼女に出来るっていうのは?」
大天狗は妥協した。
「まあハードルが下がった分、参加する者が増えるかもしれませんが、それでもまだ・・・」
「じゃあ洗剤やビール券とかも付けちゃう」
「なんか新聞の勧誘みたいになってますよ」

自棄になっているような気がして椛は心配になってきた。









天魔の屋敷。
「しんぶーん、新聞いりませんかー?」
「腹から声を出せとは言わんが、もう少しボリュームを上げられぬか?」

童女の姿でありながら貫禄ある雰囲気を醸し出す天魔。はたては彼女から新聞勧誘の手ほどきを受けていた。
ここ最近、天魔は暇を見つけてははたてに指導を施している。

「あとそれとですね。胸元のボタンは最低三つ目まで外しましょう。お客に谷間が見えるように」
「文は黙っとれ。良いかはたて? 新聞を売り込む際に気を配るべきは・・・」
「私谷間とか出来ない」
「あややや、心配ご無用。谷間が無ければ鎖骨を協調するのです。ちなみに相手が閉めようとするドアに足を挟む時は、ふとももを見せ付けるのがポイントです」
天魔そっちのけで話す二人。
「私語は慎め! そして文! お主は向うへ行っておれ! はたての邪魔をするでない!」

このように、付き添いで来た文が天魔の指導に茶々を入れるのが毎回の恒例になっていた。

「よし、しばし休憩じゃ」
「はい」

小休止を取る天満に文は小声で話しかける。

「どうですかね、最近のはたては?」
「よい傾向じゃぞ。このままいけば引き篭もる前の、普通に他者と接しておった頃の感覚を取り戻す日も近いじゃろうて」
迷わず太鼓判を押した。
「今日で新聞勧誘の基本は教えた。そろそろ軽い実戦をさせたいのう」
「誰が適任ですかね?」
「ふむ・・・・大天狗殿などどうか? 最初に大天狗殿を相手にしておけば、後が誰でも臆せぬじゃろうて」
「荒療治すぎませんか? 大天狗様っていったら新聞勧誘の断り方がダントツでキツイお方じゃないですか」
「案ずるな、大天狗殿は相手を見て強弱を変えられる器用な御仁じゃ。はたて相手なら多少の手心も加えてくれるであろうて」

そう決まり、三人は大天狗がいる詰め所まで向かった。





大天狗の詰め所。
「よし、それじゃあ早速大会運営委員会を立ち上げるわよ」
「本当にやるんですか?」
行き遅れになるのを焦る大天狗は、いまだ天狗一武道会の開催を諦めていなかった。
「そもそも優勝するのが男の天狗とは限りませんよ? 女の天狗が優勝したらどうするんですか?」
「あれ? モミちゃん、それって遠まわしに告白してる?」
「してません。どんな翻訳したらそう聞こえるんですか?」
大天狗はまんざらでも無いという表情をしていたので、ちょっと引いた。
そんな時。
「お話中失礼します、鴉天狗の者が謁見を希望しております」
襖の向こう。部下の天狗からの報告が届いた。
「誰かしら? まあいいや。入ってもらって」
「では私はしばらく、庭でも散歩してますね」
「うん、悪いね」

椛が部屋を出て、少し間を置いてからその者はやってきた。

「お、お邪魔します」
たどたどしい手で来訪者は襖を開ける。
「えーと確か、はたてちゃんだっけ?」
最近、脱引き篭もりをした者がいるということで彼女の顔と名前は記憶していた。
椛が新聞作りをサポートしているのも知っている。
「そんなに緊張しなくてもいいから楽にして。肩の力も抜いて」
はたての緊張の具合が手に取るように伝わってきた。

「それで、何の用かしら?」
「その・・・・わ、私最近、し、新聞作りを再開しまして・・・その、大天狗様にも一部読んでいただけたらと・・・」
鏡の前で何度も練習してきた言葉だったが、いざ実戦のなると思うように口が動いてくれなかった。
(なんでこの子が、わざわざ私のところに?)
大天狗が疑問に感じたその時。襖が僅かに開いており、その隙間から誰かが覗いているのが見えた。
驚くことに射命丸文と天魔だった。
(ああ、そういうこと。この子の教育ね)
天魔の意図を察する。
「それじゃあはたてちゃんの新聞は何が読めるのかな? 私、他の天狗の新聞も結構読んでるから、他と違うところを教えて欲しいな」
手始めにセールスポイントを尋ねてみる。
「私の新聞、花果子念報は種族を問わず幅広い層に読んでもらえるよう、地域に根ざした情報、そして事実をより客観的かつ分かりやすく伝えることをモットーにしています。まず・・・」

他の鴉天狗に比べたら随分と拙いはたての宣伝。しかしその熱意にだけは、心の中で及第点を与えておいた。

(天魔ちゃんの考えるシナリオ的には、ここは断っておいたほうが良いんだろうなー)

その方が彼女にとって良い経験になる。天魔はそう思っているに違い無いと、長い付き合いから推察する。

(この子には悪いけど)

大天狗に読まれるのは一種の名誉という認識があるのか、勧誘にやってくる鴉天狗は多い。
しつこい者は容赦なく邪険にし手酷く追い払ってきた。
(できるだけ、ソフトに断ってあげましょう)
再び彼女が勧誘にやって来る日を楽しみに待つことにする。

「最近は、ブドウ畑の農家をレポートしました。今、私たち若い天狗の間では、ブドウがハイカラな食べ物と一目置かれており、カップルでも良く・・・」
「試しに一部もらおうかしら」
『若い』と『カップル』という言葉に脳みそが即反応した。
若者が書く新聞を読んだら若者の嗜好を理解できる。と、頭の中でもう一人の自分が囁いた。

襖の向こうでは、二人の天狗が盛大にずっこけていた。




「へー『ブドウ狩り女子力アップ! ライバルに差をつけちゃえ』・・・か、最近の子は変わった記事を書くのね」
はたてが去り、彼女が置いて行った花果子念報を読み進めて行く。

「終わりましたか?」
席を外していた椛が戻ってきた。
「モミちゃん、私天狗一武道会は変更しようと思うの」
「その方が賢明ですよ」
「でね、ブドウ狩りにするの。そこで新しい出会いを見つけるわ」
「武道狩り!?」

道場を片っ端から周り、自分好みの屈強な男を捜し求める破天荒な大天狗の姿を、椛は脳内で想像していた。









【 episode.1 震える山(前編) 】

哨戒の途中で大天狗に呼びつけられた椛。

「明日、数百年ぶりに地底の鬼が山に遊びに来るのよ。酒を飲みに。だからモミちゃんも一緒に出・・・」
「大変ですね。欠席します」
大天狗が言い終わる前に即答した。
「ただで飲み食い出来るんだけど来ない? 美味しいものいっぱいだよ? 世界三大珍味って知ってる?」
「あ゛~~あ゛~~聞こえません」
椛は両手で左右の耳を塞ぐ。
そのまま立ち上がり、脇に置いてある自分の剣も盾も取らず大天狗に背中を向ける。
「特別業務手当ても出すよ。ケガしたら労災扱いするよ?」
「聞こえません聞こえません。どんな条件を提示されても私は欠席しま・・・・・ハギャアァッ!!」
逃げ帰ろうとする椛の尾を大天狗は鷲づかみにした。
「そう言わずにさぁ。みんな裏方希望で、鬼と一緒に飲みたいって志願兵がゼロなのよ」
「当然です。鬼なんて酔っ払うと生き物とサンドバッグの区別がつかないじゃないですか。顔なんて叩かれた日には、ちょっとしたプチ整形ですよ」
経験者は語る。

「ちなみに、一体どなたが来るんで?」
「星熊勇儀って覚えてる?」
「四天王じゃないですか。そりゃ誰だって嫌がりますよ」

かつて、妖怪の山は鬼が圧倒的な力の下で支配していた。
鬼は天狗にとって、上司にあたる存在である。

「今までずっと地底に潜ってたんじゃなかったんですか?」
「間欠泉の一件で、地上に出てくるようになったんだってさ」

鬼という種族は人間との真剣勝負が大好きで、気に入った人間を見つけると人間が用意したルールで戦おうとする。
そして、鬼が勝負に勝つとその人間を攫って行く。
当然人間が鬼に敵うわけなどなく結果など勝負を始める前から見えている。
だから人間は卑怯な手を使い、次々と鬼の数を減らしていった。
鬼はそんな人間達を永遠に見捨て人間の手の届かない場所に移り住むことを決めた。
支配者のいなくなった山を統治したのが天狗である。

「私が天寿を全うするまでは、地獄や地底でコキ使われてて欲しかったんですが」
「モミちゃんの鬼嫌いも相当ね」
「大天狗様だってそうでしょう?」

椛が幼い頃。その時期が最も妖怪の山が荒れていた。
礼節を知る鬼もいれば、傍若無人な鬼もいた。後者が椛たち天狗を大いに震え上がらせていた。

「私ぃ~そのころぉ、まだ生まれてないからぁ~、たまごっちブーム直撃世代だしぃ~~」
「何言ってるんですが。山の初期からいたくせに」
「年齢の話とか今はどうでも良いから」
会話が自分にとってよろしくない方向に流れているので、大天狗は話の軌道を修正した。
「とにかく参加して。モミちゃん以上に頼れる白狼天狗がいないのよ」
「嫌ですよ。いまだに『鬼』って単語を聞くだけで大昔に折られた頬骨が痛むんですから」

彼女が鬼達から受けてきた仕打ちは一日で言い尽くせないほどである。
星熊勇儀が悪鬼ではないというのは知っているが、酔った鬼は総じてタチが悪く、勇儀もその例に漏れず、多くの天狗が彼女から大小様々な被害をこうむった。

「当然雨天中止ですよね?」
「遠足じゃないんだから。しかも明日晴れの予報だよ」

「卑しい卑しい白狼天狗が参加するなんて恐れ多いので」
「そのままシンデレラガールになっちゃいなよ」

「親戚が危篤になる予定なので行けません」
「そんな物騒な理由で休もうとする子初めて見た」

それから先、椛は様々な理由を挙げて断り続けたが、最終的に『大天狗命令』が行使されたため、強制的に参加させられることになった。











時同じくして。
天魔の屋敷に呼び出された文とはたて。
「お主らに『良い知らせ』と『悪い知らせ』がある。どちらから聞きたい?」
その言い回しに一抹の不安を覚える文。その表情から、はたても雲行きが怪しいことを感じ取る。
数秒の目配せの後、代表として文が口を開いた。
「では、とりあえず良い方から」
「明日の夜、儂の家で宴会を開く。会費は取らん。どうする?」
「どうせ暇ですから参加します。新聞もひと段落しましたし」
「文が参加するなら・・・・・・私も」
「ふむ、参加じゃな。ならばここに名前書いてくれ。正確な人数を把握したいのでな」
天魔は帳簿を出して名前を記入させる。
「それで悪い知らせというのは?」
はたてが書き終えるのを確認してから文は尋ねた。
今の文はそんな話より『悪い知らせ』というのが気がかりだった。
「その宴会にゲストとして鬼が来る。星熊勇儀殿じゃ」
「欠席します」
「文が欠席するなら・・・・・・私も」
「だが、もう参加すると書いたではあるまいか?」
帳簿はすでに彼女が使役するカラスが咥えて飛び去っていた。
「卑怯ですよ天魔様!」
「そもそも『悪い知らせ』のほうを文が先に尋ねてたらどうするつもりだったの?」
「知りたいか?」
天魔は口の両端が鋭く尖らせた。童女の顔にあるまじき、怖気を誘う笑みであった。
「いえ、やめておきます」
自分が誰を相手にしているのかを再認識する。妖怪の山の超古株、最も老獪な天狗。それが天魔である。
文とはたてはこれに従わざるをえなかった。







河城にとりの工房。
「ねえ椛。本当に勇儀様を闇討ちする気?」
「守ったら負けます。攻めましょう。だからお願いします」
「う、うん」

にとりが部屋の中央の畳を持ち上げ、底板を外す
「無縁塚で拾ったもの、自作したもの、色々あるよ」
「いつ見てもすごいですね」
鉄製の武器が無造作に放り込まれた空間に手を伸ばす
「なんですかコレ? 大天狗様の屋敷に飾ってある火縄銃に似てますが」
「それの改良版で一回引き金を引くと一秒間に十発も弾が発射されるんだよ」
「外の世界の人間はこんなの作って何に使うんでしょうか?」
「作りたいから作ったんじゃない? 私たち河童みたいに」
「だと良いのですが」

鉄屑を箱に戻し、腕を組んだ。

「私でも扱えそうなの無いですかね?」
「これなんて良さげかも」

にとりはパーツごとに分解されている部品を組み立てはじめた。
一分にも満たない時間でそれは完成した。
「ボウガンだよ。頑丈なわりに軽いから片手で撃てるよ」
「あ、これなら私でも使えそうです」

片手で持ち、壁や天井に向けて狙いを定めている時、ドアが乱暴に開いた

「河城にとりぃぁぁああ゛!!」

文がドアを蹴破り中に押入ってきた。そのままの勢いでにとりに急接近し、胸倉を掴み挙げる。

「あなたのせいでッ! あなたのせいでッ!」
「ど、どうしたの文!?」
身に覚えの無い怒りを向けられてにとりは困惑する。
「どうしたもこうしたもありません! あなたが勇儀さんにした不用意な発言で、私達の体がすり潰されてツクネにされるかもしれないんですよ!!」
かつてにとりは勇儀に対して『たまには山に遊びに来てください』という内容の言葉を掛けており、その言葉が今回の勇儀訪問の切っ掛けとなっていた
「だ、だってあの時はああ言うしかなかったし」
「それでも、言って良いことを悪いことくらい・・・・・危なッ!!」
自分の首筋に目掛けて飛んできた矢を、文は刺さる直前で掴んで止めた。
飛んで来た方向を見るとボウガンを構える椛と目が合った。椛がにこやかに笑ったので、文も笑みを返した。
「今、寸分の躊躇もなく撃ちませんでした?」
「暴発したんです。きっと文さんがにとりを虐めたから、彼女の道具が怒ったのでしょうね」
「そうですか、それなら仕方ありませんね。私の自業自得です」
椛が故意にしたことは明らかであったが、にとりに掴みかかった自分の非を認め、不問にすることにした。
「しかし本当に危なかったですよ? 矢の発射音が聞こえなければ、今頃は矢鴉天狗になってました」
「にとりー、これに消音機能つけられますかー?」
「何とか出来ると思うよ。バネを交換するだけだから」
「せめて私の聞いてないところでその会話してくれませんかね?」

『エフッ エフッ エフッ エフッ エフッ エフッ エフッ エフッ エフッ エフッ』

彼女らの会話に不自然な音が割り込んできた。

「なんですか、この音? まるで笑うのを必死に堪えているかのような息使いは?」
音源を探す。棚の上に置かれた奇妙な置物がブルブルと振動しながらその音を発していた。
「あ、山に鬼が近づくとアラームが鳴る『ドコデーモン君(旧名:オーガーカウンター)』に反応が」
「もっとマシなアラーム音は無かったんですか?」
にとりはその機械を手に取る。
「勇儀様はどの方向から来てるかわかりますか?」
「ちょっと待って」
椛に尋ねられ、にとりは機械についているダイヤルを回し始めた。
『邪ッ!』

「・・・・・南の方角だ」
「そういえばソッチに昔からある山道が通ってましたっけ。ていうか、その叫び声みたいなの、本当に何なんですか?」
「迎えに行くの?」

二人の会話を聞き、はたてはそう思った。

「いえ、『迎えに行く』というよりも『迎え撃つ』というのが正確ですかね」

麻袋に工房にある武器を詰め込むと、それを椛は担いだ。

「先ほどの会話から察するに、文さんとはたてさんも、宴会に徴兵させられたんですか?」
「ということは椛さんも?」
「ええ。ですから一緒にやりませんか?」
「何をです?」
「鬼退治を」












山道を見下ろせる崖の上を椛達は陣取っていた。

「居ました。勇儀様です」

椛の千里眼が睨む先に鬼の姿があった。

「本当にやるんですか椛さん?」
「そう言う文さんだって、ノリノリで手伝ってくれたじゃないですか」
「それはそうですが」

大量の岩や丸太がロープで固定され、ダムのように堰き止められている。
勇儀が通った時にこれらを落下させる算段だった。

「大丈夫かな、こんなことして?」
はたては心配でならなかった。
「岩は採掘所の邪魔な石を、丸太は全て間伐材を使っています。とってもエコです」
真顔でそう返答する椛。
「そういう問題じゃなくて」
「大丈夫ですよはたて。鬼なんて殺す気でやって、ようやく打撲程度の傷を負わせられるんですから」
文がそうフォローを入れた。









崖の上で椛たちが画策している頃、勇儀は昔を懐かしみながら山道を歩いていた。

「お、これは」
途中、道端に咲く一輪の黄色い花が目に付いて勇儀は足を止めた。
「そういえば、昔もここに同じ色の花が咲いてたっけ。お前さんはその子孫かい?」
しゃがみこんでもなお、自分の膝よりも低い位置で咲く花に話しかける。
「お前さんを攫って地底のみんなへの土産にしたいが、お前さんのそのナリじゃ勝負は出来そうにないね」





「なにか、花の前でぶつぶつ喋ってるよ」
双眼鏡を覗くにとりが勇儀の行動を報告する。
「ダンシングフラワーかなんかと勘違いしてるんじゃないですか? 地底に花はありませんから」
「引き篭もってる間、アロエに話しかけてた私みたい」
にとり、文、はたてが会話をしてる時、椛はすでに岩石と丸太を堰き止めているロープの前に移動していた。
「いいですか? 鬼を殺すとは考えていけません。ただちょっと危険なアトラクションを楽しんでもらおうという気持ちでやりましょう」
抜刀し、いつでもロープを斬れる体勢に入る。
「にとり、文さんに例のものを」
「わかった。文、これを」
にとりが文に麻袋の中の武器を一つ渡す。
「これって外の世界のモノじゃないですか」
「ロケットランチャーっていうんだ」
「落石だけで鬼をどうにかできるとは思いませんからね。落石後、全員で駄目押しの一発を」
椛は徹底的に叩くつもりでいた。
「急いで組み立てたから部品が何個か余ったけど、気にせず使って」
「いやいやいやいやいや!」

渡された近代兵器を突き返した。




下を見ると、いまだに花に話しかけている勇儀の姿があった。
「そろそろ行きますよ!」
それを好機と見た椛は剣を一閃。岩と丸太を止めていたロープの堰を切った。





「ん? なんだなんだ?」
上の方からする騒音に気付き、勇儀は顔を上げた。
「うわっ、よりにもよってこのタイミングで落石!」
結構な量の岩と倒木が転がってくるが鬼の瞬発力ならなんとか回避できるものであった。
しかし、勇儀はその場から動かず、今まで語りかけていた花を見た。

「ここで会ったのも何かの縁だ」

名も知らぬ花にそう告げて、足を前に踏み出す。

「一歩」

腰を落とし、握り拳を脇腹の位置で固定。

「二歩」

二歩目で完全に正拳突の構えを取る。

三歩目はまだ出さない

この時、勇儀の皮膚の一枚下では、全身の筋肉がフル稼働して激しい収縮運動を繰り返していた。
それにより膨大な熱量が彼女の体内で精製され、骨と筋を通して片腕に貯蔵される。
圧倒的な暴力の塊と化した腕。しかしまだそれは振るわれない。
さらに溜めて、溜めて、溜めて。まだまだ力の解放は許さない。自身に岩が直撃するその一瞬まで、極限まで拳を固め続ける。

腕の膨張が限界を迎えたのと、落石が勇儀の眼前までやって来たのは同時だった。
「三歩必殺」
永遠のような一瞬を経て三歩目を踏み込む。

インパクトの瞬間、腕に集まっていたエネルギーは拳の先に圧縮され放たれていた。







「地震?」
宴会の会場となる天魔の屋敷では、大勢の天狗たちが準備に取り掛かっていた。
そこの指揮を取っていた大天狗は僅かな揺れを感じて辺りを見回した。
しかし自分以外は普段どおりだったため、今感じた揺れは自分の勘違いなのだと思い、流した。
「大天狗殿、宴会に参加する者たちの姿が見えぬが、どこにいるかご存知か?」
天魔は文たちの姿が見えないことに気付き、尋ねた。
「あれ? まだ来てないの? じゃあ誰かに探させるわ」
「この状況で人数を割くのはもったいない。手の空いた儂が行こう」
昨日まで天魔はこの宴会に必要な物品の調達に動いていたため、この日は宴会が始まるまで暇を持て余していた。
「それじゃあお願いするけど良い?」
「構いませぬ」
「途中、知らないおじさんに『飴ちゃんあげる』って言われても付いて行ったら駄目だからね?」
「・・・・・」







天魔が四人を探しに出た頃、一同はにとりの家に戻ってきた。
「うう~~死ぬかと思った」
泥を頭から引っかぶった家主のにとりがドアを開ける。
「山の地形が変わりましたね。ワンパンチで地層まで抉ってましたよ」
あまりの実力差を見せ付けられて、完全に戦意喪失した椛。
「はい無理です! ムリムリムリムリカンムリカラス!!」
かつて鬼が山にいた頃の恐怖を思い出す文。
「勝てる気がしない」
ただただ諦観するはたて。

疲労困憊した全員は倒れるように床の上に横たわった。

「もう諦めて宴会に行くしかないですね。今のうちに遺書でも書きましょうか」

椛が冗談交じりそう言った時、文は身を起こした。

「椛さん、もしもこの中で一人宴会に出なくても良いと言われたらどうします?」
「それは夢見たいな話ですね」
「実は一つだけ、その夢を実現させられる方法があるんです」

そう言って文はにとりを見た。

「今夜の宴会に、にとりさんにも参加していただくっていうのはどうでしょう?」
「ひゅい? 私?」
「この宴会の内容をご存知ですか?」
今回、勇儀は少人数での宴会を希望していた。
山から長い時間離れていたため、山で高い地位の天魔と大天狗から妖怪の山の現状をじっくりと聞きたいと思ったからだ。
よって取り巻きの数はせいぜい三人で事足りた。
河童や山で暮らす神々などを交えての大規模な宴会は、そのあと催す予定になっている。
「つまり、私が出てば誰か一人欠席できるってコトだね」
「その通り」
「・・・・・わかった。ことの原因は私にあるんだし」
にとり自身、責任を感じており腹を括るのに時間はかからなかった。
「だからこれで決めよう」

にとりは拳を三人に向かい突き出した。

「ジャンケン! 私たち四人でジャンケンして勝った人が抜けられる」
にとりとて本音を言えば参加はしたくない。だからこのような勝負を提案した。
「いいでしょう」
「にとりに賛成です」
「負けない」

四人は固く握り締めた手を出す。
この時、椛とにとりが軽く目配せしていたのを、文とはたては見逃していた。

「「「「ジャンケン・・・ポン!」」」」

全員、リキみ過ぎてアンダースローになっていた。

「ぃよし!!」

文だけが歓喜した。彼女が二本指を立てているのに対し、他の者は手を開いていた。

「みなさんの尊い犠牲は無駄にしませんよ」
「いいえ、文さん。あなたの負けです」
「うん。文の負けだね」
勝利宣言した文に椛とにとりは首を振った。

「何を仰いますか私は『チョキ』、皆さんは『パー』。どう考えても私の勝ちでしょう?」
「『チョキ』ってなんですか?」
「もしかしてそのピースサインを『チョキ』っていうの?」
「へ?」
思いもしない言葉に文は目を丸くする。
「ジャンケンで『チョキ』なんて単語、聞いたことありますかにとり?」
椛は人差し指と中指を立てた手をにとりに見せて尋ねる。
「いや~無いね、河童のジャンケンは昔から『グー』と『パー』と『アクアカッター』だから」
にとりは胸の前で手を交差させるポーズを取る。
「でしょう? 私たち白狼天狗も『グー』と『パー』と『アクアカッター』です」
椛もにとりと同じポーズを取る。
二人の声は非情に白々しかった。

「つまりジャンケンに存在しない手を出したので、文さんの負けです」
「なんですか『アクアカッター』って!? 紙に勝つどころか、岩だって両断してるじゃないですか!!」

文はこの時、椛とにとりが自分をハメようとしていることに気付く。

「はたても何か言ってください! この二人、言ってる事おかしいですよね!?」
多数決の暴力に対抗するため、はたてを自分側に引き込んで二対ニにしようと試みる。
「・・・・・・」
だが彼女は申し訳無さそうに顔を背けるだけだった。
「ちょっと!! 遠くなんか見てないでこっちを見てください! 視力回復ですかこの元引き篭もり!!」
「・・・・・」

無言のはたてを見続けて文が折れた。

「わかりました。もうこれで決めましょう。ちょうど四人いますし」
文はコタツの上に麻雀牌を置いた
「ルールは半荘一回。一位の方が宴会を欠席できる。よござんすね?」
文が提案したそのルールに皆同意した。
そして対戦が始まった。






「御無礼」

はたては手牌を倒す。

「大吟醸泡盛。紅テングダケが2丁・・・・18000点」
「最初ははたてさんがですか」
「いきなり18000点とは」
「ムムム、やりますねはたて」
はたて以外の三人は苦い顔をする。


次の局。
「御無礼」
またはたてが牌を倒した。
「大江山酒池肉林。役満・・・・32000点」
「えええ!!」
「なんですかその手ッ!?」

「そういえば忘れてました」
文はしまったという顔をして眉間を押さえた。
「何をです?」
椛がその意味深な言葉の真意を尋ねる。
「この前、はたての携帯を見たんです。そしたら携帯の中に麻雀のゲームがありまして。対戦履歴を見たら、累積勝負数が“9999999”でカンストしてたんですよ」
引き篭もっている間、ずっとやり込み続けた結果だった。その間にはたてはとてつもない雀力を身に付けていた。

場ははたての独壇場だった。

「御無礼。流雛祟神。12000点」

「御無礼。秋静紅一色。18000点」

「御無礼。八百万神無月。ダブル役満」

高得点で和了り続ける彼女を誰も止められない。

「もう点数がありません」
「私も」
「手も足も出なかったよー」

あっという間に点棒ははたてに集中した。

「宴会を欠席する権利ははたて、あなたの物です」
ケチの付けようの無い圧勝。しかし、はたては牌を積み始めた。
「続行、倍プッシュよ。ルールは半荘一回のはず、まだ東3局」
「けれど、私たち三人は0点なわけで」
「これから5000点失うごとに服を一枚脱ぐ。5000点得るごとに服を着る」
「そ、そんな!?」
「まだまだ終わらせない、地獄の淵が見えるまで」

はたてはタバコを咥えて火をつける。

「ごほっ、ごほっ」
「吸えないから無理しないほうがいいですよ?」










にとりの家の前に一羽のカラスが降り立つ。
カラスの姿が陽炎のように歪み霞むと、その姿は童女に変わっていた。
「お邪魔するぞ」
天魔はドアを開ける。
「お主ら。そんなはしたない恰好で何をしておる?」
はたて以外全員、下着一枚だけの姿で卓を囲む光景に小首をかしげる。
「まあ大方、宴会の欠席枠を巡って麻雀で勝負しておったのだろう?」
「あう」
図星だった。
「お主ら脱衣麻雀までして宴会には出とうないのか?」
「ぼくたちー」
「私たちはー」
「宴会をー」
「欠席します」
「「「「欠席します」」」」
「何ゆえ卒業式風? しかし、相変わらず仲が良いのうお主らは。もういっそ四人とも出てはどうじゃ?」
「「「「嫌です」」」」
「決まりじゃな」
結局、天魔の力にねじ伏せられて四人とも宴会場に連行された。











【 episode.2 震える山(後編) 】

月が空の天辺まで昇った頃。

「ようやく寝てくれましたね」
四天王の一角。勇儀はゴザの上で大の字になって眠っていた。
「鬼が酔って寝てるところ、初めて見ましたよ」
文にとって前代未聞のことだった。
「一体何したらこうなるのですか?」
「途中からね。お酒が足りなくなったのよ、それでこれを代用したの」
大天狗の手には殺菌に使う消毒液のボトル。
「アルコール度数100%のエタノールを仕方無く。本当に仕方なく勇儀殿に飲ませ続けたんじゃ」
天魔が補足を入れた。宴会場の脇にはこれでもかという量の空ボトルが散乱していた。
「思いっきりワザとですね? 始めから消毒液を大量に飲ませる気だったんでしょう?」
天狗ですら数本飲めば致死量になるそれを、加減なしで飲ませ続ける。
重鎮二人のやり方にエゲツなさを感じた文は、そのまま思ったことを口に出した。
「鬼相手ならば、こちらも鬼畜になろうて」
「鬼は気分良く酔えて、私たちは無傷。みんな幸せ素敵な世界」
「その通り」
そう言って、大天狗と天魔はウンウンと力強く頷いた。

「あとは明日の朝に『昨日は楽しかったですね』って言って見送れば終わりね」
「皆の衆、大義であった。片付けは明日の昼からにする故、一旦は解散じゃ」
天魔が裏方全員に帰宅を許可した。片付けを明日に回したのは、折角寝た勇儀をいらぬ騒音で起こさないための配慮だった。
「お主らは勇儀殿を寝室まで運んで差し上げてくれ。それが終わったら帰っても良いぞ」
「私ら、広間のところで起きてるから、何かあったら呼んでちょうだい」
天魔と大天狗の二人は、そう言って屋敷の中に入っていた。


「それじゃ運びますか」
四人は勇儀を担架に乗せて持ち上げた。




玄関を潜り、寝室まで続く廊下の途中でそれは起こった。
「あっ!」
誰が悪かったというわけではない。
四人の息が乱れ、傾いた担架から勇儀の体が転がり落下する。
一切の受身を取らないで、勇儀の体は額から床に激突した。

「勇儀様、大丈夫ですか?」
文が彼女の脈を取りながら、耳を口元に近づける。勇儀の腕からは力強い脈拍を感じ、口から浅い寝息が聞こえ、安堵した。
「流石は鬼だ、なんともないです」
幸い、今の音は天魔たちに聞こえていないようだった。
「行きましょう、今度はもっと慎重に」
「うん了解・・・・ッて、なんだコレ?」
にとりは何か固い物を踏みつけたため、下を見た。
「つのだひろ」
「へ? 何がです?」
にとりの発言の意味がわからず、椛が聞き返した。
「ツノだ、拾った」

にとりが拾った物を全員が凝視する。そのまま視線を勇儀の額にシフトさせる。

「勇儀さんのだよね。これ」

勇儀の額にあった角が根元でボキリと折れていた。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃ!!」

天狗三人は発狂し、奇声を上げる。

「あややややや!! どうするんですかコレ!? 他の鬼に知られたら宣戦布告されますよ!」
頭を抱え、半狂乱になる文。
「もう腹を切って詫びるしか・・・」
愛刀を抜く椛。
「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ」
体育座りして俯き、ブツブツと同じ言葉を繰り返し続けるはたて。
「ストップ! みんなストップ!! 一旦、落ち着こう、はい深呼吸。それに勇儀様が起きちゃうよ!」

にとりがその場を治めようと努める

「はい、すーはーすーはーすーはー。みんな一緒に!」

にとりの深呼吸を三人は真似る。

「どう落ち着いた?」
「はい」
「ええ」
「大丈夫」
「よし、正気に戻ったところで現実に目を向けよう」
にとりは折れた角を出した。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃ!!」
(だめだコリャ)











なんとか勇儀を寝室まで運んだ。
「あの程度で折れるって、脆すぎませんか?」
「きっと消毒液以外にも何か飲まされたんですよ」
椛の疑問に文が回答する。

「接着剤でくっつくかなこれ?」
はたては角を元の位置に当ててみるが、自然治癒する気配は無い。
「そうだ!」
彼女のその行動を見たにとりはあることを思い出し、勢い良く立ち上がった。

「河童の秘薬! それならきっと治る!」
「そうです。その手がありました!」
椛と文は膝を叩く。
「秘薬って何?」
はたてだけ意味がわからず呆然とする
「最強の接着剤だよ。村長の家に行けばあるはず」
河童は、斬られた腕さえ元通りにくっつけることが出来る塗り薬を代々保有している



――――― 東方昔話1 河童の秘薬 ―――――

にとり「ねえ何で私の腕を斬ったの?」
妖夢 「あなたがイキナリ私のお尻触ってきたからじゃないですか」
にとり「そんな形の良いお尻してるほうが悪いでしょ!!」
妖夢 「なんで逆ギレするんですか?」
にとり「とにかく腕返してよ。体の構造上の問題でズームパンチが出来ないから」
妖夢 「まあ、正直斬ったのはやり過ぎたと思いますし、返します」
にとり「ありがとう~」
妖夢 「その薬は?」
にとり「これを塗るとね、腕だろうが足だろうが、構わずくっついちゃうんだよ。ホラ見て」
妖夢 「本当だ。腕が繋がってる」
にとり「残りはあげる」
妖夢 「え? いいんですか?」

――――― 東方昔話1 河童の秘薬 ―――――


「夜道は何があるかわかりません。はたて、一緒に行ってあげてください」
「わかった」
一縷の望みを手に、にとりとはたては河童の集落へ向かった。










二人を送り出した椛と文は、布団の中で寝息を立てる勇儀を見張るような目つきで眺めていた。

「綺麗な顔しているだろ。ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで・・・たいしたキズもないのに、ただ、ちょっと打ち所が悪かっただけで・・・」
「いや、生きてますから」
謎の台詞を喋り出した文の鎖骨あたりを、椛は手の甲でポンと叩いた。

「しかし。どうしましょうかこれ?」
折れた角を指先でクルクル回しながら椛はつぶやく
「河童の秘薬の効果を信じるしかありません」
「そうですね」

「う・・・・・ん」

二人が話している途中、勇儀は一度寝返りを打ってから体を起こした。二人は無意識のうちに身構えていた。
「あれ? 私、寝ちゃっ、て、た?」
まだ体に大量のアルコールが残っているのか、その目は虚ろで体も不安定に揺れている。
一度起こした体だったが、すぐまた布団に突っ伏した。

「・・・・・・」

寝ているのか起きているのかわからない目で、勇儀はある一点を凝視していた。
「 ? 」
それに気付いた文は勇儀の視線の先を追う。どうやら椛の袴を見ているようだった。
そして気付いた。

「も、椛さん」
「はい?」
「大きくなってますよ」
「え? ・・・・・あ」
指摘され、椛はハッとした

(しまった。隠してる角のせいで、袴に不自然な膨らみがっ!)

椛は勇儀が起き上がった際、持っていた角を慌てて袴の中に滑り込ませて隠した。
その時、乱雑に放り込んだものだから、袴の中で歪な膨らみが出来てしまっていた。
(不自然というか、なんか卑猥な形に・・・・このままだと色々マズイ)
隠しているのが自分の角だと知れたら、ほろ酔い気分の勇儀は一気にシラフに覚醒するだろう。
(なんとか誤魔化さないと、しかし一体どうやって・・・)
額に脂汗を滲ませながら考える
「もーみーじさんっ♪」
打開策を考えている最中、文が密着してきた。両肩を掴まれ、床に押し倒される。
服越しに、お互いの乳房が密着する。
「ココ♪ こんなに固くしちゃってどうしたんですかぁ♪」
文は左手で椛の袴の上をなぞり、隠している角をゆっくりと撫で上げる。
「勇儀様の寝顔に、興奮したんですか? すっごく美人ですもんね」
「や、違、そんなんじゃ・・・」
「じゃあ誰を見てこうなっちゃったんですか? もしかして私と一緒にいて? それは光栄ですね」
まつ毛が触れあう程の距離から文に凝視された椛は頬を紅潮させ、顔を背けた。
「ふふふ。可愛いですよ椛」
文の舌が椛の頬をねぶり、耳を甘噛みする。
「あ・・・・だめです、そんな」
「ココをこんなに固くして嫌がっても、説得力ありませんよ? たっぷりと虐めてあげるますから、覚悟してください」
優しくソレを爪弾く。
「く、ぅん」
椛は身を縮こまらせて痙攣する。
「良いですね、もっと啼いてください。もっと私を喜ばせて」
唾液で濡れた耳元でそう囁き、吐息を吹きかける。
「堪忍してください。勇儀様が起きてしまいます」
「勇儀様はぐっすり寝てらっしゃいますよ。ほら、見てください」

そこまで会話して、文と椛は同時に勇儀を見る。
二人と目が合った勇儀は、気まずそうな表情を一瞬だけ浮かべてから顔を背け、寝返りを打った。
しばらく勇儀を観察した後、二人は密着を解除して、勇儀に近づき耳を欹(そばだ)てた。

「スゥー、スゥー、スゥー」

勇儀が完全に寝ていることを確認する。

「どうやら寝ぼけて起き上がっただけだったようですね」
「なんとか誤魔化せましたね」
「ええ、では続きを」
「させません」

自身に覆いかぶさってきた文の腕を掴み、引き込んで三角締めを極めた。

「何故です? さっきはあんなにも私を優しく受け入れてくれたじゃありませんか!?」
「あの場を取り繕うために合わせただけです」
「私とはただの遊び・・・・・ぐえ」
失神させるつもりで文は首を絞めた。
「ところで文さん」
「は、はい」
文の首を足でロックしながら話しかける。
「“来年のことを言うと鬼が笑う”って言葉がありますが、その言葉の由来をご存知ですか?」
「確か死んだお相撲さんが閻魔様の裁きを受ける話ですよね?」

ある相撲取りが病死して閻魔大王のところまで連れてこられた。
閻魔は相撲取りに問うた『お前は生きている間、何をしていた?』と。
生前、良い行いをしていた者は極楽へ。悪い行いをしていた者は地獄へ行く。
相撲取りは『私は相撲をとって大勢の人を楽しませました』と答えた。
閻魔はその回答を聞き、相撲取りに極楽行きの判決を下した。
その際に閻魔は、鬼の一人と相撲を取るよう命じた。
相撲取りはたいそう強く、鬼を投げ飛ばして勝利した。
その時、鬼の角が折れてしまった。
大事な角を失い泣き止まない鬼に閻魔が『来年になったら新しい角が生えるようにしてやる』と言うと鬼は泣き止んで笑った。



――――― 東方昔話2 来年のことを言うと鬼が笑う ―――――


映姫 「あなたは生前、何か良いことをしましたか? したなら極楽へ行かせましょう」
にとり「スモウレスラーをやって大勢の方たちを楽しませたよ」
映姫 「スモウレスラー? ・・・・・・・まあ良いでしょう。アタナには極楽行きの判決を下します」
にとり「ありがとうございます」
映姫 「これは個人的なお願いなのですが、私にあなたが相撲を取っているところを見せてもらえませんか? ここにいる鬼を相手に」
萃香 「ガオー」
にとり「私は一向にかまわん!!」
映姫 「では早速見せてください」

閻魔の合図とともに取り組みが始まった

にとり「真空跳び膝蹴り!!」
萃香 「やーらーれーたー」
映姫 「なんか反則くさいですが、あなたの相撲、しかと見させていただきました。どうぞ極楽行きの扉へ」

萃香 「えーん、えーん、角が折れたよー」
映姫 「鬼が泣くなんてみっともないですよ」
萃香 「だってよーチャームポイントだぞー? アイデンティティだぞー? えーん、えーん」
映姫 「来年また生える様にしてあげますから泣くのはおよしなさい」
萃香 「マジで? ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
映姫 「怖ッ!!」

――――― 東方昔話2 来年のことを言うと鬼が笑う ―――――



「たしかこんなエピソードですよね?」
「所々間違ってる気がしますが、そんな感じです。どういう仕組みかは知りませんが、閻魔様の権限で鬼の角は再生するようです」
「つまり閻魔様にお願いしたら、勇儀様の角が治ると?」
「文さんは理解力がある、お陰で話しが早くて助かります」

首に極まっている足に力が篭る。

「椛さん、遠まわしに私に『死ね』って言ってます? 椛さんのほど良く引き締まった太ももは天にも昇る気持ちよさですが、それで本当に天に召されるのはちょっと」
「そんな酷いこと言いませんよ。ちょっと臨死体験してきて欲しいだけです」














河童の秘薬を譲り受けたにとりとはたては文達のもとへ急いでいた。

「どあああっ!!」
「にとり!!」
泥で足元がぬかるんでいたのか、にとりは足を滑らせて傾斜を転がり、そのまま下を流れていた川に落ちた。
「ぷはっ、なんたる失態! っていうかこの川、深っ!! そして速い!!」
暗いため分からなかったが、この川は濁流と呼んで差し支えないほど急な流れだった。
「大丈夫!?」
「これを持って先に行ってて!」
にとりは流れに抗いながら、秘薬が入った小さな壷をはたてに投げ渡した。
「絶対にあとで追いつくから!」
「うん。わかった!」
託された壷を握り締め。はたては飛んだ。

その後ろ姿を見届けた後、にとりの体は一瞬で川底まで引きずり込まれた。

(色々と持ってきたのがアダになっちゃったな)
川底を流されながら、恨めしそうに背中のリュックを見る
万が一と思い、工房に立ち寄り使えそうな道具をリュックに詰め込んでいた。

(とりあえず。流れが落ち着くまで流されよう)

河童だから溺死の心配は無い。秘薬ははたてが無事に届けてくれる。
自分の役割は全部終わったので不安は無かった。








「しかし。まさかこの歳でリアルに河童の川流れを経験するとは」
水を滴らせながら陸にあがったにとりは体を振って全身の水気を飛ばす。
服は元々乾きやすい素材で出来ているので、わざわざ脱いで乾かす必要は無かった。
「でも、ここドコ?」
目の前には見知らぬ建物があった。
「でけえ」
人が住む建物というより、公共の施設といった外観である。
振り返ると向こう岸が見えないほど遠くにあった。
「どれだけ流されたんだろう?」
居眠りでもしてしまったのか、と首を捻る。
「とにかく誰かに聞かないと。お邪魔しまーす」
現在地を知るために、にとりは建物の中に入って行った。







「ふー今日も疲れましたね」
楽園の裁判長。四季映姫ヤマザナドゥが凝り固まった自分の肩を叩いていると、法廷の扉の開け放たれた。
「あ、良かった。人がいた」
見知らぬ者が入ってきて、映姫は眉根を寄せた。
「あ、ごめん。ご飯中だった?」
映姫が持つ棒を見ながらにとりは言う。
「これはしゃもじではありません。悔悟の棒です」
「介護? ああ、おじいちゃんが靴を履く時に使う」
「靴べらでもありません。そもそも誰ですかあなたは? 本日はもう閉廷しました、速やかに立ち去りなさい」
「迷っちゃったから道を聞きたいんだ。そしたらすぐに出て行くよ」
「道ですか?」
目の前の者の正体を知るために、浄瑠璃の鏡を向ける。
鏡に河城にとりのこれまでの行動が映しだされた。
(なるほど。星熊勇儀の角を治すための薬を運ぶ途中に事故で)
はたてに秘薬を託した後、濁流に流されている最中に川底の岩で頭を強打して、彼女の魂はここへ流れ着いた。
(死してなお生前の姿のまま彼岸に来るとは。よほど生への執着が強かった・・・いや、この場合。自身が死んでることに気付いていないのがその要因でしょう)
何の前触れもなく友と死に別れてしまった目の前の河童に憐憫を禁じえなかった。
(そういえば、星熊勇儀は地霊殿と深い交流がありましたね)
勇儀は地霊殿で揉め事があると、力を貸してくれる存在だと聞き及んでいる。
映姫には旧地獄跡地である地霊殿を古明地姉妹に押し付け、自分達だけ新しい今の地獄に越してきたことに負い目がある。
(これは彼女らに助力出来る数少ない機会ですね)
勇儀を助けることが、間接的に古明地姉妹の手助けになると判断した映姫は咳払いを一つして、にとりを見た。
「河城にとり」
「なんで私の名前知ってるの? ストーカー?」
「他者のために尽くして迎えたその最後に免じて、角の件は私が取り計らいましょう・・・・・なので安心して輪廻に還りなさ・・・・ってあれ?」
そこにはもう、にとりの姿は無かった




「あの人に聞いても教えてくれそうにないな」
話が長くなりそうな気がして、光学迷彩で外まで逃げてきた。
「他に誰かいないかな」
見渡してみると岸に上がった小舟の上でゴロ寝をしている女性を見つけた。
「お姉さーん」
「アタイのことかい?」
呼びかけられて、女性は気だるそうに体を起こした。
「道に迷って帰り道がわかんなくなっちゃった、この辺の地図とか持ってたら見せて」
「とりあえず向こう側にいけば? 帰りたいならね」
持っている歪な刃の鎌で対岸を指すと、彼女は寝転んだ。
「ありがとう」
軽い体操をしてから、にとりは川に飛び込んだ。

「ウオオオオ! 滝を登り龍となるコイの如く!!」
「三途の川をバタフライで横断しようとする奴はじめて見た」

大きな水飛沫をあげながらにとりは対岸を目指す。

「鱶とか古代魚がいるから気をつけなよー!」

小野塚小町のアドバイスは、必死に泳ぐにとりの耳には届いていなかった。





「ぷはぁ!!」
ようやく足が付く浅瀬までやって来て、にとりは水中から顔を出した。
「あれ? ここ、さっきの場所じゃん」
はたてと別れた地点のすぐ傍だった。
「狐にでも化かされたのかな? まあいいや」
陸に上がり、にとりは椛たちのもとへ向かった。






「完全に元通りだ」
勇儀の額の角が戻ったことで椛は安堵し、胸を撫で下ろす。
この時、文は酸欠で気絶しており、はたての介抱を受けていた。
文はどこか満足気な表情をしていることが、はたてには不思議でならなかった。

「遅くなってごめん!!」
にとりが合流する。
「すごいですねこの薬は。塗った瞬間に新しい角が生えてきたんですよ」
(生える? おかしいな? 薬はくっつける専門のはずなんだけど? まあいっか、治ったんだし)
腑に落ちない点はあったが、目的はちゃんと達成されたので特に気に留めなかった。
「はたてさんから、川に落ちたと聞きましたが大丈夫でしたか?」
河童にこのようなことを聞くのは失礼な気もしたが、友の身を案じてあえて尋ねた。
「平気平気。大丈夫、大丈じょう・・・ぶ?」
にとりは頭に違和感を感じて触れてみる。
「知らない間に大きなタンコブできてるや。ちょっとお皿が割れてないか見てくれない?」

にとりが取った帽子から、見たことも無い形の魚が出てきて、ベチャリと床に落ちた。











【 epilogue 】


星熊勇儀を見送ったその帰り道であった。

「おや」

勇儀が山道の脇に建てられた墓に両手を合わせていた。
「お知り合いですか?」
黙祷を終えて目を開けたところを見計らい声をかけた。
「いいや。恥ずかしい話。この下で眠っている奴の顔も名前も知らない。天狗なのか河童なのかさえわからない」
苦笑いを浮かべつつ、頬を掻いた。
「でも。この下で仲間が眠っていると思うと素通りできなくてね」
聞けば、彼女は山を歩く途中、墓を見かける度に足を止め、そこで手を合わせることにしているらしい。

「身勝手な理由でここを去った身だ。今更手を合わせる資格があるとは思わないけれど」
「そんなことはありませんよ。四天王の勇儀様が手を合わせてくれたのなら、中で眠る者も浮かばれるでしょう」
「ありがとう」

次の分かれ道まで、二人は一緒に歩くことになった。

「お前さん、名前は?」
「犬走椛と申します」
「イヌバシリね。覚えたよ。ところで、昨日の宴会にいた?」
「いいえ、違います」
嘘をついた。
「悪いね。酔うと記憶があやふやになっちまうもんで」
「お気になさらず、白狼天狗なんてみんな同じような顔ですから」
「今の山は昔にくらべてどうだい? お前さんたち天狗が管理しているのだろう? 暮らしやすくなったんじゃないかい?」
「対して変わりませんよ」
最も、鬼が去り天狗社会という組織が確立して明確な秩序が作られたため、治安が以前より良くなったのは事実である。
「今も昔も変わらず。甘い汁を吸ってる奴もいれば、苦虫を噛み潰している奴もいます」
「お前さんはどっち側だい?」
「その中間を上手く立ち回り、利益を貪ろう鼻息を荒くしている犬ッコロです」
「そっか、苦労してるね」
「・・・・・」
皮肉たっぷりに言ってやったつもりなのだが、勇儀に真剣な表情で頷かれたため調子が狂った。


「ところで。道中に平らな石がニ、三個積み上げられてた箇所があったが、あれはなんだい?」
何かわからず、勇儀はそのまま通り過ぎていた。
「あれは白狼天狗の墓なんです」
「あの小さなモノがかい?」
「ええ。墓一つにつき大体十人くらいまとめて入ってます」

鬼が管理していた頃に死んだ白狼天狗はああやって葬られていた。
当時は白狼天狗一匹の命の価値はその程度だった。

「白狼天狗は、今でもそんな扱いのなのかい?」
「多少はマシになりましたよ。アゴで使われるのに変わりありませんが」
「それは『良かった』と言っていいのかね?」

それから先、お互い話題がなくなり無言を歩いた。

しばらく歩くと分かれ道まで辿り着いた。

「付き合わせて悪いね」
「とんでもない。一介の白狼天狗が勇儀様とお話できたのです。一生の思い出になりますよ。道中、お気をつけて」
「ありがとう。今度は萃香も連れてくるよ」

そう言って勇儀はクルリと背を向け、何故か今来た道を戻り始めた。

「あの・・・何かお忘れ物でも?」
「ああ。でっかい忘れ事をしてきた」
「 ? 」
「さっきお前さんが教えてくれたじゃないか。昔の仲間の墓を素通りして地底に帰れるわけないだろう?」
「・・・・・・・」

その言葉に椛は胸が詰まった。“この感覚”を久しく忘れていたような気がした。
「それじゃあ達者で。今度はお前さんとも酒を酌み交わしたいね」
別れ際、椛は『また来てください』とは言わなかった。どうせまた来るとわかっていたし、胸が詰まって上手に言える自信がなかった。

勇儀の後ろ姿をしばらく眺める。

(早速、見落としてる)

たった今、勇儀は道の脇にある白狼天狗の墓石に気付かず通り過ぎた。
あまりの小ささゆえ、強く気を配らなければ墓石すべてを見つけるのは至難の業である。

(ああもうっ)

頭を掻き、椛も勇儀と同じ道を進んだ。同胞の墓参りの案内を買って出るつもりだった。

(せっかく回ってもらうんだ、全部を拝んでもらいましょうか)

時刻はまだ早朝。焦らずとも時間は十分にある。
椛は勇儀の後を追うために歩き出した。
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