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木質の偽造ペレット工場

東方の二次創作SSです。いぢめ・グロ注意

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夢の夢の夢の・・・7 西行寺幽々子編


『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた木製の古ぼけた扉の前に幽々子は立っていた。

「お邪魔するわね」

鍵などは掛かっておらず、扉は簡単に開いた。扉の先は薄暗い回廊がどこまでも続いている。
そんな不気味さ漂う空間に、幽々子は恐れることなく踏み込んだ。

「あー、失礼。止まっていただけますか?」

一瞬だった。何の前触れもなく親友の式、八雲藍が目の前に立ちはだかった。
手を前に突き出して静止を勧告する。

「何故ここに? あなたは最後までこの計画に反対していたではありませんか?」
「だからこそよ。この世界は夢の範疇を大きく超えている。このままでは参加者の全員が取り返しのつかないことになるわ」

そのために危険を承知でやってきた。

「ここに来るのはさぞ苦労したでしょう?」
「そうね、妖夢の目を盗むのは大変だったわ」
「でしょうね。あなたがここに来ることに、彼女が賛成するとは思えない」
「魂の無い紛い物が、あの子を知った風な口で囀(さえず)らないでちょうだい」

本人の人格をトレースしただけの人形を睨みつける。

「紛い物と話す気なんて最初から無いわ。運営者を呼んで来なさい」
「それは出来ません。どうしてもお会いしたいというのなら」
「『ゲームに参加しろ』でしょう?」
「その通りです」
両手を袖に納めて恭(うやうや)しく藍は頭を垂れる。
「しかし生憎と定員オーバーです。どうかお引取りを」
頭を下げたまま続ける。
「ただいま八雲紫、レミリア・スカーレット、蓬莱山輝夜、八坂神奈子、古明地さとり、聖白蓮が参加しております故」
「では誰か一人を開放しなさい。聖白蓮なんてどうかしら? 元々は数合わせとして参加させられたのでしょう」
「少々お待ちを」

藍は目を閉じて、こめかみに指を当てる。
「お待たせしました」
しかしすぐにその姿勢を解いた。

「運営側は、あなたの提案を受理致しました。聖白蓮はファーストステージクリア後、この世界から開放されます」
「そう、なら早く私を案内しなさい」
「承りました」

幽々子の指先が霧散し始める。

「幽々子様をファーストステージに転送しているだけです。ご安心を」

指先から腕、肘と段々と霧散する範囲が広がっていく。

「プレイヤーは基本。すべての記憶をリセットして、ここが夢だと認識してない状態からのスタートなのですが」
藍はどこか歯切れの悪そうだった。
「他のプレイヤーとは違い、あなたはゲームのルールを理解した状態で始めさせていただきます」
「そんなことをしても良いの? ゲームの本分から外れるのではなくて?」
「大体のプレイヤーは既にクリアして待機状態です。幽々子様にはなるべく早く足並みを揃えていただかないと」
「そう。じゃあ有難くそのハンデを貰うわ」
「ただ幽々子様はこの夢の世界の真相を知っおりますので、それに関わる部分の記憶を全て消してのスタートになりますが」
「まあ当然でしょうね」

残ったのは首から上だけ、それも徐々に消え始める。

「まったく。こんな面倒なことになるかもしれないと思ったから、私は最後まで反対したのよ」

そう言い残し、幽々子の姿はその場から完全に消えうせた。







「さて、と」

この場にいるのが自分だけなのを確認した藍は、目の前に扉を一枚出現させる。

扉と開くとそこは八雲紫の夢の中、自宅の台所だった。
紫の部屋までやってきて押入れを開ける。
そこに包丁を持って座っている自分の式の姿があった。
「突然で悪いが、橙には幽々子様の記録者をしてもらいたい。幸い、お前は記録者になれる条件を満たしている」
「…」
主を前にしても瞬き一つせず、マネキンのように動かない橙。
「大役だが、お前なら見事に果たせると信じているぞ」
「…」
「今から、記録者のデータをインストールする」

式の頭に手を触れること数秒。

「気分はどうだい?」
「はい! 大丈夫です!」

先ほどまで微動だにしなかった式が、今は花が咲いたような明るい表情になっている。

藍の手で、彼女に異常が無いことが確認されると、橙の前に扉が現れた。
「それでは行って参ります」
「待ちなさい」
「?」
ドアノブに手を掛けた橙を呼び止める。
「これを付けなさい」
和紙で作られた狐の面と長い金髪のカツラを渡す。
「なぜです?」
「こっちとあっちにNPCの橙が二人存在することマズイからな、あっちでは『名無し記録者』として行動してもらう」
「幽々子さまも二人いますが、それはいいのですか?」
すでに幽々子は紫の夢の中で登場している。
「NPCに限っての話だ。幽々子様はプレイヤーだから、NPCと合わせて二人いても支障は無い」
「そうなんですか」
「ではしっかりな」
「はい、お任せください!」




















※ ※ ※ ※







幽々子は気がつくと自室の布団の中にいた。

「ここは……私の部屋ね」
「それではゲームを続けましょう」
「ッ!?」

真上から声がした。その不意打ちに体をビクリと震わせる。
顔を向けると、狐の面を被った金髪の少女が枕元で正座していた。

「あなた…橙ちゃん?」

服装と声でそう判断する。

「いいえ。今の私は名無し記録者」
「まあ、そういうことにしておきましょうか」
「ルールはご存知ですね?」
「ええ」

頭の中に入っているこの世界の仕組みを呼び起こす。

「これは私が見る夢の中。それで良いのよね?」
「はい」
その内容が正しいかどうかの確認作業を行う。
「橙ちゃん……ここでは名無し記録者と呼べばいいのかしら? あなたが私の死亡数と過去の私の行動を記録しているのよね」
「その通りです」
「そして記録者のあなた以外の人物は、あらかじめプログラミングされた事しか行動できない。間違っている?」
「いいえ、正しいです」
「ありがとう。把握したわ」

自分がさっき交わした八雲藍とのやりとりが妄想でなかったことを確認し安堵する。

「それで。なんで私はこのゲームに参加しているの?」
「その回答にはプロテクトが掛かっているのでお答えできません」

このゲームの仕組みは理解しているが、自分がここにいる経緯が思い出せないでいた。

「ところで、さっきあなたは『ゲームを続けましょう』と言ったわね」
「はい」
「つまり、何度かコンテニューしているのね?」
「その通りです」

枕の下に紙が挟まれていることに気づき、それを取った。




_____________________________________________

『 ハクギョクロウ ノ カイダン ヲ クダレバ アナタ ノ カチ 』

  【やってはいけないリスト】

・演奏の音を聞くな
・飛ぶな
・門以外の場所から外に出るな
・楼観剣に斬られるな
・白楼剣に斬られるな
・妖夢の出したルールを破るな
・四季映姫の土産を食べるな       
・四季映姫に敗北するな


※ ※ ※ ※
_____________________________________________

「白玉楼の階段の一番下まで行けばゲームクリアってことでいいのかしら?」
「その認識で正しいです」
それが幽々子に課せられた勝利条件。
「ここに書かれている事項を行えば、残機が減るのね」
紙の隅に書かれている『※』を指差す。
「そうです。【やってはいけないリスト】の項目はまだそれ以外にもありますのでご注意ください。新しい死因はその都度記載されます」
「ちなみに、これで何回目のコンテニューになるかしら」
「今回が11回目のニューゲームになります」
「ずいぶんと死んだのね。内訳を聞いてもいいかしら?」
「飛んでの死亡が1回。門以外から外に出ようとして1回。四季映姫が8回。プリズムリバー三姉妹が14回。妖夢が16回」
「ここには妖夢と騒霊、閻魔様がいるのね」

登場する者はすべて冥界と縁のある人物だと知った。

そのときだった。

「「「失礼しまーす!」」」

部屋の襖が勢い良く開け放たれた。

「毎度お騒がせしております。プリズムリバー三姉妹です!」
正面に立つ三女のリリカがお辞儀をすると、後ろの姉たちも頭を下げた。
「幽々子さん、本日は演奏会場に白玉楼を使う許可をくださいましてありがとうございます♪」
次女のメルランが陽気が声で礼を言う。
「こちら、本日のプログラムです」
長女のルナサが控えめな声で演奏時間の書かれたチラシを幽々子に渡して、彼女たちは去っていった。
チラシの内容に目を通す。
「15分に一回の間隔で、演奏会があるのね」
紙に『演奏の音を聞くな』という項目があったことを思い出す。
「何かヒントになるものは…」

紙を裏返してみる。


_____________________________________________

・ペンは戸棚の中
・プリズムリバー三姉妹は15分おきに演奏する。演奏時間は1分。その間は耳を塞ぐこと。
・演奏の音はどこに居ても聞こえてくる。
・妖夢は正門→決闘しなければならない。
・映姫様が時計を持っている→ゲームで対戦して勝てばもらえる。場所は応接間
勝ちパターン:囲碁を選択→勝負が始まる前に『五目並べにしたい』と宣言→勝負内容が五目並べになる
       (何も言わなければそのまま囲碁勝負になる。囲碁は勝てる見込み無し。負けると死亡)
       手順→先攻(黒)を取る→1手目:中央に置く→2手目:1手目の右下に置く→
       →3手目:2手目の右隣に置く→4手目:3手目の真上に置く→5手目:4手目の左隣に置く

・妖夢との決闘がはじまると、門が開く
・妖夢は強い




_____________________________________________

すべて幽々子の筆跡だった。

「これは過去の私が書いたものね」
「そうです。幽々子さまは攻略の手がかりを思いつくたび、紙の裏面に記入してました」

紙に書かれている内容は、ゲームを何度やり直しても消えることはない。そのルールを利用した未来の自分への伝達手段だった。

『ペンは戸棚の中』の従い、ペンを戸棚から見つけ出して袖に仕舞う。
部屋を出て、玄関をで靴を履く途中で幽々子は一度振り返った。

「どうしてついて来るの?」
「え? 駄目ですか?」

小鴨のように後をくっついて歩く記録者。

「記録者というのは、全員がそうなの?」
「記録者によっては待機場所が決まっていますが、私は特に決められた立ち位置が用意されていないようなので」
「まあいいわ。好きにしなさい」

常に傍にいてくれた方が、いつでも質問できるから便利だと判断し、同行を許可した。






玄関を出て遠巻きに正門を見る。
紙の裏面に書いてあったように、門の正面で妖夢は正座で瞑想にふけっていた。

妖夢には近づかず、屋敷の周りを散策する。

「私の知る白玉楼とまったく同じね。正直、夢とは思えないほど精巧だわ」
「当然です。幽々子さまの記憶をもとにこの空間は出来ているのですから」
「それもそうね」

建物の外見のほかにも、庭の池や灯篭、植木。全てが幽々子の知っている配置だった。

「どこにさっきの子達はいるのかしら」

幽々子はプリズムリバー三姉妹を探していた。

屋敷の外を半周まわり、ちょうど玄関と正反対の位置に三姉妹の姿を見つけた。
庭の上に特設ステージが設けられ、その上で楽器の調整をしている。

「ああ、あそこにいたのね」

そうわかった直後、次女メルランのラッパの音があたりに響き渡った。





※ ※ ※




「え?」


気がつけば、スタート地点の布団の中だった。

「禁止行動にあったじゃないですか『演奏の音を聞くな』って」

枕元に立つ名無し記録者がそう言った。

「そうだったわね」

姉妹の演奏の音を聞いた瞬間に、問答無用で残機が減ることを理解した。

「う……」

目眩に似た感覚を覚えて、幽々子は頭を押さえた。

治まってから幽々子は紙を見る。

_____________________________________________

・ペンは戸棚の中
・プリズムリバー三姉妹は15分おきに演奏する。演奏時間は1分。その間は耳を塞ぐこと。
・演奏の音はどこに居ても聞こえてくる。
・妖夢は正門→決闘しなければならない。
・映姫様が時計を持っている→ゲームで対戦して勝てばもらえる。場所は応接間
勝ちパターン:囲碁を選択→勝負が始まる前に『五目並べにしたい』と宣言→勝負内容が五目並べになる
       (何も言わなければそのまま囲碁勝負になる。囲碁は勝てる見込み無し。負けると死亡)
       手順→先攻(黒)を取る→1手目:中央に置く→2手目:1手目の右下に置く→
       →3手目:2手目の右隣に置く→4手目:3手目の真上に置く→5手目:4手目の左隣に置く

・妖夢との決闘がはじまると、門が開く
・妖夢は強い




_____________________________________________




『プリズムリバー三姉妹は15分おきに演奏する。演奏時間は1分。その間は耳を塞ぐこと』の項を凝視する。

「じゃあってここに書いている通り、耳を塞いでいれば良いわけね」
「そうです」
「けど、耳を塞げば対処できるとしても、演奏の時間がわからなければどうしようもないわ」

ヒントを得るためにさらに熟読する。

「これって…」

『映姫様が時計を持っている→ゲームで対戦して勝てばもらえる。場所は応接間』と書かれている項目に目をつけた。
「演奏時間はわかっているのだから、時計があれば簡単ね」

チラシを配りにやってきた三姉妹の応対をした後、幽々子は映姫がいるとされている応接間を目指した。








「こんにちは閻魔様」
「ご無沙汰しています幽々子さん。日々の冥界の管理、お疲れ様です」

四季映姫ヤマザナドゥは応接間の上座に座り笑っていた。
普段、彼女が説教をしている場面にしか出くわしたことが無いため、その表情に少し戸惑った。
机を挟んで向かいに座る。

「こちら、お口に合うかわかりませんが」
そう言って映姫は風呂敷を机の上に置いた。
「これはこれはご丁寧に」
受け取ると、自身の隣に置く。
紙に『四季映姫の土産を食べるな』とあったため、包みには触れないようにした。

「暇つぶしも兼ねてゲームをしませんか?」
唐突にそんなことを言い出した。
「ゲームですか?」
「やりますか? やりませんか?」
「どんなゲームですか?」
「やりますか? やりませんか?」
「あの…」
「やりますか? やりませんか?」
同じ表情のまま、同じ言葉を繰り返す。
「やりますか? やりませ…」
「やりますわ閻魔様」
「そうですか。ならば、これで白黒つけましょう」

映姫の右側に囲碁、左側にオセロの盤が出現する。

「お好きな方をお選びください」

幽々子は紙の裏側を見た。

_____________________________________________

・ペンは戸棚の中
・プリズムリバー三姉妹は15分おきに演奏する。演奏時間は1分。その間は耳を塞ぐこと。
・演奏の音はどこに居ても聞こえてくる。
・妖夢は正門→決闘しなければならない。
・映姫様が時計を持っている→ゲームで対戦して勝てばもらえる。場所は応接間
勝ちパターン:囲碁を選択→勝負が始まる前に『五目並べにしたい』と宣言→勝負内容が五目並べになる
       (何も言わなければそのまま囲碁勝負になる。囲碁は勝てる見込み無し。負けると死亡)
       手順→先攻(黒)を取る→1手目:中央に置く→2手目:1手目の右下に置く→
       →3手目:2手目の右隣に置く→4手目:3手目の真上に置く→5手目:4手目の左隣に置く

・妖夢との決闘がはじまると、門が開く
・妖夢は強い




_____________________________________________


(五目並べなら勝てる)

過去の自分を信じて、囲碁の方を指差す。

「囲碁で勝負しましょう」
「わかりました」
「白と黒、どちらが良いですか?」
「黒でお願いします」

幽々子に黒色の碁石が渡される。そして机が取り払われて、そこに碁盤が置かれた。

「この勝負、五目並べにしましょう」

その言葉の後、一瞬だけ映姫の体が硬直した。まるで動作の途中で時間が止ったかのような不自然な静止の仕方だった。

「……五目並べ勝負ですね。かしこまりました、先攻は黒からどうぞ」
五目並べ。白石と黒石を交互に置いていき、先に5個を直線状に並べた方の勝利となるシンプルなルールのボードゲームである。

(えーと、まず一手目は…)

紙に書かれている手順に従って石を置いていくと、幽々子はすんなりと勝利することが出来た。

「おめでとうございます。こちらを差し上げます」

何の飾りっけもない、シンプルなデザインの懐中時計だった。
「ありがとうございま・・・・ッ!!」
受け取った瞬間に、幽々子は咄嗟に耳を塞いだ。
懐中時計の針はもうすぐ15分をさそうとしていた。

時計の針をみて、一分が経過するのを待つ。

「危なかったわ」

残機を無駄遣いせずに済んだことに胸を撫で下ろす。

「それにしても、よくこんな裏技みたいな方法を見つけられたわね」

思わず過去の自分を賞賛したくなる。
「囲碁の対局をする直前に『五目並べならもっと早く勝負がつくのに』と仰られました、そしてこの方法を発見しました」
後ろから映姫と幽々子のやり取りを見ていた橙が補足する。
「これで時間を気にせずに済みそうね」
時計を懐に仕舞い、妖夢の居る門へと向かった。


「妖夢」

瞑想中の従者に呼びかける。

「幽々子様」

妖夢は静かに目を開けた

「そういえば最近、剣の指南を怠っていましたね」
立ち上がると、2本の剣を右手と左手それぞれに持ち、前にさし出した。

「どちらか好きな方をお取りください」

右手に長刀の楼観剣、左手に短刀の白楼剣。

「両方じゃ駄目?」

2本とも掴んで引っ張るが妖夢は離そうとしない。

「どちらか好きな方をお取りください」

楼観剣だけ引くと妖夢はあっさりと手を離して自分の腰に白楼剣を納めた。

「そこに円がありますよね。幽々子様があの中に入り『始め』と仰っていただければ、稽古が始まります」

妖夢は地面に書かれている円を指差す。

「始めと宣言する前に、私に攻撃してはいけませんからね。あ、それと稽古が始まってからは屋敷に入らないでください。あくまでもこの庭が稽古場です」
「わかったわ」

幽々子は円の中に入る。5mほど前には妖夢、その背後には白玉楼の門が聳(そび)え立っていた。
決闘が始まれば、この門が開くらしい。

「これでも妖忌に鍛えられたのよ。見くびってもらっては困るわ」

楼観剣を鞘から抜き、鞘を捨てた。

「あなたは妄想の産物。ならば遠慮なく斬らせてもらうわよ」

まずは正攻法で妖夢に挑むことにした。紙には『妖夢は強い』と書かれているが、どれほどのものか推し量るつもりだった。
柄を左手で握り、右手を刀身に添えて、剣が地面と水平になるように構える。

「始め」

そう宣言したのと同時に突貫。幽々子は右手を刀身から離して、目一杯左手を前に突き出して刺突を繰り出した。
妖夢はまだ抜刀していない。完全な先手だった。
その一撃のために間合いのある長刀を選んだ。

しかし、

「え?」

まるで幽々子がそう仕掛けてくるのかを見越していたかのように、開始の合図と同時に妖夢は身を捻っていた。
刺突が空を切り、両者の身が交差する。
そのすれ違いざま、妖夢の拳骨が幽々子のわき腹を叩いた。
「あぐっ」

それにより幽々子がバランスを崩したたらを踏んだ。剣が重いことがこの時アダになった。
妖夢はこの隙を逃がさず幽々子に斬りかかる。

「くっ」

なんとか受け止めて、鍔迫り合いの体勢になる。
感情の無い無機質な瞳が幽々子を映す。
命のやり取りをする二人のすぐ横では、門は徐々に開きはじめていた。

「半人前と思っていたけど、いつの間にかここまで上達していたのね」
「……」
妖夢の姿をしたキャラクターは答えない。幽々子を斬るべく、ただ剣を前に押す。

「それとも、これは私が見る夢の中だけの話で、現実のあなたはまだまだ半人前なのかしら?」

押し負けて、白楼剣の刃が幽々子の首筋に触れた。






※ ※




「勝てなかった」


布団の中で大きく溜息を吐く。

「うぷっ」

吐き気を覚えて口許を押さえた。妖夢に斬られた喉仏が焼け付くように熱かった。
しかし、それはすぐに治まった。
枕元に立つ狐面の少女を見る。
「橙ちゃん、残りの残機はいくつ?」
「私は名無し記録者です橙ではありません。残機は残り二つです」

記録者は枕の下にあった紙を取り、幽々子に手渡した。
____________________________________________

『 ハクギョクロウ ノ カイダン ヲ クダレバ アナタ ノ カチ 』

  【やってはいけないリスト】

・演奏の音を聞くな
・飛ぶな
・門以外の場所から外に出るな
・楼観剣に斬られるな
・白楼剣に斬られるな
・妖夢の出したルールを破るな
・四季映姫の土産を食べるな
・四季映姫に敗北するな


※ ※
_____________________________________________


「あと二回死んだら、記憶をリセットされるのね?」
「はい」
「じゃあ、今回で妖夢の攻略方法を見つけなければコンティニューさせられそうね」
「攻略方法はプレイヤーの考えを尊重させていただきます。ルールにさえ沿えば問題ないです」
「五月蝿いわね。人の独り言に勝手に入ってこないで。不愉快よ」
少しだけ八つ当たりをしたくなった。
「ごめんなさい」

チラシを配りに来る騒霊達がやってくる前に身を起こして映姫のいる応接間に向かった。







「一度勝つと楽ね」

五目並べであっさりと映姫を負かして懐中時計を受け取る。
演奏の始まる3分前だったため、耳を塞いで演奏の時間が終わるのを待った。

「さて、行きましょうか」

正座して幽々子を待つ妖夢のもとへと向かった。

「幽々子様」

妖夢は静かに目を開けた。

「そういえば最近、剣の指南を怠っていましたね」
立ち上がると、剣を二振り前に差し出した。

今度は先程とは違い、短刀の白楼剣を選んだ。
幽々子は円の中に入る、まだ鞘から剣を抜かない。
正攻法では勝てないとわかったので、違う手を試してみることにした。

「始め」

宣言し、妖夢に背を向け、全速力でその場から逃げ出した。
振り返ると、妖夢は剣を抜いて自身を追いかけてきている。

(これで良い)

妖夢は、この庭全体が稽古場だと口にしていた。屋敷に入らなければ問題は無い。逃げることは禁止してない。

(これで門の前から妖夢が離れる)

何も馬鹿正直に妖夢を倒す必要は無いと考えた。

白玉楼の階段を下りれば勝ちなのだ、妖夢をこうして門から遠ざけて、無防備になった門を潜れば良い。
幸い、この庭は広い。屋敷の周りをグルリと一周できるようになっている。屋敷を中心に円を描くように走れば、また門の前に戻ってくることが出来た。

屋敷の周りを半周してプリズムリバー三姉妹がいるステージの前を通り過ぎる。
慌てて時計を確認した。

(演奏開始まであと5分)

それが幽々子に残された時間だった。
耳を塞ぎながら走れば、妖夢に簡単に追いつかれる。
それまでに階段を下る必要があった。


屋敷の周りを4分の3走ったところで、幽々子の体に異変が起きた。

(まずいわね)

体が重くなるのを感じた。

(普段からジョギングとかしてた方が良かったかしら?)

内心で自身を皮肉った。
人間でいえば『疲労』にあたる現象が、霊である幽々子の身に起きていた。
そうなることを見越して、軽い剣を選んだのだが、効果は薄かったようだ。

(妖夢の方は…)

彼女との距離を確認しようと振り向いた瞬間、鼻先を何かが掠めた。
楼観剣の切っ先だった。

(嘘でしょ)

長刀を自在に振り回し、汗一つかかずに走る妖夢がすぐ背後まで迫っていた。

「やっぱりアナタ、妖夢とは別人みたいね」

そう呟いた途端に2太刀目が来た。
咄嗟に転がって、それを回避する。勢い余って体のあっちこっちを擦りむく。

「痛たた……あ」

顔を上げると自分に切っ先を突きつける妖夢の姿があった。完全に追いつかれた。
尻餅をつく幽々子と剣を構える妖夢。どちらが勝者か一目でわかる。

「もう少しあなたと鬼ごっこをしたかったのだけど」

切っ先を突きつけたまま妖夢は距離を詰める。
せめてもの抵抗にと、尻餅をついた姿勢のまま這いずって後退した。
このとき屋敷の屋根の上で二人の追いかけっこを見物している記録者を見つけたが、今はそれどころではなかった。
1mほど後退すると、すぐ背後にあった灯篭にぶつかり。そこで止められた。

(まともに戦っても駄目、逃げるのも駄目)

正直、この手なら絶対に上手くいくと思っていた。その落胆は大きい。
(ネタ切れね)
この妖夢の欠点を見つけなければ、このゲームはクリアできない。
しかし、この妖夢は万能過ぎた。

妖夢は剣を振りかぶった。
観念して目を閉じる。
振り下ろされた剣から、不自然な音がした。
閉じていた目を恐る恐る開けてみる。

楼観剣が、彼女がもたれていた灯篭にひっかかり止っていた。

「 ? 」

妖夢は再び剣を持ち上げて振りなおす、しかしまた幽々子の背後の灯篭を叩いた。

(これって)

今の妖夢の不自然な動作に一つの光明が見えた気がした。

低い姿勢のまま灯篭の裏側に回りこんでみた。
灯篭に阻まれて剣など当たるはず無いのに、妖夢はまた剣を振った。
何度も何度も、妖夢は灯篭の向こう側にいる幽々子にめがけて腕を振るう。

「もしかして、あなた。障害物が認識できない?」

自分の仮説が正しいのかを確認するためにもう一つ立っている灯篭の裏に回りこんだ。

妖夢は幽々子に方に一直線に向かってきて、幽々子の手前にある灯篭にぶつかった。
それでもなお前進しようと、彼女は膝を灯篭にぶつけ続ける。

「やっぱりそうなのね。あなたには私以外のものが見えていないのね」
猪突猛進なところだけは本物に似ている気がした。
「やはりどんなモノにも欠点は付き物ね」
幽々子は白楼剣の鞘を抜いた。
妖夢の胸の高さ。灯篭は丁度その位置に空間があった。
剣をそこに突き立てればそれでこの戦いは終わる。
「…」
しかし、幽々子はそれ以上踏むこめない。
「本物ではないとわかっていても、流石に抵抗があるわね」

若干のためらいが生じていた。
妖夢の姿をした者を殺すのに迷いがあった。


その時、メルランのラッパの音が聞こえた。

「あ」

自分が持つ残機が1つ減ったのがわかった。
どうしようもない虚無感に包まれながら、幽々子はその身を消滅させた。







「……」


気づけば布団の中だった。

「せっかく、良いところまでいったのに」

しまったと、片手で顔を覆った。

「幽々子さまが白楼剣で妖夢さんの心臓を刺そうとした時、ちょうど十五分が経過しました」
枕元に立つ記録者が解説する。
「すっかり忘れてたわ」

幽々子は戸棚からボールペンを取り、新たに入手した情報を紙に追記した。
_____________________________________________

・ペンは戸棚の中
・プリズムリバー三姉妹は15分おきに演奏する。演奏時間は1分。その間は耳を塞ぐこと。
・演奏の音はどこに居ても聞こえてくる。
・妖夢は正門→決闘しなければならない。
・映姫様が時計を持っている→ゲームで対戦して勝てばもらえる。場所は応接間
勝ちパターン:囲碁を選択→勝負が始まる前に『五目並べにしたい』と宣言→勝負内容が五目並べになる
       (何も言わなければそのまま囲碁勝負になる。囲碁は勝てる見込み無し。負けると死亡)
       手順→先攻(黒)を取る→1手目:中央に置く→2手目:1手目の右下に置く→
       →3手目:2手目の右隣に置く→4手目:3手目の真上に置く→5手目:4手目の左隣に置く

・妖夢との決闘がはじまると、門が開く
・妖夢は強い
・妖夢は障害物(灯篭や石等)を認識できない。それを利用すること←重要



_____________________________________________

「ねえ橙ちゃん」
「名無し記録者です。橙ではありません」
「私ね、今すごく『死にたくない』って思っているの」
「え?」
「もうとっくの昔に死んでるのに、自分の存在が消えてしまうのがものすごく怖いの」
消滅という幽霊にとっての『死』を仮想体験し、その恐怖を幽々子は確かに感じていた。
「おかしいでしょ?」
普段の飄々としている姿が嘘のように、幽々子は縮こまり、力無く笑って見せた。
「残機が減る瞬間の感覚をうっすらと覚えているの。自分の存在が消える感覚というのは、ああもおぞましいモノなのね」
1回目と2回目に残機を減らした時は漠然とした感じだったが、さすがに3度目になると、はっきりとその感覚を認識できた。
思い出すと手の震えが止まらない。
クリアするまでこんな感覚を味わい続けるのは御免だった。
「だからね。今から一生懸命あがくわ。そのためにね、ちょっと醜くなろうと思うの」

幽々子は自分の耳を塞ぎ、目を閉じた。
「毎度お騒がせしております。プリズムリバー三姉妹です!」
丁度チラシを持った三姉妹がやってきた。
「幽々子さん、本日は演奏会場に白玉楼を使う許可をくださいましてありがとうございます♪」
彼女たちを頑なに無視して、幽々子は考えごとを続けた。
「こちら、本日のプログラムです」
「……」
ひたすら無視する。
その間ずっとゲームの攻略方法を考え続けた。

「この手でいきましょう」
三姉妹が去って少しして幽々子は目を開けた。
「何か妙案が?」
「ええ」
幽々子が歩き出したので、記録者もそれに続いた。




真っ先に妖夢のもとへやってきた。
「そういえば最近、剣の指南を怠っていましたね」
何度も聞かされたそのセリフの後。楼観剣を選ぶ。

円に入ることなく、剣を持ったまま屋敷の裏手に回り、姉妹の姿を探した。
剣を抜き、プリズムリバー三姉妹のステージに登る。

「悪いけど今日の演奏会は中止よ」

ヴァイオリンを調整中のルナサの頭に剣を振り下ろす。軽い手ごたえの後、長女の姿は消えた。
返す刀でメリランとその隣にいるリリカを袈裟切りにして、そこには誰もいなくなった。

「はじめからこうしておけば良かったわ」

これで時計の針を気にする必要はなくなった。



「こんにちは閻魔様」
次にやって来たのは映姫のいる応接間だった。
「ご無沙汰しています幽々子さん。日々の冥界の管理、お疲れ様です。こちらお口に合えば良いのですが」
差し出された風呂敷を受け取ると、彼女の目の前でゴミ箱に投げ入れた。
そんなことをされても、映姫は笑顔を崩さず決められている台詞を述べる。
「暇つぶしも兼ねてゲームをしませんか?」
「どうしようかしら」
「やりますか? やりませんか?」
「やりません」

映姫の喉に剣を突き刺す。映姫は仰向けに倒れ、その体を自身の血で染めていった。

「これ、お借りしますね。よいしょ、思ったよりも重いわ」

映姫が持参してきた碁盤を持ち上げる。
縁側まで運び、一度庭に出て物置から妖夢が剪定の際に使用している小さなリヤカーを引っ張ってきて乗せた。

リヤカーを使って運んだ碁盤を門の前に置く。

「うーん、まだ足りないわね」

屋敷の周りをリアカーを引き散策し、大きめの石や持ち上げられるサイズの像などをリアカーに積んでいく。
ある程度の量が溜まったら、門のところまで戻ってきて、妖夢の周りに無造作に並べていく。
3往復するころには、あたりは足場の悪い障害物だらけになっていた。

「これくらいでいいかしら?」

障害物の数に満足した幽々子は円の中に入る。
何度も深呼吸をする。ここが正念場。つまらない失敗で今までの死亡が台無しになる。
心を落ち着くまで何度も繰り返した。

そして覚悟が固まり、冷たい目で妖夢の姿をした人形を睨みつけた。

「始め」

宣言と同時に前に一歩踏み出した妖夢は、足元にあった岩に躓き転んだ。
その隙を見逃さず、幽々子は妖夢を無視して開き始めた門を潜った。

「さよなら、偽物の妖夢」

妖夢は幽々子を追いかけるために立ち上がり門を潜ろうとする。このとき設置されていた碁盤に足を引っ掛けて段差を踏み外した。










「思っていたよりも、ひどい有様ね」

階段の途中、腕や足があらぬ方向へ曲がった妖夢の体を覗き込む。

石段のはじめから中腹までの長い距離を妖夢は転がり落ちた。その結果がこの姿だった。

「それでも剣を離さないのは、流石といったところかしら」

何本もの骨が折れ皮膚を突き破り、指が数本欠損していてもなお剣を握り続ける彼女の最期に幽々子は感服した。

「ずいぶんとエゲつない方法で殺しましたね」
「あら、いたの?」
「たった今追いつきました」

名無し記録者だった。しゃがみこみ妖夢の亡骸に手を合わせる。

「いくら夢とはいえ、好きな者を自らの手で殺すのは、やっぱり嫌でしたか?」
面を被っているため、尋ねてくる記録者の表情は伺えない。
「何が言いたいのかしら?」
「どうして『始め』と言ってすぐ転んだ時に殺さなかったのですか? その方が簡単だったでしょう?」
「答える必要は無いわ」
「やはり、妖夢さんに直接手を下すのが嫌だったのですね」
「……」

記録者に踵を返し、階段を下る。
後は階段の最後の段を踏めば終わる。

「一つ腑に落ちないので聞いてもいいですか?」
記録者が背後から話しかけてきた。
「何かしら?」
「三姉妹は演奏させないために殺す必要があったのはわかります。でも閻魔様は殺す必要があったのでしょうか?」
「碁盤を奪うためよ。生きていたら何か抵抗してくるかもしれないでしょう?」
「わざわざ碁盤なんて使わなくても、庭に転がっている雑貨で十分だったのでは?」
「それもそうね」
「幽々子様は閻魔様に別段恨みを持っていない。なのに無意味に殺した」

殺した動機を橙は知りたがっていた。

「知りたい?」
「はい」
「知りたいのなら、名無し記録者ちゃん。ちょっと私の死亡内訳を教えてくれない」
「わかりました」

データベースにアクセスし始めた瞬間だった。
幽々子は記録者の面の額に剣を刺した。

「ぉぐ!」

短い悲鳴の後、記録者の身が強張る。
剣先は記録者の額を入り、後頭部から出ていた。
「それはね、妖夢だけ死ぬのは不公平だと思ったからよ。私の大好きな妖夢が死ぬのに、閻魔様だけ生き残るなんて許せないわ」
手首を色々な角度に捻り、傷口をえぐる。
「あなたも死になさい。ここは冥界、生きている者の立ち入りはご遠慮願おうかしら」
記録者は過去の記録を尋ねると、データベースにアクセスを開始するため無防備になる。その瞬間を狙った。

「好奇心猫を殺す。と言うけど、その言葉通りね」

しかし、ここで予期せぬ自体が発生した。

―――「アクセス中に不正な処理が行われました。いますぐ解除してください。アクセス中に不正な処理が行われました。いますぐ解除してください」

致命傷を受けてなお喋り続ける記録者に幽々子は眉根を寄せた。

―――「エラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラー」

体を痙攣させながら、その言葉をひたすら繰り返す。
そして唐突に彼女の動きがピタリと止った。

「橙ちゃん?」
壊れた記録者の心配そうな目で覗き込む。

―――「なんということだろう。このままでは彼女が死んでしまう」

唐突にしゃべりだした。それは橙の声ではなかった。
言葉はノイズと砂嵐まじりだったが、なんとか聞き取ることができた。

「もしかしてこの声、紫?」

それは親友の声だった。

―――「助かる見込みは五分五分だった。どちらに傾いてもおかしくない状況だった」

―――「幽々子は、すぐに彼女の代わりを用意するように勧めてきた」

―――「幽々子の言うことは正しい、私が今すべきことのはこの娘の代用品を一刻も早く見つけることだった」

―――「しかし、私は心のどこかでそれを拒んでいた」

―――「彼女の代用品はいても、彼女の代わりはこの世のどこにもいない。そう思ったからだ」

―――「それほどまでに、私は彼女に愛着を持ち過ぎてしまった」

―――「皆には悪いが。私は彼女を見限ることが出来ない。なんとしても助けたかった」

―――「医者は言った『あとは本人の“生きたい”という気持ちだけだ』と」

―――「その通りだ。生きたいという意志があれば臓器は躍動を始める、逆にそれを失えば、臓器は端から腐り始める」

―――「医者は続ける『しかし彼女にはその意思が希薄だ』と。脳波計を見ながらそう言った」

―――「もともと彼女は物事に縛られない性質の持ち主だった。それ故に彼女は様々なモノに無頓着だった」

―――「彼女は死にたがりではないが、生きたがりでもなかった」

―――「自分が死ぬかもしれない冒険を彼女は平気で冒す。異変が起きるたび、そんな危うい場面を何度も見てきた」

―――「彼女なら自分の死すらも容易く受け入れてしまう。それほどまでに自由奔放だった」

―――「その感性が彼女から“生きたい”という意志を奪っていた」

―――「ならばどうしたら良いのか? 簡単だ今一度彼女に“生きたい”という感情を新たに抱かせれば良い」

―――「答えは見つかった。あとはそれを実現させるための手段だ」

―――「幸い。彼女を救いたいと願っているのは私だけではなかった。協力者はたくさんいた」

―――「彼女らとの話し合いの結果。それぞれが持つ技術を駆使して、彼女の深層心理に介入するという方法に決まった」

―――「決まってからは早かった。彼女を救いたいという意志の下に集まった者たちだ、恐ろしい連帯感を持ってそれはすぐ完成した」

―――「これで彼女を救える。早速、実行に移さねば」


「……」

そこで記録者の言葉が止った。

「どうしたの橙ちゃん? 続きは?」
アクセス中に剣を刺したのが原因なのかわからない。

何故かはわからないが、彼女が今話している内容はものすごく重要な事柄である気がした。

「……」

長い沈黙が続く。


しばらくして、ようやく続きが始まった。


―――「なんということだろう。なんということだろう。なんということだろう」

その声は焦燥感に満ちていた。

―――「問題が発生した。問題が発生した」

―――「バグなのかエラーなのかわからない。それとも第三者の介入か? それとも協力者の誰かがミスをしたのか?」

―――「システムが次々書き換えられていく。彼女を救うためにみんなで組み上げた世界が汚染されていく」

―――「解析、駄目。分析、駄目。削除、駄目。バックアップデータの復元、駄目。もう全部間に合わない」

―――「どういうことだ、どういうことだ。原因は何だ? 記録保存構築再生、探せ探せ探せ探せ探せ探せ探せ探せ探せ………………ミツケタ」

―――「……」

再び、記録者は黙りこくった。

「一体何があったの紫!? ねえ答えて!」

記録者の両肩を掴み、激しく揺さぶった。

「続きを教えて頂戴! アナタは何を見たの!?」

―――「ゲームを始めよう」

「紫?」

―――「きっと悲惨な道中になるだろう」

―――「きっと挫折の連続だろう」

―――「それでもやろう」


その言葉の後、額に風穴の開いた記録者は倒れ屍と化した。

「何の話かはわからない、でもきっとこれは重要な何か」

今、自分は事件の発端、そのブラックボックスに触れている。そんな確信があった。

「とにかく、このことだけは絶対に……ぇ?」

足に違和感を感じた。下を見ると、ふくらはぎを白楼剣が斬りつけていた。

「どうして?」

階段を見上げる。妖夢の手から剣が剥がれ、それが自分のところまで転がってきたのだ。それが足を傷つけた。

禁止行動の中に『白楼剣に斬られるな』がある。

「そんな、嘘、嫌よ、ここまで来て。こんな奇跡、二度と…」



【 GAME OVER 】 → 【 CONTINUE 】








「システムを修復。再起動」

幽々子の体がスタート地点である布団の中に戻されると、階段で倒れていた記録者は体を起こした。

その手には紙が一枚握られている。

_____________________________________________

・ペンは戸棚の中
・プリズムリバー三姉妹の演奏は1分。その間は耳を塞ぐこと。
・演奏の音はどこに居ても聞こえてくる。
・妖夢は正門→決闘しなければならない。
・映姫様が時計を持っている→ゲームで対戦して勝てばもらえる。場所は応接間
勝ちパターン:囲碁を選択→勝負が始まる前に『五目並べにしたい』と宣言→勝負内容が五目並べになる
       (何も言わなければそのまま囲碁勝負になる。囲碁は勝てる見込み無し。負けると死亡)
       手順→先攻(黒)を取る→1手目:中央に置く→2手目:1手目の右下に置く→
       →3手目:2手目の右隣に置く→4手目:3手目の真上に置く→5手目:4手目の左隣に置く

・妖夢との決闘がはじまると、門が開く

・妖夢は障害物(灯篭や石等)を認識できない。それを利用すること←重要



_____________________________________________



「これなら、次あたりでクリアできそうですね」

幼い声でそう漏らした。









■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



博麗神社の境内に藍が降り立つ。
神社の階段に腰掛ける少女を見つけ、その真横までやってくる。

「先ほど、西行寺幽々子がファーストステージをクリアしたと記録者から報告がありました」
「知ってる。ここで見てたわ」
気力の無い声で少女は答えた。
「これで晴れて全員ファーストステージクリアです」
「あっそう」
「では、組み合わせを決めてください」
「考えるのがメンド臭いわ」
「それでしたらクジなどいかがでしょうか?」
「じゃあそれで良いわ」
「かしこまりました」

藍が掌を上に向けると、そこに箱が一つ現れた。

「では引いてください」
少女に穴の空いた箱を渡す。
「アンタが引けばいいじゃない」
「そうはいきません。運営者のアナタが引かねば意味がありませんので」
「ったく」

乱雑に紙を掴み取り出した。
それを藍が読み上げる。

「ふむ。紫と幽々子。レミリアと輝夜。神奈子とさとり。なかなか面白い組み合わせですね」
「知らないわよ。ランダムでそうなったんでしょう」
「いえいえ。わかりませんよ。ここはあなた様の夢の中。知らず知らずのうちに、すべてが自分の思い通りなんて良くある事」
「よく喋る人工知能ね。消されたいの?」
「これは失言でした」

膝を突き、傅(かしず)くことで謝罪の意を表す。しかし、その表情に焦りは無い。

「アンタ紫の記録者なんでしょ? さっさと戻ったら」
「御意」

藍はその姿勢から宙返りすると、その姿はどこにもなかった。

「気がついたらいきなり運営者だの、夢の世界だの、セカンドステージだの……意味がわからないわ」

博麗霊夢は一人、小さく溜息を吐いた。
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コメント

木質さんが書いてたとは・・・・・・
今回も面白かったです。

  • 2011/11/07(月) 01:01:20 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

> 木質さんが書いてたとは・・・・・・
> 今回も面白かったです。

ありがとうございます。
時間は掛かるかもしれませんが、この話を終わりまで持って行きたいと思ってます。

  • 2011/11/07(月) 20:52:56 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

今回も素晴らしいお話でした。
特に「名なし記録者に剣を突き立ててからの出来事、事の真相に迫る欠片に肉薄しながらもあっけ無く死んだ幽々子の描写には嗜虐心をくすぐられ、含み笑いを禁じえませんでした。
紫編でも感じましたが、普段圧倒的で且つ飄々とした者が慌てふためく様や焦燥する様は最高ですね。
次回も期待してお待ちしております。

  • 2011/11/10(木) 22:25:37 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

コメントありがとうございます。
まったくもって同感です。
普段の時は、全てを知っているような素振りで高みの見物を気取るキャラが
地を這う状況に陥るのを見るのは、ある種の快感です。
次回も頑張ります。

> 今回も素晴らしいお話でした。
> 特に「名なし記録者に剣を突き立ててからの出来事、事の真相に迫る欠片に肉薄しながらもあっけ無く死んだ幽々子の描写には嗜虐心をくすぐられ、含み笑いを禁じえませんでした。
> 紫編でも感じましたが、普段圧倒的で且つ飄々とした者が慌てふためく様や焦燥する様は最高ですね。
> 次回も期待してお待ちしております。

  • 2011/11/12(土) 19:33:25 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

いぢめスレからやってきました。
面白いと思って何度も何度も読み返していた作品のほとんどが木質さんだったのが驚きです。特に妖夢vs椛は猿のように読んでました。
この夢のシリーズも毎回いつも楽しみに待ってます。こんなに結末を予想したくなる作品もひさびさです。
そして今回の話を読むまで幽々子が剣を使えるということをすっかり忘れてました。いつも蝶を飛ばしてるイメージだったので。
運営者たる霊夢が自分の在り方を理解してない・・?フムフム・・。

  • 2012/03/21(水) 16:34:13 |
  • URL |
  • 幸白ペンギン #-
  • [ 編集 ]

Re:

幸白ペンギン様

コメントありがとうございます。
いぢめスレの方まで読んでくださってとても嬉しいです。
夢のシリーズの更新が不定期なものになってしまい、大変申し訳ありません。
これからもSSは書き続けるので、気長に待っていただけると助かります。

>いぢめスレからやってきました。
>面白いと思って何度も何度も読み返していた作品のほとんどが木質さんだったのが驚きです。特に妖夢vs椛は猿のように読んでました。
>この夢のシリーズも毎回いつも楽しみに待ってます。こんなに結末を予想したくなる作品もひさびさです。
>そして今回の話を読むまで幽々子が剣を使えるということをすっかり忘れてました。いつも蝶を飛ばしてるイメージだったので。
>運営者たる霊夢が自分の在り方を理解してない・・?フムフム・・。

  • 2012/03/21(水) 21:02:13 |
  • URL |
  • 木質 #X.Av9vec
  • [ 編集 ]

産廃で木質さんの作品を知り、投稿なさった作品を読みつくしたところで産廃以外の作品を求めて辿り着きました。
そしてこのシリーズに夢中になり、もっと早く知りたかったと後悔する気持ちと、間髪入れずにまとめ読みできた幸せを同時に味わっております。
個人的にはレミリア編が最高でした。木質さんの描く、外道だけど情けないレミリアと、悲惨だけどなぜかカリスマ漂うフランちゃんの凸凹姉妹が好きです。

木質さんの作品はコメディもシリアスもさでずむもハイクオリティですが、サイコスリラーもいけるとは……ただ脱帽です。
つづき、読める日を楽しみにしていますね!

  • 2013/03/13(水) 21:54:41 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
この話に出てくるスカーレット姉妹は未だに私の中でお気に入りです。
続きは……とても気長に待っていていただけると嬉しいです。
わざわざ感想をくださってありがとうございます。非常に嬉しいです。

  • 2013/03/14(木) 23:14:51 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

いぢめにあるssしかまだ私は読んでないのですが、読んだものは全ておもしろかったです。
文章が読みやすいしストーリーも読んだことがないようなものばかりでとても楽しかったです
そしてこの話の続きも他のあなたのssを読みながらゆっくり待たせていただきます。
これからも応援しています

  • 2013/07/12(金) 16:52:16 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

> いぢめにあるssしかまだ私は読んでないのですが、読んだものは全ておもしろかったです。
> 文章が読みやすいしストーリーも読んだことがないようなものばかりでとても楽しかったです
> そしてこの話の続きも他のあなたのssを読みながらゆっくり待たせていただきます。
> これからも応援しています

ありがとうございます。
なるべく「わかりやすい文章」かつ「今まで誰も書いた事のない話にしたい」と考えながら書いている自分にとって、非常にありがたいお言葉です。

話の続きを気長に待たせることになってしまい大変申し訳ありません。

  • 2013/07/12(金) 23:11:31 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

この回で、この夢の秘密が見えた気がする…
いじめというカテゴリを超えたストーリー性がおもしろいですね。

  • 2013/09/04(水) 18:26:37 |
  • URL |
  • nanasi #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

nanasiさん

ありがとうございます!
更新がここで止まってしまい申し訳ありません。

  • 2013/09/05(木) 01:12:29 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

読んでくださってありがとうございます。
コメントまでいただき、本当に励みになります。
中途半端なところで止まっていて申し訳ありません。

続き、いつか書かねば…


> やっとここまで読めました!
> てか、完成度高すぎでしょ!?
> もう、この作品
> 売れるんじゃないですか!
> 本当に、読むたび読むたび続きが気になって気になって…
> 更新待ってます!がんばってちょ!

  • 2014/09/03(水) 22:49:10 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

急に読みたくなって久々に読みにきました!やっぱり凄い面白いですね!早く続編が読みたいです…!

  • 2015/05/31(日) 17:36:33 |
  • URL |
  • 名無し #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

中途半端なところで終わっていて、本当に申し訳ないです。

> 急に読みたくなって久々に読みにきました!やっぱり凄い面白いですね!早く続編が読みたいです…!

  • 2015/05/31(日) 22:51:24 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

続編待ってます、遅筆で構わないのでいつか全部読みたいな

  • 2015/10/29(木) 22:01:44 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

いじめスレの方から来ました。
こりゃ最後にらんしゃまと喋ってたのは霊夢かなー、と踏んでます。
ちなみに好きなやつはさとりんとひじりんの奴ですー

  • 2016/02/11(木) 21:57:14 |
  • URL |
  • 金平糖 #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

金平糖さん

読んでくださってありがとうございます。
おっしゃる通り、最後は藍と霊夢の会話になっております。

更新が止まっており、申し訳ないです。

  • 2016/02/12(金) 20:39:40 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

何回も読みたくなり読めば読むほど話に引き込まれます、霊夢に何かあってゲームをすることになったのかな?続きを書くのが億劫になってしまったなどであればこのコメントはただの迷惑にしかならないかもしれないけど貴方様が書くお話を楽しみにしてる者がいることが伝われば幸いです。続き何年でも待ち続けますね。

  • 2017/02/17(金) 17:51:28 |
  • URL |
  • クラン #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

クランさん
読んでくださりありがとうございます。
現在、オリジナルSSに挑戦中で、東方の方が滞ってしまい申し訳ありません。
夢の夢のシリーズの続きの発表は、今のところ未定です。
せっかく続きをご要望されているのに、本当にすみません。

  • 2017/02/18(土) 11:11:26 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

木質さんの作品が好きで過去作品を読み直したり、気がついた時にここをチェックしに来たりしてます。
二次創作はどこかの賞に投稿するわけにもいかないので、作家を目指すのであれば練習にしかならない(それも、一本書くのでも数ヶ月かかる)ので、書いてくれとはとても言えませんが・・・
それでもファンはいます。
気長に待ちます。

Re: タイトルなし

乙杯さん
気にかけてくださいましてありがとうございます。そして長らくの期間、東方SSを書いておらず申し訳ありません。
現在、オリジナルSS作成に集中しており、それが一区切りついたらまた、という気持ちはあります。
コメントをくださいまして本当にありがとうございました。

  • 2017/10/15(日) 17:33:13 |
  • URL |
  • 木質 #-
  • [ 編集 ]

プレッシャーをかけるつもりは全くなく、無理に書いてもらうことはありません。ファンがいるということを伝えたかったのです。
オリジナルSS楽しみにしています。

  • 2017/10/29(日) 17:00:12 |
  • URL |
  • 乙杯 #-
  • [ 編集 ]

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